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最終話 未来

 気がつくと俺は病室にいた。

 部屋には二年ぶりの両親がいた。

 二人とも泣いていた。

 どうやら俺は生死の境を彷徨ったらしい。

 なんと脆弱な!

 これは鍛え直さんとな。

 まずは下半身の強化か。

 あー。めんどくせえ。

 ってもう戦わなくていいのか。


 俺は至高天を放棄した。

 因果律をねじ曲げての願望成就なんて俺には使いきれない。

 永遠の命を望んで人類が滅んでも生き続けるとか。

 世界征服を望んで家から一歩出たら暗殺されるとか。

 死者の復活を望んで死者が死んだそのままの姿でやって来るとか。

 おとぎ話でよくあるだろ?

 破滅するのがオチだ。

 とても俺の器じゃ扱いきれん。

 どんなに素晴らしい奇跡の力であろうとも使うのは俺なのだ。

 俺はキリストにも仏陀にもなることはできない。

 火傷する前に手放すべきだ。


 しばらくは暇な時間が続いた。

 というか……死にかけていた。

 ある程度元気になると毎日のように警察が来た。

 西原が連中の計画を聞いているはずだ。

 だから『計画のこと話しているのを聞いて、連中に問いただそうとしたら刺された。あとは夢中だった。良く覚えてない』で誤魔化すことにした。

 警察は俺の言葉を疑っていたが、俺が犯行に関わってた証拠など何も出るはずがない。

 俺は男子に死ぬほど嫌われていたしな。

 最近では航空機テロを未然に防いだ中学生として讃える方向で落ち着いたようだ。

 なんか裏に大人の汚い思惑が見え隠れする。

 市長やら知事やらが猫なで声で電話をかけてきたらしい。

 釈然としないが褒められているのだ。

 まあよしとしよう。

 テレビでも連日、俺が飛行機で暴れたニュースがやっていた。


 中学生二人が互いの両親殺害後、航空機爆破を計画!

 クラスメイトのほぼ全員がハイジャックに関与か!?

 ハイジャック計画を勇敢な同級生が阻止か!?

 同級生は一時意識不明の重体。


 センセーショナルな見出しで事件の事を伝えていた。

 ほー。

 一人重体。

 そりゃたいへんだ。

 って俺の事か。

 血を出し過ぎたしあちこち骨折したけど、だらしのない腹のおかげか内臓にクリティカルなダメージはなかった。

 まったく大げさな。


 結局、爆破計画には綿密なハイジャック計画まで存在した。

 関与していたのは小室だけではなかった。

 男子生徒の何人も、いやほぼ全員が何らかの形で菊池の計画に関与していた。

 頭の悪い山岸が計画をぶちまけて全員で醜い責任のなすりつけあいをしたせいで、その異常な犯行の証拠がゴロゴロ出てくるわ出てくるわ。

 こういうのは全員で白を切り通さない限り、全員が損をするとするという。

 ゲームの理論を知らないバカどもよ!

 せいぜい苦しめ!!!

 愚かな男子生徒たちは菊池と小室に騙されていたのだろう。

 偽善の能力を使いながら『ハーレムが作れるぞ』とかな。

 結局、バカどもは皆殺しにされ小室一人でハーレムを築くわけだ。

 バカだねえあいつら。


 この事件の被害は甚大だった。

 菊池と小室はお互いの両親を殺害。

 計4人死亡。

 ハイジャックやら飛行機の爆破やらの未遂に俺への殺人未遂。

 男子生徒はほぼ全員が逮捕。

 逮捕者山盛りで校長は土下座からの辞職。

 すでにネットにはバカどもの顔写真などの個人情報が出回っている。

 あーあ。

 あいつらの親まで全員破滅だわ。

 俺の方もなぜかヒーローとして晒し者に。

 ヒーローを作って空港関係とか教育関係の人たちの人身御供をなるべく出さない方針だろうか?

 そのための意図的なリークだろうか?

 どうにも勘ぐってしまう。


 刑を免れたとしてもバカどもは高校進学すら難しいだろう。

 ハイジャック犯の汚名は一生ついて回る。

 人生パーでやんの!

 ざまあ!!!

 でも壁に塗り込まれるよりはなんぼかましだろ?

 俺は助けてやんない!

 追い打ちでバカどもからも刺された分の賠償金もふんだくってやるもんね!

 俺は神様じゃないし。

 そのくらいは許されるはずだ!


 二人の両親に関しては俺はどうすることもできない。

 二人の家の場所知らないからな。

 もう至高天も他の能力も使えないし。


 そんなことを考えていると病室に誰かが入ってくる。

 細川が入ってきた。

 金髪で化粧の濃い、懐かしい顔の細川だ。


「タカムラ……大丈夫」


「ああ……」


 俺は返事だけ返した。

 世界は元の時間に戻った。

 あの世界のことを覚えているのは俺だけだろう。

 向こうの世界のメイもサイガも両親の元で幸せに暮らしているはずだ。

 もう侵略者はいないのだ。

 美海も元の暮らしをしているはずだ。


 そして俺と細川は全くの他人になった。

 退院したらアタックする予定だが、たぶん玉砕するだろう。

 でもそれでいい。

 細川が幸せなら。

 俺と出会うこと自体がイレギュラーだったのだ。

 俺と細川の線は交わらない。

 それが本来の世界なのだ。

 人生がクソゲーなのには馴れてるだろ。俺。

 あきらめろよ。

 細川は今の俺より良い男捕まえて幸せになるさ。

 ……泣いてないもん。

 泣いてないもん!!!

 男の子だから我慢するもん!!!

 俺が一人絶望を我慢しているとなぜか細川は顔を赤らめた。


「あのさ……なぜかさ。私、エンジニアになりたいって思ったんだ……」


 あの世界の影響だろうか。

 それは昔の細川だったら言わないような台詞だった。


「夢が叶うといいな」


 そうか……遠い存在になっちまいそうだな。

 俺の方は受験どうしよ!

 二年でかなりバカになってるぞ!

 はうーん!

 人生終了のお知らせ。


「あのさ。タカムラ!」


「あ、ああ」


 なんだろうか?

 様子がおかしい。

 顔が真っ赤で妙に色っぽい。

 なんだ?

 すると細川は意を決したのか俺に大きな声で言った。


「つきあってくれ! 飛行機での活躍見てた……かっこよかった!」


 この時の俺は羽が生えそうだったね。

 そのままパタパタ天に昇っちゃいそうな気分だった。

 だから、俺は素直になることにした。

 このチャンスは逃さん!!!


「ああ、よろしく」


 俺は笑った。

 ……少しにやけていたのは内緒だ。



 二年後。


「ついにこの日がやって来ました!!! 日本の古武術は本当は強いんです!!!」


 どこのアナウンサーもうるせえもんだな。

 俺は思った。



 あのあと……吉田は賄賂の件が発覚し教師をクビになった。

 正確に言うと「拒否権なしで辞職を求められた」か。

 賄賂は自業自得だが、吉田がクビになったのはちょっとだけかわいそうだ。

 異世界では吉田頑張ったのに!

 吉田は地元で小さな道場を開いた。

 凶悪な生徒をムリヤリ押しつけられた形だったのは知られていたので地元の住民も同情的だった。

 教えているのは総合格闘技やら柔術やら、古武術やら……

 学習塾も併設している。


「ふふふ。受験テクニックだけで大学受験を乗り切った俺の技を見せてくれる!」


 だそうだ。

 この少子化の時代でそれなりに稼げているようだ。

 吉田って案外商売うまいのな。

 吉田への漠然とした罪悪感から俺は最初の門下生になった。

 学習塾も入ってやった。

 細川と二人で。

 必死こいて勉強しましたとも!

 おかげで細川と一緒に地元の進学校に行くことができた。


 そして……俺は高校生やりながら格闘技の試合に出ている。

 最近アメリカの大手格闘技団体と最年少契約した。

 つい……調子に乗ってトーナメントに出場しまくってたらこんな感じに……

 まあそれはいい。

 吉田も俺もそれなりにハッピーだ。

 そう。

 これは少し派手なバイトなのだ。

 背もこの世界帰ってきたら急に伸びたし。


 ちゃんと170㎝を越えましたとも!!!

 うけけけけ!!!


 戦闘経験は無駄に豊富だ。

 吉田が古流柔術や剣術も教えているせいか、古武術の申し子という宣伝文句がついている。

 なにこの嘘まみれ!!!

 古武術の方はちゃんと習ってないのに!

 さらに飛行機テロの件も俺は伏せているのに、吉田がわざとリークしている。

 このクズが!!!


 だがそのせいか、わりと人気者だ。

 日本人には珍しく勝率は高い。

 スポンサー契約も順調。

 プロモーションが大事。

 それは二年間で嫌と言うほど学んだが、この世界でもそれは同じだった。

 ……大人の世界って相変わらず汚い。


 そして俺はアメリカに来た。

 試合に出るためだ。

 勝てば一攫千金、負けても痛いだけ。

 闘争心を発散するにはちょうどいい。


 俺はオクタゴンリングに上がると腕を見た。

 腕のタトゥーはミミズ腫れのようになっていた。

 あの事件で負った怪我だと周囲には説明している。


「タカムラー!!! お前のファンのJCをお嫁さんに!!!」


 吉田のバカが叫んだ。

 アメリカだとその発言だけで逮捕されるんじゃね?

 ファイトマネーの何割かが懐に入って、道場経営も笑いが止まらないんだからそれで我慢しろ!


 俺は相手を見た。

 全身入れ墨。

 だが恐怖心はない。

 だってあの小室より怖いヤツなんていないだろ?


「タカムラ! 負けたらタマ潰すぞ!!!」


 細川の声が聞こえた。

 うわーお!

 それは困るぜ!

 頑張らなきゃ!


 リングの鐘が鳴る。

 俺と対戦相手は間合いをつめる。

 拳と拳が交差した。

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