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細川さん(暗黒前)3

 セクション47には娯楽は少ない。

 映画館のようなものもなければ、ショッピングができる場所も限られている。

 あるのはずらりと並ぶ水耕栽培施設。

 アゼルを整備する工房。

 領主の館(おれんち)

 それに闘技場。

 俺たちはその中の広場でベンチに座る。

 公園。

 と言っても床は滑り止め加工がされた鉄板。

 そこに不格好な金属製のベンチが鎮座していた。

 色気も何もない。

 もちろん、子ども達も遊んでなんかいない。

 正直言ってつまらないからな。

 太陽がないとここまで味気ないものなのか。

 俺はぼけっとしながら思った。

 俺たちはたわいのない話をする。


「タカムラ。お日様見たんだって?」


「うん。ありゃ……感動したわ」


「そっか。私も見たいなあ」


「安全になったらな」


「約束だよ」


 約束だよ。

 約束だよ。

 約束だよ。

 俺はなぜかその一言に胸が痛くなった。

 心が痛い!

 やはりあのことを黙っているのはフェアじゃない。

 俺は覚悟を決め気合を入れた。


 そう。

 俺のマッチ棒の命運がかかっているのだ。

 いやマッチ棒だけではない。

 細川へケジメというものをつけねばならない。

 俺はあのクズどもとは違う。

 誠意を見せて筋を通すのだ。

 そうだ俺だけはクズになっていけないのだ!

 覚悟完了した俺の目が光る!


「すいませんでした!!!」


 俺はベンチから立ち上がるとすぐさまダイビング土下座をした。

 床が鉄板なのでちょっと痛かったが気にしない。

 俺のマッチ棒はこの土下座にかかっているのだ。


「なに? どうしたの?」


 細川がキョトンとしている。

 よし今だ!

 今ならマッチを折られない。


「結婚しました。……申し訳ありません。ごめんなさい!」


 俺の額に冷や汗が浮かぶ。

 赤騎士と戦ったときより数倍緊張するぜ。

 ところが俺の謝罪に対する細川の返事は意外なものだった。


「知ってるよ。テレビでやってたもん」


「はい?」


 俺はツラを上げた。

 さぞかし間抜けなツラをしていただろう。


「事情を話して。タカムラは山岸とか菊池みたいにいい加減なヤツじゃないでしょ?」


 細川は前髪をいじっていた。

 声色はやたら優しい。

 だが、俺の目にはそれが爆発寸前の火薬樽にも思えた。

 ごくり。

 俺はつばを飲んだ。

 正直に話すのだ。


「サイガの妹だ。嫁にしたのはいくつか理由がある。まずサイガがメイを嫁にしたら奴隷商の免許を俺にくれると約束した。奴隷商になれば、みんなを取り戻すのに都合がいいはずだ」


 そう言った瞬間、細川がため息をついた。

 その表情は落胆でもなく、怒りでもなかった。

 やっぱりね。

 そう言っていたのだ。


「んじゃ他の理由は?」


「山岸の野郎が素直に嫁にしていた。あの野郎がメイを嫁にするわけがない。なにかあるはずだ」


「え、なんで? あいつ女だったらなんでもいいヤツでしょ?」


 おっと余計なことを言ってしまった。

 山岸のストライクゾーンは小さい男の子なんて言えるはずがない。

 これ以上の死体蹴りは絶対にダメだ!

 さすがにこれは武士の情けなのだ。

 これ以上は言わないでやろう。


「いや……酒場の姉ちゃんに入れあげてたらしくてな」


「へー。そうなんだ」


 うんそうだよ。

 俺は澄みきった目でそう言った。


「へー。ところで今なんで嘘言ったの?」


 んが!!!

 バレていらっしゃる!!!

 俺の心臓が跳ね上がる。

 女ってこええええええええ!!!


「いや……それはね……言えないんだって! 男として」


 ちびりそう!

 怖いよー!

 でも言わないのだ!

 たとえ山岸がクズでも言ってはならないのだ。

 だって俺……修学旅行前にPCの中身消してこなかったもん……

 少しだけ気持ちがわかるぜ……

 細川の眉がぴくりと動いた。


「そう……わかった。あんたがそう言うなら聞かない」


「……ありがとう」


 いやに素直だ。

 なぜか生命の危機を俺は感じた。

 俺がドキドキしていると細川が突然俺にハグをした。

 俺は一気に顔が真っ赤になる。

 あー!

 どうして俺はこう格好つかないんだ!!!


「ありがとう。あんたは私を傷つける嘘は言ってないのはわかった」


 どうして女子は男の嘘を瞬時に見分けるのですか?

 なにかのリアルチート能力ですか?

 細川の心臓の音が伝わる。

 細川もドキドキしてる。


「あんたはいいヤツだ。2年前から……ううん、もっと前から知ってた」


「細川……」


 なんだろう。

 細川は前から俺の事を……

 俺の心臓は今までにないほどバクバクと高鳴っている。

 俺の体を引き離すと細川はにっこり微笑んだ。

 これは……もしかして!!!

 って違うわ!

 俺はメイにも筋を通さなければならない!

 ちゃんと話し合って細川もメイも納得できるようにしなければならないのだ!

 正気になれ俺!!!

 話し合うのだ!

 俺は真剣な目つきで細川の目を見た。

 すると細川は……


「でも……12歳の女の子に手を出したら殺すから」


 絶対零度の声で言った。

 俺はきゅっとした。

 どこかだって?

 秘密。


「ハイ。モチロンデアリマス……マム!」


 こ、怖い!

 怖すぎて口調が軍隊になったぞ!


「あとさ」


「は、ハイ!」


「私は別れる気ないから」


 細川は焦点が合ない瞳から光沢が消え、虚ろな目をしていた。

 それはいわゆる虚ろ目だった。

 薄笑いを浮かべながら。

 初めての彼女はヘビー級の愛の持ち主でした。

 どうする俺!



 うん。

 たぶん上手く伝えることができた。

 だって凄く必死になって謝っていたもの。


 まったく、可愛いヤツだなあ。

 あんなに動揺して。


 タカムラとのデートが終わり私は工房へ送ってもらった。

 非情に満足な気分だった。

 うーんこういう話って初めてで戸惑ったけど、ちゃんとわかってもらえたみたい。

 もう、ちゃんと言えばいいのに。

 みんなを助けるためだってちゃんとわかってたよ。

 そういうヤツだってわかってるから好きになったんだから。

 抱え込まなくてもいいのに。


 でも……調子に乗って12歳の女の子に手を出したら殺す。

 それは人としてありえない。

 もしやったらXXXXすり潰してネズミに食わせてやる。


 でもさ、12歳の女の子に嫉妬してるって思われたらやだな。

 12歳は明らかに恋愛の対象じゃない。

 セーフだ。

 浮気とかじゃない。

 それにタカムラは視線が私の胸に行くときがある。

 ロリコンじゃないはずだ


 ……吉田先生は「男の子はみんなロリコンだ!」って言ってたけど本当かな?


 違うよね?


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