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後方腕組み師匠面(ししょうづら)しているだけの俺が、実は世界最強の剣聖だった件  作者: 街角のコータロー
2章 北限の聖域

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【幕間:女子達の戦い、飽くなき探求者】

アイゼンベルク辺境伯邸の一角、天蓋付きのベッドと甘い香香が漂うベラドンナの私室。


そこは今、男禁制の「美容教室」へと変貌していた。


「さあ、淑女の皆様。美しさは剣よりも鋭い武器になるのよ? 本日はワタシが、貴女たちの魅力を最大限に引き出してあげるわ」


 ベラドンナが妖艶に微笑みながら、卓上に並べたのは見たこともないような化粧瓶や刷毛の数々。


参加者はミラ、リナ、そして――。


「……うぅぅ。……何故、それがしがこのような目に……。これは何の修行なのですか、ベラドンナ殿……」


 部屋の隅で、置物のように固まっているのはシオンだ。


彼女は無理やり連れてこられた挙句、ベラドンナによって「本日のモデル」に指名されていた。


「修行だなんて人聞きが悪いわぁ。シオン、貴女は素材が良いんだから、少し磨くだけでダイヤモンドになるのよ。……さあ、大人しく座りなさい?」


「……御意。……いや、これは主君の命令ではないはず……ああっ、顔を触らないでいただきたい!」


 意気消沈し、されるがままのシオン。


ベラドンナの手は魔法のように素早く、シオンの凛々しい眉を整え、瞳に輝きを与え、唇に薄紅を差していく。


 数十分後。


「はい、完成。……さあ、鏡を見てごらんなさい?」


 ベラドンナに促され、シオンはおそるおそる手鏡を覗き込んだ。


 そこに映っていたのは、いつもの「アルドの弟子」としての厳しい顔ではなかった。


 切れ長の瞳は伏せ目がちながらも華やかに彩られ、凛とした佇まいの中に、吸い込まれるような色香が宿っている。


「……ふむ? ……意外と、いいのでは……?」


 シオンの口から、無意識にそんな言葉が漏れた。


 武骨な剣士として生きてきた彼女の中に、今まで眠っていた「乙女心」が、ほんの少しだけ目を覚ます。


「わぁっ! シオンさん、すごい!! すっごく綺麗!!」


 横で見ていたリナが、花が咲いたような笑顔で駆け寄った。

 

「いつものシオンさんも格好良くて大好きだけど、今のシオンさんは、なんだかお姫様みたい! 勇者様が助けに来ちゃうくらい素敵だよ!」


「お、お姫様……。勇者……」


 リナの真っ直ぐな称賛に、シオンは満更でもない様子で頬を微かに染める。


 そんな二人を、ベラドンナはまるで妹たちを見守る姉のような、穏やかで温かい微笑みを浮かべて見つめていた。


「ふふ、そうね。シオン、貴女のその美しさは、きっと誰かさんにとって最高の『致命傷』になるはずよ?」


「……? 誰を斬るのですか、ベラドンナ殿」


「……もう、そういうところも可愛いわねぇ」


 一方、その様子を見ていたミラの瞳には、激しい対抗心(?)の炎が燃え上がっていた。


「……そうですわ! 美しさは武器! シオンに負けていられませんわ!!」


 ミラはベラドンナの前に身を乗り出し、机をドンと叩いた。


「ベラドンナ! ワタクシもお願いしますわ! 誰よりも美しく、誰よりも気高く……! そして、あのアルド様を今度こそ骨抜きにしますわよーーーっ!!」


「はいはい、お嬢様。お任せあれ」


 ベラドンナの指導のもと、ミラは鏡に向かって「微笑みの角度」や「恥じらいの仕草」を猛特訓し始めた。


「(……ベラドンナのアドバイスによれば、ここで、こう……モゴモゴ……)」


 またしても自分の想像の中でアルドと手が触れ合ったり、見つめ合ったりしてしまい、本番前から顔を真っ赤にして口を動かすミラ。


「……お兄さん、びっくりしちゃうかもね」


 リナがクスクスと笑い、シオンは鏡の中の自分をもう一度見つめ、「たまには、こういうのも悪くない……」と小さく呟く。


 アルドが知らないところで、女子たちの「戦い」は着実に激化していた。


 美しく磨き上げられた彼女たちが、次にアルドと顔を合わせる時、鈍感な村人の青年がどのような反応を見せるのか。


 甘い香りに包まれた美容教室は、ミラの気合に満ちた宣言と共に、賑やかに幕を閉じるのだった。



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