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良かった良かった、とほのぼのとした雰囲気で笑い合う二人だが、話はまだ終わっていない。帰ると言いながらも、飾られた装飾品を見ながらあれが似合うこれが可愛いと喋り始める二人を引き留めた。
「ちょ、ちょっと待ってください」
「はい?」
「クーを、お二人のもとに家に連れて帰ろうという話ではないんですか?」
二人は顔を見合わせて、
「いえ、全然」
「とんでもない」
同時にかぶりを振った。アンゼリカは「そんなことをしたら、私たち、あの子に嫌われてしまいます」と、不満そうな表情すら見せて。
「私たちは、あなたに今後の方針を伺いに来ただけです。『あの子が宝石を吐かなくなる』その事実を知った宝石商のあなたが、あの子をどうしたいかという、あなたのお考えを」
「スプートニクさん、ただの人間であるあなたに、これ以上の迷惑はかけられません。もしあなたが、あの子のことを不要だとおっしゃるのなら、僕らはどのようにしても、あの子を家に連れ帰るつもりでした。……ま、ファンションの報告の通り、ただの杞憂でしたけれど」
ユキの報告。あれは自分のことを、はたしてどのように彼らに伝えてきたのか。そんなことを思うと、少し居心地が悪くなる。
とはいえ、これからも自分は、あれを雇っていいということだ。
二人は頭を下げた。
「あの子たちのこと、今後とも、どうぞよろしくお願いします」
こちらこそ――と答えかけて。
はたと気付く。
「あの子『たち』?」
「ええ。あの子『たち』」
繰り返すと、アンゼリカは頷いた。「だって」と口を尖らせ、不機嫌そうに眉を寄せる。その視線はスプートニクの後ろに注がれている。
「ファンションといいソアランといい、もう充分な大人ですのに、夜毎散々遊び回っては周りに迷惑をかけてしまって。自分の能力が人より強大だという自覚もなくて、関係者一同、困ってしまっておりますの。オリヴィアも深々とため息をついていたわ」
「お前ら」
「ファンションがいけないんだ」
先ほども聞いた、魔法少女の件だ。睨みつけると彼はそっぽを向いた。
アンゼリカは頬に手を当て、呆れたといった様子で首を傾げ、ダニエルは笑って「君たちは本当に変わらないね」と言った。
「というわけで。あの子たちのこと、今後ともどうぞよろしくお願いしますね」
「丁重にお断り申し上げます」
これ以上、魔法使いの騒動に巻き込まれてたまるか。
しかしそれで元気を取り戻した馬鹿が一人いた。
「今後ともよろしくスプートニク!」
「お前もう帰れ!」
「痛い!」
席を立ち、承認を得たりとばかりに馴れ馴れしく肩に手を置いてきたから、スプートニクは尻を思い切り蹴ってやった。
「失礼ながら、奥様。あなたが一番、こいつらを収めるのに適任でいらっしゃるのでは? こいつも、ユキの奴も、あなたのことはそれなりに慕っているような様子ですが」
「あら。嬉しいわ」
彼らの過去の話を思い返しても、アンゼリカのことは二人とも恩義に思っていたようだ。彼らを制御したいのなら、力で押さえつけるよりも頭の上がらない人間を置いた方がいい。だからそう提案するが、アンゼリカは、曖昧に笑った。
「だけどね、それは難しいの」
「どうしてですか?」
「私、激しい運動は医師に止められているんです」
……また、言葉を失う。
宝石を吐けなくなった体で生きていくということは、体にまったく負担がない、というわけではないらしい。
スプートニクは、かつてユキの道具によって魔力を奪われ苦しむ魔法少女の、というか魔法使いソアランの姿を見ていた。きっとそれと同じことだ。魔力を碌に作り出せない体というのは、やはり日常生活にも大きな影響を及ぼすのだろう――
――というわけではなかったようだ。
夫妻は顔を見合わせ、はにかむような笑みを浮かべた。
「実は今、五か月で」
自分の腹を、愛おしそうに撫でるアンゼリカ。
呆気に取られたスプートニクは、祝福の言葉をかけるのをすっかり忘れてしまった。
二人はスプートニクのことを悪くは思わず、またディスプレイに並べた品物も気に入ってくれたようだ。「次は息子が産まれてから、お客として参りますね」との言葉を残して、現れたときと同じように突然に去っていった。
まったく嵐のようだった。カウンターに寄りかかりながらため息をつく――と、
「……スプートニク」
これまた力なくカウンターに突っ伏したソアランが、彼の名を呼んだ。
「んだよ」
「クリューちゃんの弟さ」
「あァ」
「俺のこと、『お兄ちゃん』って呼んでくれるかな……」
「お前のその『お兄ちゃん』呼びへの憧れって何なの?」
書類上も血縁上も他人だろう、とは言わないでおいてやった。
何にせよ、これからまだまだ、スプートニクの気苦労は続きそうだ。はーぁ、と長いため息をついた――と同時。
――カラン、カラン。
ドアベルの音がして顔を上げると、入り口に、従業員クリューが立っていた。
「ただいまです」




