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09 つくってあそぼ


で、唐突だが初心者の剣である。

壊れないので盾にするには最高だが、いかんせん切れ味が悪すぎる。

魔剣ほど、とは言わんが何か言い剣を……作るか!




山ほど在る鉄鉱石に集めた石灰石、そして買い集めた石炭。これが材料だ

何をするかって?原始的な高炉を作るんだよ!

まずは練金屋に行っておばちゃんに練金台を借りる。

鉄鉱石の量に目を剥いていたが気にすることなく酸化鉄分を乾かしつつ取り出しまくる。

スケルトンから得た錆びた剣も砕いて材料にしてしまえ!


で、東の郊外にそこらの石をつかって高炉を気付いていると、周囲に人が集まってきた。

見せ物じゃねえぞ!と叫ぶと人垣は驚いたように逃げていく。

すると残った人垣の中にエリナが居た。


「…また何かしてるの?異臭騒ぎはほどほどにしてよね…」


こんどのは高熱騒ぎにしか成らないぞ!

そういえばエリナは風魔法を取得していたな。もしかすると使えるかも知れないから手伝って貰おう。


「ちょっと鋼を作るんだ。手伝ってくれないか?」


「え?手伝うって何を…」


「風魔法に延々風を送る見たいな魔法はないか?」


「エアコントロールって魔法があるけど…まさか…」


そう、そのまさかだ、エリナには送風機に成って貰う!

鍛冶屋のガデムさんから借りてきた鞴も在るが良い助っ人になるだろう!


で、石の塔の中に石炭と酸化鉄と石灰石をぶち込む。

ついでにスケルトンからドロップした骨や狼の牙なんかも砕いて石灰石の足しにし、こね回してガンガン入れた。

そして下から炎を炊いて風を吹き込み、中に銑鉄が貯まるのを待つのだ!


「ねぇ…コレまだ終わらないの?」


ふふふ、そう簡単に鉄が出来て溜まるか!

俺は銑鉄上面のスラグを初心者の剣で掻き出しながら、加減を見てさらに材料を吹き込む。

こうなったら量作るのが男の子だろ!




で、奇異の目の野次馬も帰って幾時が過ぎ、エリナも疲れ切ってログアウトしてもなお俺は鞴を吹いていた。

炉底に溜まっていく銑鉄…フハハハハ!男の子がコレを見て興奮しないわけはない!


そして充分に銑鉄が溜まったのをみて、俺は軟鉄の棒を取り出した。

先にガデムさんの所で作り、錬金術で不純物を取り除いた鉄の角棒である。

ついでインベントリから借りてきた金床と、鍛冶道具を取り出して地面に据え付ける。

ここからが正念場だ。

俺は鋼を作るぞー!


まず、煮えたぎる銑鉄の上で鉄棒を赤める。

そして赤熱したそれを銑鉄に浸け、しばらくかき混ぜた後取り出しホウ砂を振りかけ折り返し、渾身の力を込めて鍛錬を行う。

ガデムさんの相づちがこんなに恋しいと思ったことも無い、鉄を赤めては銑鉄に浸け、折り返しては銑鉄に浸ける作業を俺は何回となく続けた。


――そして10回、千層にも渡り練り鍛えられた鋼鉄がそこにあった。


古代中国で作られていた炒鋼法と呼ばれる鋼の作り方…のアレンジ品である。

転炉なんて作れないんだからこっちの方が早い…はず!


そんな鋼を銑鉄が使えなくなるまで幾本か作り、起きてきたエリナに礼を言うと俺は鍛冶屋に駆け込むのだった。




「なんだこの鋼は?シマッシマだなぁ」


ガデムさんの開口一番がこれである。


「しかし面白い鋼を作ってきたじゃないか。お前は毎回よくわからんものを作ってくるから面白い」


心から笑みを浮かべたガデムさんは、そういって蒼鈍く光る鋼の固まりをためつすがめつしている。


「今回も俺が手伝おう。こんな珍しい鋼を見るのは初めてだからな。職人冥利に尽きるってもんだ」


銑鉄の方も引き取るぜ?と言ってくれたのでそちらは買い取ってもらい、俺たちは鍛冶作業にはいるのだった。




既に練り鍛えられた鋼故に、そこに鍛錬はない。

ただ剣の形にするだけだが、剣の形をしたインゴットを鍛えるより遙かに難しい。

曲がらぬように均等に叩けばきっと薄く成りすぎる、かといって叩かねば形を作る事は叶わない。

鋼と会話するように、俺とガデムさんは鋼をもくもくと叩き続けた。




「出来たっ!」


焼き入れを、焼き鈍しを施され、鍛冶押しをし、研ぎあげられた刀身には木目の様な僅かな縞が光っている。

それは何の変哲もない直剣。そこには俺たちの魂が籠もっていた。


「よーし、拵はサービスだ今から柄と鍔も付けるぞ!」


ガデムさんはそう言ってブロンズ固まりを叩き出し、あっさりと無骨な鍔と柄頭を作る。

そして薄切りの木で柄を挟んで、革で巻こうとし始めた。


「あ、ちょっと待って下さい」


インベントリから出した膠で木を堅め、革を巻き締めるのも固めると、ガデムさんは感心した様子でこちらを見ている。


「おめーは色々知ってるもんだなぁ、他の旅人にゃそんな工夫はねえぜ」


他のPLはこういう事をやらないのか。少し驚きだ。こんなになんでも出来るのに。

そしてガデムさんが用意した鞘に剣を入れると、腰に差す。

まるで吸い付くように鋼鉄の剣が俺の腰に鎮座した。


『綾杉肌鋼鉄の剣:特殊な製法と材料で作られた剣。高い靱性を誇り美しい刃紋を有する名剣』


…なんかまた微妙に特殊なのが出来たぞ。


「ところでおめー、残りの鋼はどうするんだ?お前が良いなら売って貰いたいんだが」


流石にアレを流通させるのは不味い気がする。

二刀流なのでもう一本作った後は予備用に俺がしまい込む、という事で決着を付けた。

でもエリナにはプレゼントしても良いかな。協力者だし。


そして再びの艱難辛苦の後、もう一本ほぼ同一の剣が出来た。

両腰にぴったりと吸い付く名剣が心地良い。


「しかしよぉ、その右の剣は蟹鋼鉄の魔剣だろ?今更そんなもん使う必要在るのか?」


「まぁ、色々ありまして…」


ああ、なるほど、と納得してくれたガデムさんは、ちょっとまってろといい、魔剣にも同じ拵を施し直してくれた。

色々苦労してるらしいから、おまけだ、と言ってくれていたが…

なんで俺こんな苦労しなくちゃ行けないんだろ。ただ全力なだけなのに…





スンッ


軽い音がしてわら人形が切り落とされる。


スッスンッフュン


連撃の前に、高速修復していくわら人形は治ると同時に切り刻まれていく。


「精が出るなー」


訓練場のおっちゃんは気軽に声を掛けてくるが、今の俺には聞こえない。

ただ早く、ただ多く、ただ鋭く。

――ただ強く。

名剣の刃筋は過たず直線を描き、切れ味は手に無駄な負荷を掛けない。

俺の剣はどんどん加速した。


「ああ、「入っちゃってる」か」


苦笑が浮かんでいたようだが、やっぱりその顔は俺の目には止まらなかった。

加速し、加速し、カソクする 。

ただすべてを斬るために自分の心を集中させていく。

そしてある瞬間、ピタリと動きが止まった。

想像の中の巨大骸骨を倒せた。

そう確信できたのだ。



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