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~明日の約束~


次の日の朝


身支度を整えた私は部屋の鏡の前で服装のチェックをしていた。

昨日の今日で、まさか想い人の親御さんに会うだなんて全く想像もしていなかった。


持ってきたドレス…というには簡素なワンピースの裾を落ち着かない気持ちで撫で付け鏡の前でクルリと回ってみる。

膝下の丈で色は落ち着いた深いグリーン色。袖口と首元には白いレースがあしらわれている可愛らしいというよりは落ち着きのあるワンピースだ。


「フォーサイス様、入ってもよろしいでしょうか?」

「はい、大丈夫です」

「失礼します」


カズマ様の声に応えると部屋にカズマ様が入ってきて私を見て固まった。

見る間に顔が赤くなっていく様子に私はどこか変だったかと慌てて自分の格好を見下ろすが特に可笑しいと思う所が無い。


「あの、カズマ様…?」

「あ、も、申し訳ありません!! 初めて見る服装でしたので…その、よくお似合いです」

「変ではありませんか?」

「いえいえ、よくお似合いです!!」


カズマ様はそう言って眩しそうに目を細めて私を見ていた。

その視線が少し恥ずかしいが褒められて嬉しい。


「うんうん、お嬢さん。すっごぉく可愛いよぉ」

「ひゃっ!?」


いきなり背後から声を掛けられ私は飛び上がって驚いた。

カズマ様の所まで小走りで逃げて振り返れば普段と変わらないニコニコした笑みを浮かべたハヤテ様が立っていた。



い、いつの間に!?



「疾風」


カズマ様が咎めるように名前を呼べばハヤテ様はコテンと首を傾けて「驚かせてごめんねぇ」と私に言った。


「い、いえ…その、気配を消されると驚きますので、次回から控えていただければと…」

「うん、わかったぁ」

「…疾風。【裏道つうろ】を使うな」

「たまには使わないとぉ、使えなくなっちゃうからぁ」

「フォーサイス様が、お部屋を使っている間は使用禁止だ」

「はぁい。ごめんねぇ」


カズマ様は私を見て頭を下げた。


「申し訳ありません、この宿は【隠密衆】がよく使う宿なので【裏道】など仕掛けがありまして…」

「…このお部屋にも、ですか?」

「そうだよぉ。この部屋だと窓辺に近い天井が外れて出入り出来るしぃ。クローゼットの奥にも隠し通路があるんだよぉ」


ハヤテ様がアッサリと隠し通路などの場所を教えてくれる。



情報漏洩甚だしくない?


いいの?



私の考えが伝わったのかカズマ様が困ったように笑った。


「この部屋を使われる方は限られていますし、何かあったときの脱出口とお考え下さい。それにフォーサイス様は他の方に簡単に話してしまうような方ではありませんし」

「もしぃ、他の人に話したらぁ…ね?」



いや…「ね?」じゃない!!


怖いって!!



私が「誰にも言いませんから」と言えばハヤテ様はにっこり笑った。



「うんうん。お嬢さんなら大丈夫だと思ったからぁ」



私がハヤテ様に脅されていると感じたのは気のせいでは無かったらしい。

少しビクつきながらカズマ様を見上げればカズマ様は何故か天井を見上げていた。



「カズマ様?」

「…何でもありません(無意識だとは思いますが、上目遣いが可愛らしすぎます)」

「…大将ぉ」



カズマ様を見て、ハヤテ様が何故か呆れたような顔をしていらっしゃるのはどうしてかしら?







身支度が整ったので私達は部屋を出て階下に向かうと入口の所で女将さんと話をしていたスズさんに出くわした。

無意識に身構えてしまうのは、昨日牽制されたからだろうか。


「あらっ、お出かけですか。フォーサイス様」


明るい笑みを浮かべて女将さんに声を掛けられ、私は微笑んで頷いた。


「はい、出かけてきます。昼食は外で頂きますので、夕食を楽しみにしていますとご主人にお伝え頂けますか? 昨日の夕食もとても美味しくて…」

「まぁっ!! ありがとうございます。主人も喜びます!!」


私の言葉にパァッと顔を輝かせた女将さんが嬉しそうに笑う。


「和馬、どこに行くの?」

「鈴には内緒ぉ」

「何よ、疾風には聞いてないわ!」


不機嫌そうに、スズさんはキッとハヤテ様を睨んでいた。

そして私を見るとスズさんはニコリと笑って言った。


「今日はどちらに行かれるんですか?」

「えっと、街の案内をして頂く予定で…」

「それなら、私も一緒に行きましょうか? 女の子の好きそうな所なんて解らないだろうし」

「鈴! 今日は団体のお客様がいらっしゃるんだから手伝ってもらうって言ってるだろう!」


女将さんの言葉にスズさんは唇を尖らせた。

そんな顔をしても可愛いなんて、羨ましい。


「えぇーっ! 折角来たのに女の子の喜ぶ場所なんて知りそうも無い男が案内なんて可哀想よ!」

「そんなこと言ってサボろうとしてるんだろう! ほら、サッサと厨房に行きな!」


女将さんに強く言われ、スズさんは頬を膨らませてプイッとソッポを向いた。


「あ、あの…今日は無理でも、明日なら…大丈夫でしょうか?」


私が女将さんにそう言うと女将さんは驚いたように私を見て「まぁ、明日なら少しは余裕がありますけどね…」と答えたので私はスズさんを見て「明日、街を案内していただけますか?」と言った。


私の言葉が意外だったのかスズさんは目を瞬かせて私を見つめた。


「グレース姫様にお土産を買いたいので…案内していただけたら嬉しいのですけれど」

「…良いわよ! じゃあ明日ね!」


スズさんはニッコリ笑って頷いた。


「はい、明日」

「約束よ! じゃあ、行ってらっしゃい!!」


スズさんは元気良く言うとパタパタと厨房の方へ走っていった。



「では、私達も行きましょうか。お待たせしてはいけませんし」


私がそう言えば二人はお互いの顔を見合わせてから頷いた。



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