第10アクセス‐‐‐この世界のために
「なあ、円楽。そっちはどうだ?」
今日の天候設定は雨時々曇りだ。朝から降り続いている細い雨が容赦なく俺の肌を打つ。今の時期は、リアルの世界と同じで梅雨の六月ぐらい。道端に設定されている植物が元気に面を上げている。
俺は黒い服を着て、円楽やその他の仲間たちが眠る墓地に来ていた。システムで造られた俺達に魂などあるのかは分からないが、死者を敬うのはどこの世界でも同じだ。
半透明で薄緑色の四角いパネルが一定間隔で規則的に並び、その場所で眠る者の名前を表示している。
店で買ってきた花を添え、俺は話しかける。心の中は真っ白だ。何を話そうかと困るが、とにかく元気かどうか聞いてみる。死者が答える訳ないが聞く。
「・・・・ったく。勝手に逝きやがって」
あの時の円楽は忘れられない。体の半分をウイルスに浸食されても逃げることなく、最後まで戦った。最後に見せたあの笑顔。
俺の目から銀色に光る水がこぼれ落ちた。
「・・・畜生・・・・」
その水は後から後から出てくる。止めようにも止まらない。
「・・・・ネルク・・・」
不意に後ろから声をかけられる。振り向くと、白御紅がいた。俺と同じく黒い服を着ており、いつもなら風に流している長い髪も後ろで一つにくくられている。
紅は俺の涙でくしゃくしゃになった顔を見て一瞬目を丸くしたが、すぐに元に戻り俯いた。その手には大きな花束が抱えられていた。
花束をもう一つ墓標に添える。
「・・・・円楽」
花を添えた紅は俺の横に立ちしばらくいたが、徐々に涙を流し出し、しゃっくりを上げ始める。いつものこいつからは想像もできないほどの純粋さだ。
俺は紅の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「な、なによ、ひっく。別に慰めて欲しいなんて言ってないわよ!ひっく」
相変わらずこいつのツンデレ度は半端ない。しばらくして、嗚咽が小さくなった紅はぽすっと俺の肩に頭を預ける。
その時、俺の眼の前にディスプレイが表示される。
『ネルク、急いで戻れ。緊急の仕事だ』
通信の相手はジェネだった。相変わらず忙しいらしく、その顔の表情は険しい。ジェネの後ろで、バタバタと走るブレイカ―の姿も見える。
俺は涙を流すのをやめ、前に向き直る。いつまでもここで泣いていられない。
「じゃあな、お前ら。しっかりと寝ろよ」
墓標全てに届くように、感謝と敬愛を込めて大声で言う。
「行くぞ紅。またうんざりする仕事だ」
「うん」
墓地に背を向け、俺達は新たに仕事に向かう。
このインフェルニティの世界を守るためにはかなく散って行った仲間達のために。
END
『システム=神』終わってしまいました。
悲しくて涙が出そうです。
この作品はもともとはかなり短い短編小説でした。
なんとか修正して第10話まで伸ばすことができました。
この作品はいつか続編を出そうかと思っています。
楽しみにしていてくれるとうれしいです。