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煉獄の巫女

 俺は新しく我が家になった領主の館で寝ていた。

 と言ってもサイガも吉田も同じ家に住んでいる。

 サイガの実家なのでここで働いている従業員を動かしているのはサイガだ。

 サイガは毎日頑張っていた。

 山岸にめちゃくちゃにされたセクション47を立て直そうとしているのだ。

 俺が寝ている今もまだ働いているだろう。

 かと言って俺が手伝っても喧嘩しか能の無いガキでは邪魔になるだけだ。


 やはり俺にはサイガの真似はできない。

 俺よりサイガの方が領主に向いている。


 無駄にデカいベッドにごろんと仰向けになると天井が見えた。

 非常用照明がごく薄く明りで天井を照らしていた。

 俺は天井を見ると急に不安になった。


「俺はいったいどんな大人になるんだろうか?」


 俺はかすれるほどの小さい声で独り言を言った。


「私の旦那様ですわ」


「いやそうじゃなくてね。どんな職業に就くのかなと」


「領主ですわ?」


 いやいやいや。

 俺は領主に向いてないっしょ……って……

 ん?

 俺は誰と話してるんだ?

 俺はがばりと起き上がる。

 そしてベッドの周りときょろきょろと見回す。


 いた!!!


 この無駄に大きい領主用ベッド。

 俺が寝ていた真横。

 うつぶせで頬杖を着いたメイが足をパタパタさせている。


「なんでメイちゃんがここにいるのかな?」


 俺はなるべく優しい声で聞いた。

 内心はもの凄く驚いて心臓がバクバク鳴っていたが、顔には出さないでいられはずだ。


「お兄様が夫婦は一緒に寝るものだと仰りましたの♪」


 サイガアアアアアアアアアアアアァッ!!!


「あのね。そう言うのはまだ早いんじゃないのかな?」


「でも一緒に寝ると子どもができるってお兄様が」


 サイガてめえ完全に遊んでるだろ!

 正しい知識の方を教えてやれええええええええええぇ!!!

 妹の暴走止めやがれええええ!!!


 ……って、ん?

 ちょっと待てよ。

 これって穏便に事態を収めるチャンスじゃね?

 そう思った俺はメイの方を向く。

 真剣な顔でだ。

 よし、本音で語ろう。

 ちゃんと誠意をもって話をするのだ。


「あのね。メイちゃん」


「メイとお呼びになってください。旦那様」


 ニコニコしている。

 う!

 なんだか拒否できないオーラが……


「……メイ」


「はい♪」


 嬉しそうだ。

 なんだか真剣な話をするのは申し訳ない気分だ。

 だがやらねば!!!

 俺は目を力強く開いた。


「大事な話がある」


「はい」


 いきなり態度の変わった俺の姿にメイはキョトンとしている。


「俺は近いうちにサイガに領主の地位を返そうと思ってる。俺は領主ってガラじゃない」


 そうだ。

 サイガに全てを返してやった方が誰もが幸せになれるはずだ。

 そしてメイもちゃんと解放してやるのだ。

 結婚式とかも誤魔化して……


「だからメイとは……」


「不可能ですわ」


「え?」


「旦那様のその腕にある『煉獄』。それこそ勇者の証、領主であることの証明ですわ。そして煉獄はいまや旦那様のもの。そして私は『煉獄』の巫女。私たちは一心同体ですわ」


 サイガには秘密が多い。

 俺の煉獄についてもなにも言わなかった。

 だからようやく俺は山岸がメイを大事にしまって置いた理由を理解した。

 サイガと一緒に追い出してもよかったはずなのに。

 追い出せなかったのだ。


「巫女って……具体的にはなにをするんだ?」


「いろいろですわ。例えば旦那様の煉獄を兵士に分けたり……」


 分けられるのか!!!


「そ、それはサイのないヤツにも……」


「もちろん♪」


「うん。じゃあ寝ましょうか」


「はい」


 俺はいきなり手の平を返す。

 だって煉獄関係だもん。

 機嫌をそこねるわけにはいかない。

 しかたないじゃん!

 それに添い寝だけだ。

 そのくらい許されるよね?

 倫理的に。

 別にエロいこと考えてないし。

 エッチな気分にもなってないし。

 細川も許してくれるはずだ。

 ……許してくれるよね?


 その時、俺の頭からは誠意はどこかに飛んでいってしまい、セクション46攻略のことで頭がいっぱいになっていた。

 そういういい加減な態度が、またもや俺のマッチ棒の危機の発生となるのだが……それはまた別の話。

 ごめんな細川!!!

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