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TS錬金術師の受難 〜神の悪戯で絶世の美少女に〜  作者: 天秤座
第1章:TS錬金術師と苦難の始まり
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第17話:情報の共有と信頼の鎖


 ヴァルターの意見で討伐したウルフ三匹を村まで運ぶことになった。


 村への手土産はあったほうがいいだろうということらしい。私にとってミスリルランク冒険者二人が一番の手土産だと思うので、そこまで気を使う必要も感じなかったが、円滑な関係を築くための行動ということだった。


 流石ベテラン冒険者である。


 ウルフを運ぶのであれば、私の万物保管庫(インベントリ)を教えておいたほうがいいだろう。これから共に行動する仲間に、いつまでも隠していく事はできない。


「あの、実は便利なスキルがあるんですが……」


 二人に実際に見せた方が早い為、ウルフの死骸に近づいた。


「運搬系スキルか?」


「静流のスキル……気になるわね」


 手を翳し、万物保管庫(インベントリ)を発動し、三匹とも入れてしまう。


「……馬鹿な!死骸はどこへ消えた!?」


「え……?静流は何をしたの……?」


「この黒衣の、万物保管庫(インベントリ)というスキルです。知ってますか?」


 私が説明すると二人が唖然とした顔で驚いている。物語でもよくチートと言われている為、二人から見ても凄いのだろう。


 突然真剣な顔になった二人が私に詰め寄る。


「……静流。このスキルはあまり大っぴらに使わない方がいい」


「インベントリって、昔の勇者が使っていた無制限に物資を収納できるスキルよね?安易に見せちゃダメよ?」


 思っていた通りの反応で、少し微笑ましい。


「はい、他人に知られる危険性はわかっています。でも二人は黙っててくれますよね?」


「……信頼は裏切らない。だが、警戒は怠るな」


「静流、わかってる?インベントリってスキルは、ただ便利な能力じゃないのよ?」


 エリンの声は穏やかだが、心配の色を隠せていない。


「……はい。忠告ありがとうございます」


 私は素直に頭を下げる。

 だが二人はまだ納得していないようで、ヴァルターが低く重い声を続けた。


「もしもそのスキルがその黒衣の力だと知られると、間違いなく狙われる。王侯貴族はもちろん、有名クランや国家ですら欲しがるだろう」


 エリンも頷き、言葉を重ねる。


「“大容量の保管ができる”ってだけで、運搬に関わる仕事で革命が起こるわ。だからこそ知られると、手に入れようとする者たちが後を絶たない……」


 改めて突きつけられた危険性に、胸の奥が少し重くなる。けれど、私は静かに答えた。


「確かに……奪おうとする人もいるかもしれません。でも、この黒衣は、私自身に帰属してるので、誰にも奪えません」


 その言葉に、二人は同時に息を呑んだ。


「……静流、それは……」


「奪えないなら、なおさら……あなた自身を狙う理由になるじゃない!」


 絶句したように目を見開く二人。

 

 ヴァルターが低く言葉を継いだ。


「黒衣のスキルが個人に帰属しているなら、問題はまず持ち主の命や身柄を狙う連中が現れることだ。拉致、監禁、暗殺、手段は問わない」


 エリンが付け加える。


「それだけじゃないわ。法的に身内に引き入れようとしたり、裏取引や契約で縛ろうとする者もあらわれるはずよ」


 言葉を突きつけられ、私は一瞬言葉を失った。自分が守らねばならないのはスキルではなく、この身そのものだという現実が、背筋を冷たく走らせる。


 私は素直に頷き、しっかりと告げる。


「人前での使用は、できるだけ避けるようにします」


  二人は顔を見合わせ、小さく息を吐いた。


「……理解したならいいわ。無自覚だったら危ないじゃない?」


「ならば俺たちがとやかく言うこともない」


 小言のように再三の注意をしていたが、二人の瞳には嬉しさが宿っていた。知られると危険なスキルを教えたことで、それだけ二人を信頼していると伝わっただろう。


 ――私は内心、罪悪感が渦を巻いていた。


 本当は、もっと計算ずくなのだ。

 もしこの秘密が漏れれば、確かに狙われる。けれど命や貞操を最優先に考えれば、自由を失うことは二の次にできる。


 「この黒衣は帰属していて奪えない」と広めれば、性的に襲うことも難しくなる。なぜなら私は――“襲われたら自殺する”と宣言すればいいからだ。


 狙う側からすれば、貴重な力を手に入れるどころか失わせることになる。大半は躊躇するだろう。


 それに、それだけ貴重なスキルなのであれば、勝手に互いを牽制しあってくれる。結果的に時間を稼げるので、私自身が立場を固めるまでの余裕ができる。


 インベントリを利用したい者との契約次第では、立場と安全が手に入る可能性すらある。


 私の目的を考えると、秘密が漏れる事すら現実的な選択肢と考えられた。


 そんな思惑を隠しながら、にこやかに二人へ信頼を示した。笑顔を作りながらも、胸が軋む。


 ――それでも、、これは生き抜くために仕方のないことだ。


 ふと顔を上げると、ヴァルターとエリンが私を見ていた。


 二人の表情にはまだ不安も残っている。けれど、それ以上に「守ろう」とする意志が強く宿っているのを感じて、胸がじんわりと温かくなった。


「……ありがとう。二人がいてくれると、心強いです」


 素直に口にすると、エリンが小さく微笑み、ヴァルターが頷く。


「当然だ。仲間だろう」


「ええ。もう“秘密を分け合った仲”なんだから」


 その言葉に、胸の奥で何かが確かに繋がった気がした。


 信頼という鎖が、三人の間に静かに結ばれていく。


 空を見上げると、茜色はすでに群青に沈みかけている。夜の帳が下りる前に、村に戻らねばならない。


「……行きましょう」


「おう」


「ええ、もう暗いから急がないとね」


 三人並んでコルンへ歩き出す。


 その足取りは先ほどよりも軽く、確かな団結心に支えられていた。

 





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