闘いの果てに
剣を構えたまま両者は少しの間睨み合いました。じりじりと間合いを詰めたり、離れたりしながら、お互いの出方を探っているようでした。両者を中心に張り詰めた空気がその場を支配しました。
甲冑の者は剣を下段に構え、防具のない魔王は抱えるように剣を構えました。
果ての見えない緊張の空気を破り、先に動いたのは甲冑の者でした。素早い踏み込みで、下段から斜め上に切るように剣を振るいました。
魔王はそれを横になぎ払い、続く二打目を柄の近くて弾きました。
さすがは魔剣デアボロス、伝説の通りアルスの剣を受けても微動たりともしませんでした。
魔王は返す様に斜め上から切り落とし、甲冑の者はそれを上段で流し、そのまま逆の方向から切り落とし、相手の胸に向かって突きを繰り出しました。
防具のない魔王は若干不利でしたが、魔族特有の反射神経で切っ先を躱し、身を沈み込ませて逆に突き上げました。
甲冑の者はそれを横になぎ払い、ステップを踏んで斜め横に逃れました。
息の詰まるような闘いでした。これらのことが数秒の間に行われ、尚、両者傷一つ付かないのはまさに奇跡と言って良いものでした。それは既に剣の腕前の問題ではなく、自分は生き残り、相手は徹底的に打ちのめす覚悟から出てくるものでした。捨て身のようで、冷静さを失った方が負けるのを両者が良く理解しているためでした。
双方の剣は既に数合切り結んでいましたが、剣が合わさるたびにお互いの聖力と魔力のためか激しい火花が飛び散りました。
再び甲冑の者は下段に構え、魔王も剣を抱えるように構えました。
またも甲冑の者が先に動き、下からなぎ払うように剣を振るい、魔王がそれを横になぎ払ったところで、返すように斜め上からの切り落とし、それを魔王が受けたところで、追い突き、魔王が身を躱したところで下段に蹴りを放ちました。
下段蹴りが綺麗に決まり、魔王は足払いを受けた格好になり、地面に叩きつけられました。魔剣デアボロスは手から離れ、その首に聖剣アルスが突きつけられました。
地面に押しつけられながらも魔王は相手をきっと睨み付けました。
勝負の行方を固唾を飲んで見つめていた魔族達は、魔王が剣を突きつけられたのを見て、前に動き出そうとしました。しかし、それを感付いた甲冑の者がさらに剣の切っ先を魔王の喉元に突きつけると、皆固まって動かなくなりました。
相手を睨み付けていた魔王でしたが、自分が負けたのを悟って、抵抗をやめて目を伏せて言いました。
「私の負けだ。好きなようにするが良い。私の命はお前の物だ。しかし、要求できる立場ではないが、他の者達の命はどうか見逃して欲しい。責めは私一人にしてくれ。頼む。」
これだけ言うと、仰向けになったまま手を広げ、静かに目を瞑りました。
(自分は死ぬのか)
喉元に突きつけられた剣にさらに圧が加わりました。
そして最後に脳裏に浮かんだのは、不本意にもある女性の姿でした。
(マリア…)
「その言葉、確と聞いたぞ。」
甲冑の者の声が響き、さらに剣に圧が込められて行きました。




