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天使の1ページ  作者: もっち
本編
80/82

《お願い 後編》

《#42 お願い 後編》



ゆっくりと開けられたドアの向こう側に立っていた人物。その人を見た瞬間、俺は目を大きく見開いた。

ここの制服、そして立ち姿から脳裏をかすかに過る記憶の断片。


「あんたは・・・確かあの時の――」


そうだ、篠崎と鈴が模擬戦をしていた際、鷹織さんと一緒に監査ルームに入ってきた人だ。

青波の制服を纏っている至って普通の学生にも見えるがあの場に居たのだからこの人も神岸グループ・・・特機の関係者であることは明白だろう。

ここの研究員か、もしくは俺たちのように神器関係者。個人的には後者の気がしてならない。どちらにせよ俺にとっては名前を含めて見知らぬ存在なのは間違いないか。


「藍川、孝宏は仮にも3年生だ。あんたなんて言い方はやめておけ」

「えっ?」


櫻井に言われて襟を見てみればそこには彼の言う通り3年のみがつけている校章のようなバッジが付けれており、俺は席を立って慌てて頭を下げた。


「あ、すいませんでした!」


まさか上級生だったとは!

俺自身が上下関係に特別厳しいつもりは無いのだが流石に「あんた」は言い過ぎだろう。恥ずかしさと申し訳なさで全身が熱くなる。

せめて鷹織さんのようにこの世界で知らない人間などいないレベルの人なら間違えようもなかったのだが・・・・言い訳か。

しかしそんな俺の焦燥感とは異なり孝宏さんはアハハと軽く笑って対応しつつこちらに近寄る。


「いいよいいよ、そんなわざわざ敬語なんて使わなくて。僕としてもそっちの方が付き合いやすいしね」


そう言われて恐る恐る頭を上げた俺に孝宏さんは一際眩しい笑顔で微笑みながら手を差し出していた。


「あらためて初めまして。鈴の神器“エンシェント”の(オーナー)をやってます、八代孝宏(やしろたかひろ)です」

「ど、どうもこちらこそ・・・!

俺は――藍川弘行。白桜の契約者(マスター)・・です。(オーナー)はこっちの櫻井連雀」

「っ!

・・・お初お目にかかります、八代孝宏様。私は白桜の(オーナー)の天使、櫻井連雀といいます、どうかよろしくお願いします」


一瞬驚いたかと思うと突然普段からは想像できない声音と口調で自己紹介を済ませる連雀。一体なにが起きたのか不明だが普段からこうであったらどれだけ楽だろうか・・・!

わざわざ八代孝宏様、なんてフルネームで―――八代?

八代――どこか聞き覚えがある。いや、この人とは初対面も同然だ。にも関わらず初めて聞いたものじゃない気がするのはどうしてだ?。


「うん。藍川くんと・・・櫻井さんだね、よろしく」


差し出された手に自分達がまだ挨拶中であったことを思い出し、その手をおずおずと握りながら挨拶を済ませると、奥で引き出しを漁っていた櫻井が何かを見つけたといった声を出して立ち上がり両手でそれを抱えて机に向かって放り投げた。


「よっと!

ま、細かい挨拶は後でいいとして・・・孝弘、明日皆で出かけるつもりなんだがどうする?」


おい、俺に忠告したお前が真っ先に呼び捨てとはどういう了見だコラ。


「え、明日・・・?」

「あぁ!明日だ!」

「それは・・・また唐突だねアハハ・・・」


やっぱり普通ならこういう反応するよな・・・。

櫻井が親指を立ててまるで悪びれる様子もなく即答すると孝宏さんは若干絶句気味に反応しながらも喜んでいいのか叱るべきなのかわからず、乾いた笑いを浮かべつつやがて手を顎に当てながら考えこむ。


「ん~・・・僕としては鈴が行くなら行こうかな?」

「だってよ鈴」

「ふ~ん、じゃあ行くか」

「結構適当だな鈴・・・」


他の皆は青波の防衛や使徒の襲撃を予想して意見しているというのに彼女はまるで興味が無さそうに欠伸混じりに返事をする。

鮎菜に反論した時にはもうちょっと物事は深く、現実的な考え方を持っていると思っていたのだが・・・どうやら自分の思った通りに生きている、といった方が正しいようだ。

それに比べてオーナーの孝宏さんは対照的に礼儀正しく、口汚い様子もない。まさしく上級生という肩書きに相応しい。なにがどうなったらこんな2人が契約するのだろう。


「別に・・・殺し(しごと)もなくて、ここを守る必要がないなら好き勝手にやるってだけよ」


さっきとは変わって妙に刺のある言い方をするな。

すると見かねた孝宏さんが足を組みながら無愛想に座る鈴の傍に近寄って彼女を咎めた。


「鈴。僕たちだって神岸に匿ってもらっている身だ、そんな言い方はよくない」

「・・・・・・ふん」


妙に不機嫌な反応に俺たちは揃って周りと視線を交わすが解答などでる筈もなく、どう反応したらいいのか分からない空気になってしまう。


「・・じゃあ孝宏自身はどうなんだよ」

「僕?

僕は鈴が行きたいなら行くけど・・・?」

「はぁ・・・・・あっそ」


呆れた、とでも言うように深くため息をつく鈴と困惑する孝宏さん。

なんだ、もしや契約者同士だというのに相性でも悪いのか?ますます契約した理由が分からない。


「待ってくれ鈴、僕は――」

「もういいっ、どっか行ってよっ!!」


誤解を与えたと思った孝宏さんが鈴の肩へ手を伸ばした矢先、鈴が堪りかねたように叫んでその手は寸前で止まる。

隣に居る手前俺の位置からでは鈴の表情をハッキリと伺うことはできないが、言い方からして怒っているのは明白だった。しかしなんの脈絡もなく怒り出すとはどういうことだ。少なくとも俺には鈴の沸点が読めん。


まぁ、一応・・・一応女の子だし、分からくても無理はない。俺とて長い付き合いの筈の鮎菜の怒りのボーダーラインは理解できていないのだし。

とは言っても「どっか行け」は言いすぎだ。


「・・・・分かった」


ところが言われた本人の孝宏さんは表情こそ悲しげだったものの決して言い返さず、視線だけを櫻井に向けて「鈴を頼みます」とでも言うように軽く頭を下げると静寂に包まれた部屋をゆっくりと去っていく。


「失礼しました」


ドアの前で一度振り返り、最後まで律儀に挨拶を済ませて部屋をあとにした。


「・・・・・・・・・おい鈴。

前にも言ったが自分の神器の(オーナー)は大切にしろ。今は先輩が我慢してるから大丈夫だとしても人には限界がある」


反論せず自ら去ったというのに、それを強要した鈴の態度は変わる様子を見せなかったが流石に見かねたのだろう、副会長が鋭い視線とそれに負けない威圧的な声で釘を刺す。

そりゃまぁあんな光景見せたらこの人が黙っている訳もない。以前から、という言葉から副会長の前で今のやり取りが過去にもあったこと自体驚きだが、むしろ何度もこんな目に遭わされてキレない孝宏さんの精神に感服する。俺ならマジギレしてても不思議じゃない。

それに比べて咎められた本人は視線すら副会長に向けず、ただ自分の手元だけを見ながら静かに語りだした。


「はっ、孝宏がキレるなんてあり得ないよ。

ただ他人の願いや言葉ばかり尊重して・・・あいつには自分の意思を貫くつもりなんて端からないんだ。だから今だって何も言わずに退室したでしょ?」

「それなら・・・」

「?

鮎菜?」

「それなら・・・・尚更、笹川さんが理解してあげなきゃダメじゃないですか!」

「き、如月?」


皆が黙って鈴の言葉を聞いていた中で声を荒げながら席を立ったのは鮎菜だった。


「はぁ?いきなりなんなのよ」

「八代先輩が自分よりも他人を優先する人だって知ってるなら笹川さんが先輩を支えるべきって言ったんです!」


明らかに不服そうに鮎菜を睨んだ鈴だったが彼女はそれに負けない強い瞳で睨み返す。


「貴女だって先輩の性格が危険だってことは分かってるんでしょう!?

神器の契約で結ばれてるなら、誰よりも笹川さんが先輩を気にかけてあげるべきです!」

「一々カンに障る言い方ばっかりするわねアンタ・・・

神器の契約者でもない奴に契約者と主の関係について偉そうに言われる筋合いはないんだけど?」


今にも飛びかかりそうな鈴にも臆することのない鮎菜の言葉は批判や怒り、というよりなにかを必死に訴えているように感じられるが模擬戦前のやり取りといい既にひと悶着あった後では素直に届く筈もない。また伝える側も熱が入り過ぎていて相手の事情を汲んでおらず、両者の視線の交錯の間では見えない火花が散っていた。

そもそも鮎菜とてどうしてそこまで鈴と孝宏さん・・・・いや、八代先輩の関係に首を突っ込みたがるのか分からない。


「まぁまぁ・・・2人とも、お互い敵じゃあないんだしさ。ここで言い争ったって何も解決しないじゃん?

ここはもうちっと・・・その、穏便に・・・・・・いこうぜ・・?」


この空気に耐えられなくなった響真が愛想笑いを浮かべながら場を収めようと試みるが後半の言葉は彼女等の視線に圧されて小さく、か細いものになっていた。


(ひでぇな・・・まさか鮎菜まで響真を攻撃するとは)


正直同情するぞ。

あ、すいません・・・などと呟きつつ引き下がる彼から視線を鮎菜へと移すが本人は全く気付く素振りも見せず鈴と睨み合っており、もはや他人が入り込む余地などないと言わんばかりのオーラを醸しているように感じられる。こいつがここまで本気で怒っている(?)のは本当に久しぶりだ。普通に怒る分なら何度も見ているし。主に掃除や片付けの際に、だが。


そういえば怒るといえば・・・昨日の件は許してもらえたのだろうか?

もう何度も説明しているが櫛名田沙世から手紙を託されたあとに使徒との遭遇を考えて急いで戻ってきた俺は―――

――櫛名田?


「――あっ」

「「「あ?」」」


響真がやられたのを境に誰もが傍観に徹して静寂に包まれていた部屋に俺の声が響き、皆が俺に注目する。しかし当の俺としてはそんなことよりももっと重大なことを失念していた事実を思い出してそれどころではなかった。


#42 お願い 後編 完


《#43 家族 前編》

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