エピローグ
あれから3ヶ月ほどたった、週末。
拓也、ヒビキ、マリの三人がいつものように話している。
「で、二人って結局まだ付き合ってないの」
「好きなんでしょ。お互い」
マリが少しあきれた顔で言う。
「いや、だから私……既婚者だめなんだって……」
ヒビキが少しうつむき加減で答えた。
拓也が、少し考えて話し出す。
「あのさ……ヒビキ」
拓也が何か言いかけたところで、来店チャイムが鳴った。
マリが出迎えると、ドアの前には美鈴がいた。
「……美鈴さん……?」
ヒビキが少し心配な顔をして、声をもらす。
美鈴は店内に入ると、二人に近づく。
ヒビキの様子を察して、美鈴は言った。
「ヒビキちゃん、大丈夫よ」
美鈴は、カウンターに座った。
「今日は……」
「二人に、お別れを言いにきたの」
拓也とヒビキは、少し驚いた表情を浮かべる。
美鈴は、話しだした。
「あれから、夫は本当に私のことを気にしてくれて」
「ちゃんと、夜も……彼、出張が多いから家を空けることが多いけど、家にいるときにはいつも、私を求めてくれるの」
「すごく愛されてる、って実感できるようになったわ」
少し間をおいて。
「そしたらね」
「夫が、東京の仕事で出張が多いから……ちょっと、寂しくて」
「話し合って、一緒に東京に住むことにしたの」
拓也は、少し微笑んで話す。
「そっか……」
「寂しくなるけど、あれから仲良くやってるみたいで、よかった」
「うん……それも、二人のおかげよ。ありがとう」
ヒビキは、少しバツが悪そうな表情で言う。
「……いや……私は、何もしてないけど」
「ふふ、そうかしら」
「あと……もう一つ、報告があって」
美鈴は、一息おいてから言う。
「私……妊娠したの」
ヒビキが、にこやかな表情になる。
「美鈴さん……おめでとう」
「ありがとう……私、夫との間に子供ができるなんて、夢のまた夢だと思ってた」
「本当に、来てよかった。ここに」
美鈴は、拓也のほうを見る。
「それに……」
「あなたにもう一度会えるなんて……こんなこと……」
美鈴は、涙ぐんだ。
ヒビキが、美鈴に言う。
「美鈴さん……」
「いいよ、ちゃんとお別れしていきなよ」
美鈴は、こくりと頷くと、拓也に抱きついた。
「……ほんとに……会えてよかった……」
「美鈴さん、俺もだよ」
拓也は、美鈴の背中をさすりながら、言った。
「それじゃ……私は行くわ。ほんとに、ありがとう」
「イシちゃん……、ヒビキちゃん。またね」
美鈴は、三人にドアの前で見送られて、出ていった。
「……行っちゃったね」
「そうだな……」
寂しげな表情の拓也に、ヒビキが言う。
「あのさ……」
「今夜は、いっぱいなぐさめてあげよっか」
少しいたずらっぽく言ったヒビキに、拓也が返す。
「……お願いするわ」
「よっしゃ、まかしといて」
「ヒビキちゃん、新しいコスプレまた入ってるよ」
「えー、見る見る」
「イシちゃん、今日はめっちゃエロい感じのやつ着てあげるね」
ヒビキが、拓也の腕に抱きついて言う。
「別にいいって」
拓也は、笑いながら言った。
——そして、翌朝。
外がまだ暗いころに、拓也とヒビキは店を出る。
「もう……イシちゃん……激しすぎ……」
「どっちがだよ」
ヒビキは、微笑みながら、拓也の手を握った。
拓也は、その温もりを感じながら、ヒビキのほうを見る。
「あのさ……ヒビキ」
ヒビキが、拓也を見た。
拓也は、少し緊張ぎみに言う。
「……俺たちさ」
「付き合おっか。ちゃんと」
ヒビキが、目を見開いた。
「え、でもさ……イシちゃん、まだ……」
「別れたよ」
「え、いつ」
「先週。離婚届、出してきた」
「ちゃんと、終わらせたよ」
ヒビキの表情がぱっと明るくなる。
「え、それじゃ」
「結婚しようよ!」
「……いや、早すぎるだろ」
ヒビキが、拓也に抱きつく。
「私、子供は三人くらいほしいかな……」
拓也は少しあきれた顔で、微笑んだ。
「えっと。今日……うち来るか?」
「このまま」
ヒビキは、うなずく。
手をつないで、二人は同じ方向に歩きはじめた。
歩きながら、ヒビキが話す。
「あのさ……」
「私、響子って言うんだ」
「あ……それでヒビキだったんだ」
「俺は、拓也」
「ふうん……拓也……」
ちょっと考えてから。
「なんか、変なの」
ヒビキは、少し笑って言った。
「やっぱ、イシちゃんでいいや」
「なんだよ、それ」
ヒビキは、拓也の腕に抱きつく。
「イシちゃん、大好き」
「俺もだよ」
「……あのさ、そいや来週マリちゃん誕生日なんだって」
「お祝いしないとね」
「あ、そうなんだ」
「なんか持ってくか」
——いつもの朝帰りは、これからも続くことになりそうだ。
でも、これからは寂しくなさそうな、そんな気持ちを胸に。
朝の澄んだ空気の中、東の空が明るくなっていく。
二人は、そのまま、歩幅を合わせながら、朝の街へ歩いて行った。
完




