細川さん(上機嫌)
「気づいていなかったのか……」
吉田があきれ果てたと言った声を出した。
なんだとこの野郎!!!
「あー……サイガ。コイツはちょっと頭が残念なだけなんだ。見捨てないでやってくれ」
「いや吉田の旦那。タカムラは17歳になったばかりにしてはマシな方だと思うぞ……」
だよねー。
ですよねー!
ねー!!!
俺はバカじゃないもんねー!
「いやでもコイツ、たぶん細川の能力にも気づいてないぞ」
「え? 細川がなに?」
「ほらな」
「はあ、やれやれだぜ」と吉田はため息をつく。
吉田のこういう態度はよくないと思う。
そういう態度だから彼女いないんだよ!
あくまで上から目線でプンプンと怒っていると吉田は深くため息をついた。
「あのなタカムラ。細川は拳銃を作っちまったんだぞ」
「だって細川職人じゃん。アゼル修理できるんだからそのくらいできるんじゃね?」
「おバカ……」
吉田は顔を押さえた。
そこまでバカな発言したつもりなんですけどー。
ちょっと酷くね?
なんで今日は俺への当りが強いの?
ねえ!
「クソ難しいんだよ! 拳銃ってのはもの凄く難しいの! 形だけ似せればいいんじゃないの!」
おー……うむ。
よくわからんが難しいんだな。
「あのなタカムラ。思い出してみろ。ここにやって来るかなり前に3Dプリンターで拳銃作ったヤツがニュースになっただろ」
もう二年以上前の話だ。
記憶が曖昧だ。
でもなんかそんな話があったような……
「あったような……」
「ニュースになるくらい完成品を作るのは難しいって事だ」
「あーすっげー納得した」
バカのレベルに話を合わせましたって吉田のツラが気にくわないけどな……
あれ?
でも……あの人いりゃできるんじゃね?」
「ダ・ヴィンチの爺さんが手伝ったんじゃ……」
熟練工がいるじゃん!
もうシャチョさんの嘘つきー。
俺驚いちゃったぞー。
もういやんばかん!
「ああ。手伝った。だが一から作るのは難しい。だいたいな、セクション47には銃器がないんだよ! 完成品のコピーじゃねえんだぞ。一から作るのは至難の業だ」
あーそう言えば2年前くらいに「なんでだろう?」って言ってたな。
サイガも聞いてたよねえ……
「……反乱を防ぐためだ」
サイガが重く静かに言った。
「どういう意味……」
「簡単だ。武器は気を大きくさせる。武器を取り上げるのは暴動への抑止になる。自分たちが確実に負けるからな」
「はい。タカムラ。結論は?」
「ここには武器はない。セクション47が反乱を起こすのを恐れているわけで……セクション47は他のセクションの植民地なのか!」
「飼い主の顔も知らないし、飼われてるって自覚もないし、納入も支払いもされてるけどな」
サイガが肩をすくめた。
確かに異常と言えば異常だ。
顔も知らない相手と取引をしてるのだ。
「じゃあどうすんだよ? 武力行使するにしたって向こうの方がすっげえ銃持ってたら勝てないだろ?」
俺がそう言うとサイガが「にへら」っとだらしなく笑った。
「あるぜ」
「へ?」
「銃ならあるぜ。一丁だけな。キクチの野郎が親父を後ろから撃った銃がな」
そう言うとサイガは立ち上がった。
「来いよ。渡すぜ」
サイガはずうっとへらへら笑っていた。
なんだか気に入らないね。
なんでだろう?
俺は理由もなく腹を立てたことを疑問に思いながらサイガの後を着いていった。
領主の館は区画で分けられているセクション47ではビルみたいなものだ。
地下にもわけのわからない空間がある。
無邪気に探検する年でもないしなあ。
というわけで俺の知らない部屋がたくさんあるのだ。
別に暗いのが怖い訳じゃないぞ。
常夜灯がないから近づかなかったわけじゃないんだからね!
地下の一室にそれは置かれていた。
運搬用の鎖に繋がれ、天井からぶら下がっているそれ。
長い銃身。
すらっとしたフォルムで俺たちから見て未来的なデザイン。
かろうじてわかるのはスコープだった。
俺たちの世界の銃とは微妙に違う。
「これは?」
「光学兵器ってやつだ。レーザー銃だな」
「バッテリーは?」
「充電式のカードリッジだ。一回の充電で100発は撃てる。アゼルには標準機で6個収納できるはずだ」
「へぇー凄いじゃん」
「だからバカかお前は……」
今日の吉田はイジワルだ。
なんだか感じが悪い。
言っている事自体は正論だけど。
「弾倉の交換なしで100発も撃つような戦闘が普通って意味だぞ。アメリカ軍だって30発を12個とかだぞ。どんだけ激戦なんだよと」
うーん。
実際戦場に行ったことがないからよくわからん。
でも……飛び道具がビュンビュン飛んでくるのかあ。
そりゃ怖いな。
狭い闘技場じゃ弓とかは不利だから誰も使わなかったけど広いところで集団で使われたらと思うとヤバいのはよくわかる。
で、銃なんかはその数百倍の量が飛んでくる訳だ。
うん。
軽く死ぬな。
で、アゼルにそこまでの弾が必要かと言われるとあやしい。
つまり弾が多く必要って事は……
「このあいだの蜘蛛の集団みたいなのが普通ってことか?」
「だろうな」
うーんマズイ。
蜘蛛の集団に勝つには『煉獄』で焼き尽くすくらいしか思いつかない。
それも制御できればの話だもんなー。
連射するとか、目に入るもの全て焼き尽くすとかができればなんとか……
この間の火災旋風だと焼き漏れが結構あるし、俺自身が巻き込まれる可能性がある。
正直言って使い方はわかったけど制御できる自信はないのだ。
「うむ。とりあえず細川の所に持って行くぞ」
「おうよ!」
こうして俺たちは細川の所に急いだのだ。
超クソ重い銃を運搬車に積み込んだりとか苦労をしまくりながら……
◇
「タカムラ! 面白いもん持って来やがったな! 愛してる!!!」
細川は毒づくのか感謝してるのかわからない態度でピョコピョコと跳ねている。
どうやら嬉しいらしい。
……細川さん。
あなた結構イケる口ですね。
「分解そう! ねえ! さっそく分解そう!」
細川の瞳が輝く。
この娘……ぜったい花とかよりこういうのが好きなタイプだ。
「ああ。先に設計図を見てくれ」
「おうよ! 見たら分解すぞ!!!」
「えっと細川はこのままそっとしておこう」
「うむ」
「だな」
完全にエンジニアモードになった細川を置いて俺たちは先に帰ったのである。




