主人公外伝1:白神静流という男
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高校一年の春。
孤児院を出て一人暮らしを始めたばかりの私は、学費と生活費を賄うために夜の街へ足を踏み入れた。
未成年が働ける場所など限られているはずだが落ち着いた態度と観察眼が買われ、私はとあるバーで裏方として雇われることができた。
名目は掃除や仕込み。
けれど、実際には接客を任されることもあった。
カウンター越しに人々を観察していると、世の縮図が見えるようだった。
成功者は気取って酒を語り、落ちぶれた者は愚痴を吐く。
女は笑顔で場を繕い、男は欲望のままに手を伸ばす。
――その夜もそうだった。
「やめて下さい!誰ですか貴方は!」
初見のサラリーマン風の男が、一人の美女に絡んでいる。
肩に腕を回し、無理やりグラスを差し出す――
周囲の客たちは嫌そうに眉を寄せており、バーテンダーである私の方を気にしてチラチラと見る仕草が目立った。
私は静かにカウンターを出る。
「お客様。店内での飲酒の強要は、店の規則に反しますので、ご遠慮いただけますか?」
冷静に声をかけた瞬間、男は酔いに任せて腕を振り払ってきた。
――軽く腕を身を反らせて躱した後、その手首を掴み、もう一度忠告を行う。
「もう一度お伝えします。店内での飲酒の強要は、店の規則に反しますので、ご遠慮いただけますか?」
男は一瞬で酔いが覚めた様子で凍りつき、少しして「放してくれ」と言い黙り込んだ。
解放すると男は黙ったまま静かに店を出ていった。
最初は客たちもざわついたままだったが、「皆様にはご迷惑をお掛けしました。これはサービスです」と、微笑んでツマミを配ると、やがて何事もなかったかのように談笑しながらグラスへと視線を戻した。
マスターには執拗な客の少し手荒な対応と、軽いサービスをする許可を事前にもらっているので、何も問題はない。
助けられたと思ったのか、美女は熱のこもった視線で私を見つめていた。
「ありがとう。本当に助かったわ。私はオリビアというの、今度お礼させてね……」
彼女は私にかなり感謝しているようで、心を開いた様子で微笑んでくれて、態度も柔らかかった。
その後、閉店まで彼女――オリビアはカウンターに残り、私と語り合う。
夢や過去、孤独や不安――他愛もない会話が妙に心地よく、気づけば閉店後に会う約束をしていた。
そして私は彼女と共に店を出て、朝焼けの街を歩いた。
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行き先は語れない。
話せるのは、それから時々、寂しくない夜を彼女と過ごすようになるということだけだ。
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