~カラクリ屋敷~
誤字脱字報告ありがとうございます。
朝の街は活気に満ち溢れ、私はその喧騒が楽しいものに聞こえた。
商店の前では呼び込みの声が響き、露店には見たことの無い形や色の野菜や果物が並んでいた。
それらを物珍しげに眺めながらハヤテ様に先導されて歩く。
周囲の人々は、黒髪に黒い瞳の人が大半なので、栗色の髪を結い上げたセレスティアは人の目を引いた。
着ている物もサイラス国では一般的なワンピースだったが、ヤマト国では珍しい服ということもあり擦れ違う人たちはセレスティアに気が付くと目で追っていた。
朝日に照らされ艶やかな栗色が少し金混じりに見えることもありセレスティアは自覚無く人々の注目を浴びていた。
しかし当人は周囲をキョロキョロと見回しては楽しげに和馬に話しかけているので視線には一向に気付く事は無かった。
先導している疾風は勿論視線に気が付いていたが害意は無い視線だったので気配を薄くしながら街の中を進んでいった。
街中の喧騒から少し離れた一角に建つ平屋の屋敷に着くとセレスティアは緊張した様子で門の前で足を止めた。
「疾風、仕掛けは?」
「今日は『寅』だよぉ」
「客人がいるのにか?」
「大将の腕が鈍ってないかぁ、知りたいんじゃなぁい?」
二人の言葉にセレスティアは首を傾げた。
「あの…寅とは何でしょう?」
「屋敷には仕掛けが施されています。侵入者を迎撃するために」
「その仕掛けはぁ、十二通りあってぇ。今日は『寅』なんだよぉ」
ニコニコと笑みを浮かべながら疾風が言い、和馬は深く溜息を吐いて額に手を当てた。
「フォーサイス様が怪我でもしたらどうするつもりなんだ…」
「ヤダなぁ、大将。大将が、護衛なんでしょ~?」
疾風は笑みを浮かべたまま言葉を重ねる。
「護衛なんだからぁ、ちゃんと守ってあげてねぇ」
疾風はセレスティアを見て更に笑みを深めると「先に行ってるからぁ、統領は『椿の間』にいるよぉ」と言い残して一瞬で姿を消した。
「………」
「………」
セレスティアと和馬はお互いの顔を見合わせて、どちらとも無く引き攣った笑みを浮かべた。
「本当に、申し訳ありません。フォーサイス様」
「いえいえ…少し驚きましたが…」
セレスティアはそう言い、もう一度目の前の門を見上げた。
先程は普通のお屋敷に見えていたのに、今は何故か「魔王のいるお城」に見えていた。
屋敷の後ろに稲妻が轟いている様な気さえする。
「カズマ様、その…『寅』は危ないのでしょうか?」
「…そうですね、一般人でしたら到底踏破は出来ないと思います」
「わ、私、運動は好きですが…一般人だと思います」
「はい、なので私が先導いたしますので私の後ろをついて来てください」
和馬はセレスティアを見て安心させるように優しく微笑んだ。
その微笑みに勇気付けられたのかセレスティアの強張っていた身体から力が抜けた。
「では、行きましょう」
「は、はいっ」
セレスティアは足手まといにはなりたくないと思い、気を引き締めた。
しかし心の中で「仕掛けがあるなんて…忍者屋敷みたい!」と暢気なことを考えていた。
門を潜り入口に向かう時に和馬は飛び石を指して言った。
「フォーサイス様、飛び石の色が変わっている物があるのですが分かりますか?」
「ここから仕掛けがありますの!?」
「はい、門を潜ったら敷地内なので仕掛けはあります」
「そうなんですのね…」
セレスティアは和馬に示された飛び石を見比べて小さく唸った。
「……あちらの石の質感が、他のものと違うように思えるのですが」
「こちらですか?」
和馬が指した飛び石が、セレスティアには少し違う物に見えていた。
例えるなら、発泡スチロールに色を塗った様に見えたのだ。
石の質感ではない。
「正解です。こちらの石には乗らないで下さいね。横の砂利も踏んだら駄目です」
「分かりましたわ」
和馬はセレスティアが見破った偽石を避けて進むとセレスティアもその後ろについて行く。
飛び石を渡り終え玄関前に立つとセレスティアは和馬に聞いた。
「あの偽石を踏むとどうなるんですの?」
「仕掛けが作動して穴に落ちます。ちなみに砂利を踏むと紛れ込んでいる痺れ薬が噴射されて身動きが出来なくなります」
「……危ないですわね」
「屋敷から一番外側の仕掛けなので、優しい方です。ここで引っ掛かるのは、忍び込む事に慣れていない者がほとんどですから、痺れさせて穴に落とすくらいが丁度良いんです」
和馬の言葉にセレスティアは頷いた。
「外側よりも中のほうが、警備が厳しいのはどこも一緒ですわね」
「そういう事です」
「では、これから中に入りますので気合を入れていかないとですわね」
セレスティアはすっかりレジャー気分になっていた。
朝の時は緊張していたというのに切り替えの早い子だった。
「フォーサイス様は」
「ティアで良いですわ」
「え?」
「フォーサイスだと長くありません?」
セレスティアはそう言って和馬を見上げた。
「咄嗟の時、長いと呼びにくいでしょうから…駄目ですか?」
「いえ、そんな事は…ですが、その…愛称で呼ぶのをお許しいただけるのですか?」
「カズマ様に呼ばれるのは嫌ではありませんわ」
セレスティアはそう言ってニコリと笑う。
「ここまで護衛をしていただいて、カズマ様が良い方だと分かってますもの」
「フォーサイス様…」
「あ、勿論、カズマ様が嫌でなければ…ですけど」
家名で呼ばれセレスティアは嫌だったかもしれないと慌てて言えば和馬は少し躊躇った後、小さく「ティア様」と愛称を口にした。
その呼び方が嬉しくて恥ずかしくてセレスティアは頬を染めて小さく笑った。
探索を詳しく書くか悩み中です。
サッサとパパさんの所に行きたい気もする。




