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システム=神  作者: 橿倪・クレナイ
インフェルニティ第一端末
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第4アクセス‐‐‐嫌な仕事

 映っていたのはインフェルニティの住人ブレイカ―ではない。リアルの世界の住人、つまり生身の人間だ。


「俺はあんたが嫌いだ」

「うわお!いきなり直球でふられたよ☆」

「はあ・・・」

 

 しかもこいつはただの一般人じゃない。俺達にとって神とも呼べる存在。

 こいつの名は、東風直人。四二歳でボサボサとした黒髪に、よれた白衣の出で立ち。なんとも頼りなさそうな感じをしているが、実はリアルの世界を代表する天才科学者。

 世界で初めて人工知能をプログラムし、その世界を創った。つまりこのインフェルニティの世界を創った張本人だ。

 だが、神として崇めるべき奴を俺は嫌っている。なぜならめんどくさいからだ。

 ふとコミニオンが質問をする。


「あのお、博士はなんでそんな頭をしていらっしゃるんでしょう?」


奴の頭から二本の触角が生え、髪の一部が赤に染まっている。どうやったらそんな頭になるんだ?


「実は親戚の子供が来ていてね、昼寝をしていたら悪戯されちゃってね。いやあ参ったよホントに。ハハハ」


リアルの世界に行くことが出来るのならこいつの頭をもっとひどいことにしてやりたい。


「で、仕事ってなんだ?」

「ああ、ええと・・・・」


ディスプレイの向こうで、なにやらがさがさとあさり出す。


「あったあった。ええと、今回の仕事はずばり、ウイルスの削除」

「帰る」


全員で一斉に席を立つ。


「待ってくれよう」


情けない声で皆をひき止めようとする。


「うるせえ。ウイルス関係の仕事だけは絶対引き受けない」


 仲間が何人やられるか分からない。そもそもウイルスの削除は大きな代償が伴う。

 つい二カ月前の、ウイルスの仕事で、すでに一三〇〇人のブレイカ―がウイルスに浸食され消失している。これ以上仲間を減らす訳にはいかない。


「まあそう言わずに。今回はちゃんとアップデ―トもするから」

 

 アップデ―トされれば、この世界に多くのブレイカ―や兵器が新たにインスト―ルされる。

 今日円楽が勝ち取った最新兵器のようなウイルスを削除するための武器が多く導入さ

れることになり、ウイルスによる被害は前よりは少なくなるはずだ。だが、


「俺は仲間が危機にさらされるのが嫌だ」


 これは俺を含めるシグナル全員が思っている本音だ。どんなうざい奴でもこの世界の住人、仲間である事に変わりない。

 奴はそんな俺達の本音を待ちわびていたかのように、にやにやと笑う。


「この仕事を引き受けてくれるのなら、その世界にウイルスが侵入しにくいようプログラムしよう。これでどうだい?」


せこい条件を出してきた。


「おっと、そんなににらむなよう。そんなに悪くない条件だろう」

「・・・・・・・・・・」


一瞬の静寂。十人全員が彼を睨んでいる。


「・・・・内容は?」


ジェネが口を開く。おい、まさかこの依頼を引き受けるつもりか?やめてくれ。


「おい、ジェネ」

「受けてくれるのかい?いやあ助かるねえ」

「貴様のためじゃない。これは私達の仲間のためだ。」

「うん、それでも僕は嬉しいよ」


まるでこの結果が最初から分かっていたような口ぶりだ。


「断られるのが嫌なら、なぜ私達に自我を植え付けたのだ。初めから洗脳して操ればよかっただろう?」

「それじゃあ面白みが減っちゃうよ」


 険悪なム―ドが漂う。

 東風から言い渡されたウイルス削除についての仕事の内容は、ある重要な施設のサ―バ―が得体の知れないウイルスに侵入され、手がつけられない状態にあるという。

 そのサ―バ―に入り、ウイルスを削除してサ―バ―を正常化することが今回の仕事だ。


「今日の午後からアップデートが開始し明日の午後に終了。作戦は明後日決行」


淡々と会議が進んでいく。


「おい、ジェネ。本当にいいのか?」

「何がだ?」

「この仕事のことだよ」


ここにいる十人全員が、今回の仕事に納得していない。


「仕方がないだろう。今後この世界を守っていくにはあの男の力が必要になってくるはずだ。ここで断ってしまえば私達は見放されることになる」

「畜生が」


ミリタリ―が悔しさを押し殺す。


「・・・・皆、気が進まないと思うが、我慢してくれ。・・・・・会議を終了する」


皆席を立ち、それぞれのサ―バ―に戻って行く。


「ネルク君、あまり深く思い詰めない方が賢明だよ」


インタルが優しく肩を叩いてくる。


「ああ、分かってる」


頭の中のもやもやを無理やり振り払い、ジェネの管理するサ―バ―を後にする。







 自分のサ―バ―に戻った俺は、行きつけの武器店へ行く。ここは俺の管理するサ―バ―の中で一番大きな店であり、俺の友や知り合いが多く集まる店だ。

 ガラス張りのスライドドアを開けると共に聞こえてきたのは、いつもの怒号。


「おい、テメー。それは俺が買おうとしてた武器なんだよ」

「はん、先に買った俺っちのもんだ」


 円楽と同じく筋肉質の体に、スキンヘッドの頭の、M・1900松村蓮と、ひょろりとした体格に、ツンツンと逆立ったオールバックの赤髪、上下共に迷彩柄の服を着たM・1901常陸正宗が、いつものように武器の取り合いで喧嘩をしていた。


「おいおい、二人とも。そろそろいい加減にしないか?」


物静かな態度に、青い髪、顎に無精ひげを生やした、M・0200時雨明久。


「やっと戻ってきたか、ネルク」

「あんた人形弁償しなさいよ!」

そして、円楽本春と白御紅。


店の中はなんとも弾けた風景で、ここが自宅であるかのように落ち着く。


「お~い、現実に戻ってこ~い」


危うく意識がとぶところだった。


「どうした?なにかあったのか?」


円楽は俺のわずかな顔の曇りに気づいたらしく、向こうも深刻な顔をする。


「ああ、皆に言わなければならないことがある」


 一瞬で店内が静まりかえる。さっきまで喧嘩をしていた松村と常陸もこちらを注目している。


「明日、正式に発表される。大きな仕事だ」

「内容は?」

「・・・・ウイルスの削除」

「・・・・・・・」


さっきまでの温かい空気が一変し、冷たく、うんざりとした空気になる。


「・・・ウイルス関係の仕事は受けないとか言ってなかったか?」

「あのアホ科学者の指令だ」


全員が納得顔になる。あの科学者に逆らえば、どうなるか分からない。最悪この世界を消されてしまいそうだ


「いつだ?」

「明後日だ」

「いきなりね」

「・・・・皆、すまない。断れなくて」


 友として、知人として、そして何より、このサーバーの責任者として、皆を危険にさらしてしまう仕事を引き受けてしまったことについて謝罪する。


「ったく、なにあやまってんだ?」

「俺達は別に怒ってなんかいないぜ」

「時雨、しかし・・・」

「何でも一人で抱え込むな。俺達はお前に付いて行く」

「円楽・・・・」

「ほら、しゃきっとしなさいよ!」

「紅・・・・・皆・・・」


思っていた答えと、全く逆の答えが返ってきて驚いた。


「小さなことで悩むな。何事にもあたっていくんだ」

「松村、お前いつもそれで失敗してるだろ」

「うるせえ、常陸。そういうお前は何もしねえだろうが!」

「俺は平和主義なんだよ」

「ほざけ」


静寂に包まれていた店内を常陸と松村のコンビが笑いで和ませる。


「あ、そういえば常陸、さっきの武器について話はついてないぞ」

「げ、まだ続くのか」

「あたりめえだ」


店内の緊張感か完全にほどけ、笑い声が上がる。


「・・・皆、ありがとう」

「何礼言ってんだ?それより明後日の仕事についてなんか対策とるぞ」

「ああ、もちろんだ」


俺はこの時ほど、仲間の温かみを感じたことはなかった。


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