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風に舞い散る勇者の如し  作者: いもたると
第四部

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184/206

大人は穢れて、青春はフラメく

「い、いや、その後どうしてるかなと思って」

 といっても、そんなに関心があるわけではない。チニダー入り口で幸せそうに眠る彼を発見したことは内緒にしておく。

「ああ、あれか」

 独出君は、意外と晴れやかな顔をしていた。この間はあんなに深刻そうだったのに。

「顔色は良さそうだね」

「うん、僕も吹っ切れたよ。君の言うように、何事もそんなに深刻に捉えることはない。僕らは移り変わっているんだ。移り変わりこそ人間だ。変化することは、悪いことじゃない」

 えーっと…、僕、そんなこと言ったかな?あんまり僕の話、聞いてくれてないような。

「僕はこう考えることにしたんだ。人間っていうのは、大人になるためにイニシエーションを必要とするものなんだ。誰しも経験することだ。その経験が突然であったり、人と比べてあまりに早かったりすると不安になってしまうけど、人それぞれ成長の速度は違うから。僕みたいに精神的な成熟が早ければ、それが疾風怒濤なものであっても、経験に対して悩むことはないんじゃないのかなと」

 経験…。ねえ、僕、今マウント取られてる?

「もちろん経験の仕方にもいろいろあるよ。それが思い描いていた理想と違っていたりすると、心の中の子供の部分が泣いてしまうかもしれない。でも、大人になるってのはそういうことなんだ。ストレスに対してレジリエンスを身につけていくものなんだ。確かにイノセントな魂にとっては脅威だよ。幼い魂を守っていたコクーンのようなものは、それによって破壊されるだろう。だが、人は成長過程において新たな武器を身につけていく。それはなんだと思う?」

「さ、さあ?」

 願わくばあまりカタカナは使わないでほしいのだが。

「矛盾と不条理だよ、君、大人というのはね。母の腕に抱かれて無垢と純真さを養分にして生きるのが子供なら、自分の足で立って矛盾と不条理を血肉にして輝くのが大人なんだ」

 ……。

 僕、今マウント取られてるよね?

「君はこういう経験をしたことはあるかい?」

「いや、まだだけど」

「そうか」

 彼はフッと寂しそうに笑った。それがなんだか僕には、嘲笑ったようにも見えた。

「純真さとは美しいものだよ。でも僕はもう()()だからね」

 言いたいことだけ言って、彼は自分の席に着いてしまった。

 ねえ、サキュバスって、ただ夢を見させるだけだよね?経験って、そんな意味じゃないよね?

 万物は移り変わる。やがて僕らは大人になる。ただ一つだって、変化しないものはない。でも彼が矛盾と不条理でできていることだけは、永遠に真理であろう。

 ふう、付き合う人は選ばねばならぬ。

 ちょうどよかった、闇野さんが入ってきた。闇野さんと話そう。夢の世界のサキュバスよりも現実の女性だよ。

 闇野さん曰く、女子(から見て魅)力に欠ける独出君には悪いが、僕にはイケメン疑惑がある。女性との交際だって意外と近いかもしれないぞ。

「やあ、闇野さん、おは……。おはよう…」

 いつもカラスの集団自殺現場からやってきました、といった感じの闇野さんであるが、今朝はいつにも増してダークなオーラをまとっていた。

「あ…、無学…、君…。いたの…」

「…いました」

 すぐ後ろの席ですけど、見落としますか?

「どうしたの?酷く疲れているように見えるけど」

「うん…、ちょっとね」

「昨日授業にいなかったけど、どうしてたの?週末は実家に帰ってたんだよね。あ、たまたま寛木さんに会って」

「うん…。いろいろあって、すぐに戻ってこれなかったの」

 いろいろ?なんだろう、ショックなことでもあったのだろうか。女の子のいろいろは、知りたいけど男子が知っちゃいけないような気もする。

「大丈夫?今日も異世界に行くの?」

 闇野さんは先輩のパーティに入れてもらっている。僕らが地下二階でボールと戯れているあいだにも、この女子はずっと先の経験まで済んでいるのだ。

「う、ううん。今日は休ませてもらう。それより、無学君。今日、暇?」

「え!?ぼ、僕らも、今日はいろいろあって休みだけど?」

 ドキドキドキ…。

 女の子に今日は暇かと聞かれるシチュエーションとは。

「後で、相談に乗ってくれる?」

「い、いいけど?」

 女の子に相談に乗ってほしいと言われる状況とは!?

「ちょっと、悩んでるんだ。男女関係のことで」

 ダ!?ダ、ダ、ダ、ダ…、ダ!???

「ブエノスディアス、アミーゴス!青春してマスか、若者たちよ?大いに恋シテ、大いに悩ンデ、大いにフラメキなさい」

 そこで大いにテンションラテン系のマタドール先生が入ってきたため、それきりになってしまった。

「青春はフラメンコです。情熱はフラメンコです。ビバ、恋のトキメキフラメンコ。ボニータ・ボニート、トマ・ケ・トマ!」

 だ、男女関係?男女関係!?

 なんなのだろう、ラテンのノリで解決できるものなんだろうか。

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