第3アクセス‐‐‐シグナル
俺が転移したのは先ほどまでの選手待合室であるロッカーばかりの部屋ではなく、空中に沢山のディスプレイが浮かび、数人のブレイカ―がホロキーボードをたたいている。
ここはこのインフィルニティの世界を管理している施設、《管理塔》。この世界の核ともいえる施設だ。当然関係者しか立ち入ることを許可されていない。
「あ、お疲れ様です。ネルクさん」
作業をしていた一人が俺に気づき声をかけてくる。
「いやあ、惜しかったですね、優勝出来なくて」
「いいんだよ、また次頑張るんだから。ところでジェネはいないのか?」
「ここにいる」
「うお!」
ビックリした。いきなりジェネが横に現われた。
身長はだいたい130センチぐらい。金髪ショートに、右眼に眼帯の若い女にデフォルメされている。姿は子供でもこいつは俺と同じIDが一桁であるシグナルの一人だ。
ID、WJ・0000、ジェネ。
ついでに、こいつはいつもフッと現われて、サッと消える、神出鬼没な奴だ。
「いきなり現われるなよ、ジェネ」
「競技で負けてへこんでいるお前を驚かせたくてな」
こいつはいつも大人の男のようなしゃべり方をする。
「やあ、ネルク君。二位、残念だったね」
次に現われたのはⅠD、M・0002のインタル。
緑の短い髪で長身、切れのあるいかにも優秀そうな男。こいつもシグナルの一人だ。
「大会、見てたのか」
「そりゃ勿論。大切な行事の一つだからね」
ずり落ちそうになる眼鏡を小指で直しながら言う。
「やっほ~」
続いて、黒髪に、小学6年生ぐらいの女の子が現われる。幼い童顔を笑顔で満たし、俺の背中に飛びついてくる。
ID、WJ・0007ネク。
俺達シグナルの中で一番幼い容姿をしている。
「お、重い。離れろ」
「いいじゃんこのくらい」
無理やり背中からひきはがす。俺は幼女趣味ではない。断じて。
「・・・・・・」
無口な白髪少年。ID,MJ・0001ポリティス。
相変わらず無口で表情を顔に出さない。
「おい、ポリティス。久しぶりなんだから挨拶ぐらいしようぜ」
「・・・・・・・コク・・・」
会釈だけして来やがった。愛想のない奴だ。
「皆さんお久しぶりですぅ」
おっとりとした性格で眼鏡を掛け、長い髪を後ろでポニーテールにした茶髪の女性がやってくる。真っ黒のスーツがよく似合っていて、働く女性を見事に表わしている。
ID、W・0009コミニオン。
「おいお前ら、元気にしてたか?」
茶髪で少し太った体に、優しそうな顔の頼れるおじさん。
ID、M・0003エノミ―。
エノミーおじさんは俺のもとに来るやいなや、俺の背中をばしばしとしばく。ちなみにむちゃくちゃ痛てえ。
「今度はどこに行ってたんですか?」
「おう、実は財務省のサーバーに行っていたんだ」
IDが0000から0009の番号を持つ俺達シグナルは、様々な権限を利用して、様々なサーバーへアクセスすることはできる。
このおっさん、エノミーは財務省の管理するサーバーにアクセスしていたらしい。うっかり変にいじって日本の経済を転覆してなければいいが。
「いやっほう!久しぶりだぜ!」
茶髪に赤のメッシュ、ピアス、イヤリングをつけた遊び人。
ID、MJ・0004カトリ―。
こいつも相変わらずふざけた髪の色をしている。以前は赤と白のおめでたい紅白カラーだった。全く訳が分からん。
「久しぶりね、みんな」
水色の長髪に動物の毛皮のようなもふもふがついたコートを羽織り、サングラスをかけている女性。
ID、W・0008クリナ―。
この人もいつも各サーバーを色々渡歩く、放浪人だ。ついでにコートの下はいつもきわどい格好をしている。
「ん?あたしの顔に何か付いてる?」
「いや、何でもない」
「おいおい、アタシが最後かよ」
最後に現われたのは、男勝りの性格に男のように短くカットした青色の髪、軍服のような黒い服を着た姿の女。
ID,WJ・0006ミリタリ―。
「お、久しぶりだな。ネルク」
「痛い痛い痛い」
久々に会った彼女は俺を見つけると、いきなりヘッドロックをかましてきた。無茶苦茶痛い。
0000から0009までのIDを持つシグナルは普段別々のサーバーにいるため、滅多に会うことがない。その十人がここに集結した。これは何かが始まる前兆だ。
「よし、全員揃ったな」
ジェネの合図によって俺達の体は会議室のふかふかとした椅子へと転送される。
「ふう、ここも久しぶりだね」
インタルが落ち着いた吐息をもらす。
「久しぶりの再会で話したいことが沢山あるだろうが、今は大事な話がある」
話し合いは基本ID、WJ・0000のジェネが仕切ることになっている。
「皆に集まってもらったのは、ある仕事についての話し合いをするためだ」
「うええ」
俺を含むほとんどの皆がうめき声を上げる。
この世界にはちゃんと仕事がある。このインフェルニティの世界の管理を初め、各サ―バ―の制御、ネットワ―クの整理、無用な情報の削除などリアルの世界を支える大切な役割がある。その仕事の中で一番厄介なのが、《ウイルス》の削除だ。
リアルの世界でのネットワ―クウイルスは、所持している情報が漏れたりパスワードが奪われたりするだけで命には関係しない。
しかしこの世界では命に関係する。ウイルスに浸食されたブレイカ―は、すぐさまデジタルデ―タのエネルギーが消失し、千のポリゴンとなって四散する。いくらデ―タのバックアップがあったとしても復活は叶わない。その者は死んだということになる。
つまり、ウイルスの侵入は、このインフェルニティの世界においての存亡に関わる戦争なのだ。
「今回の仕事は?」
出来れば簡単なのがいい。俺は今日円楽に負けて不機嫌なんだ。
「それは依頼者に聞いてくれ。私は知らん」
「?」
ジェネが俺から視線を外した。と共に空中にバカでかいディスプレイが出現する。そこに映っていたのは、
「やあやあ、みんな。久しぶりだねえ♪」
うざいほどの明るい、楽しそうな声。
思わずため息が出る。俺が一番毛嫌いしている人物だ。
登場人物を一気に沢山出してしまいました。
誰が誰だかわからなくなると思います。
すみません。




