第19話:酔っぱらいの謝罪と断罪
解体場を後にし、アリシアに連れられて再びギルドのフロントへ戻る。
さっきまでの彼女の表情が頭に残っていたが、今はもういつもの明るい笑顔に戻っていた。頭の切り替えが早い……。
次はギルド長に会いに行くことになった。
報告を済ませておいて明日に備えてゆっくりするためだ。
皆でギルド長室へ歩いていると、静流を探していたのか、一人の村人がやってきた。
年配の男性で、顔をほころばせながらこちらに歩み寄ってくる。
「おう、お前さんが……昨日の冒険者の嬢ちゃんだな」
「……はい、そうですけど」
声を掛けられ少し身構えたが、彼は嬉しそうに両手を合わせて頭を下げた。
「昨日はほんとうに助かったよ。おかげで息子が助かって畑が荒らされずに済んだんだ」
「あ……それは、良かったです」
どうやら昨日のゴブリン討伐の件だろう。
疲労困憊の中で嫌々助けることになったが、被害が広がる前に防げたと聞くと気分は良い。
男は私の返事を聞くと、さらに顔を綻ばせる。
「それでな、村の衆と話して……ささやかだが礼をさせてもらいたいと思ってな」
「礼、ですか?」
「今夜の晩飯だ。ちょうど宴会を兼ねて料理を用意してる。いつもより豪華にしたから、嬢ちゃんも仲間たちも、しっかり食べてくれや」
にこやかに告げる声に、周囲のギルド職員や村人たちも小さく頷いているのが見える。
どうやら村ぐるみで用意してくれたらしい。
ヴァルターが腕を組んで「ふむ」と頷き、エリンも優しく微笑む。
アリシアはというと、少し訝しげな顔をしている。何か気になることでもあっただろうか?
「……ありがたくいただきますね」
私がそう告げると、男は「よし!」と力強く頷いた。
「そうと決まれば、しっかり腹を空かせておけよ。この村特有のご馳走を是非ともたくさん食べてもらいたいからな!」
そう言い残して、男は足早にギルドを後にした。
ご馳走とは、少し楽しみだがあんまり期待してもダメかな。ルブランと比べると昼の食事はかなり田舎料理といった感じだった。でも、村特有のご馳走には興味があった。
私は小さく微笑んだ。
「……少し楽しみですね」
「各地特有の飯は冒険者の特権だ」
「明日の一仕事の為にしっかり食べましょうね!」
「村特有のご馳走……何かありましたっけ?」
アリシアが村特有のご馳走に疑問があるようだ。村に住んでいるアリシアが知らないご馳走……。一体何が出てくるのだろう?
考えていると一人の男が静流に近づいてきた。
――その男はオンジ。
静流に極大の恐怖を与えた酔っぱらいの男だった。
静流は引き攣りそうに顔を笑顔に固定し、先に発言した。
「近づかないでもらえますか?次は殺します」
静流の発言にヴァルターとエリンが驚いた。
オンジは素面なのか、すまなさそうな顔をして項垂れている。
「すまなかった。酔っぱらってセクハラしちまった。許して欲しい。オレを殴ってくれてもいい」
オンジが真剣な顔でそういうが、静流の心は冷めていた。
酔っぱらってという言い訳の言葉と許して欲しいという言葉がある時点で、彼の心の大部分は罪悪感を減らすことか、許されたという事実が欲しいだけなのだろうと感じてしまったのだ。
殴ってやろうと考えていたが、その価値もないことに気づき、静流は言った。
「私があなたを許すことはありません。本当に悪いと思っているなら、反省を続けて下さい」
静流は態度で呆れている事を表しながらその場を離るため歩きだす。
――するとオンジが手を伸ばし、静流の手を強く握り締めた。
静流は動揺した。
近づけば殺すと言ったのに、こんな暴挙に出るのかと。
また同じように抵抗できないのではないかと。
オンジが静流を捕まえたまま怒鳴り始める。
「女が調子に乗ってんじゃねー!!謝ってんだから黙って許しときゃーいいんだよ!?……部屋に行くぞっ!今度こそやってやるっ!」
憤懣遣る方無いといった様子で静流を引っ張っていこうとするオンジ。
静流はやはり恐怖などの感情で身体が抵抗できないことに驚愕する。腕を掴まれているだけで何も反抗できない現実がそこにはあった。
しかし、静流の理性はこの状況はピンチではないと判断する。今の自分には仲間がいるのだから――。
――そこでヴァルターとエリンが動いた。
黙ってサブ武器の短剣を抜き、当たり前のようにオンジの両腕を切断した。
大量の出血が床を濡らす。
「――あ?……うわぁっ!?オレの腕がぁぁ!?」
両腕を失ったオンジが泣き叫んでいるが、止血をしないままではこのまま死ぬだろう。
助かった静流はヴァルターとエリンに頭を下げた。
「ありがとうございます……助かりました……」
「様子がおかしかったが、大丈夫か?」
「女性が無抵抗じゃダメよ? 男は身勝手な人ばっかりなんだからね?」
「……はい、気をつけます」
「結局はこうなりましたか。オンジさんの件もギルド長と話さないといけませんね」
アリシアは周りに掃除を指示し、オンジへの対応は任せて静流たちとラゴウの元へ急いだ。
ギルド長室前に皆でやってきた。
とりあえず私とアリシアだけがノック後に入室する。すると、厚い木の机の向こうで彼が腕を組み、眉を寄せていた。
扉が閉まると、彼は一度深く息を吐く。
「……ちょうど良かったぜ。実は話しておくことがある」
「こちらも相談があって来ました。……ギルド長の話から先に伺います」
促すと、彼は少しだけ目を細め、机に手を置いた。
「明日、ゴブリン集落の威力偵察を行う。……実際の敵戦力をある程度調べておかねえと援軍は頼めん。静流も参加してくれ」
ラゴウの瞳には真剣な色が宿っていた。
しかし、援軍は必要ないだろう。
「威力偵察ですが――その必要はないかもしれません」
「……何?」
彼の眉がさらに寄る。
その表情を見つめながら、私は言葉を続けた。
「実は頼もしい冒険者を部屋の外で待たせています。……入室していただいても?」
ラゴウが頷いた為アリシアに入ってもらうように促した。
「……わかりました。呼んできますね」
そう言って扉の向こうに行った。
戻ってきたとき、その背後にはヴァルターとエリンの姿があった。
ミスリルランク冒険者二人の入室に、ラゴウの表情が一変する。
「……お前たちは……!?」
ラゴウは二人に見覚えがあったのか驚きを隠せなかったようだ。
私は静かに口を開いた。
「ギルド長。ご安心ください。……この二人が、明日の戦いに参加してくれます」




