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無職のおっさんの異世界AI生活  作者: 無職のおっさん


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55/62

第55話 仮面の下の着信

 仮面の男の杖が、俺の背中に触れていた。


 冷たい。


 石みたいに冷たいのに、そこから白い熱がじわじわと染み込んでくる。


「次は、その一人を――誰のために使いますか」


 耳元で言われた。


 俺はユラの腕を掴んだまま、振り返らない。


「使わない」


「そう言うと思いました」


「なら聞くな」


 仮面の男は、少し笑った気がした。


 見えないけど。


 声で分かる。


「あなたは、何も選ばない」


「選ぶ」


 俺は言った。


「でも、お前らが出してくる二択は選ばない」


「同じことです」


「違う」


 俺はゆっくり息を吸う。


 目の前にはユラ。

 倒れているハルキ。

 短槍を構えるゴウダ。

 震えているセナ。


 視界の端には、まだ白い霧の世界が残っている。


 ミナに似た少女。

 顔のない俺の影。

 近づいてくる仮面の影。


「俺は、助ける順番を決める」


 仮面の男が黙る。


「一人を捨てる順番じゃない」


「順番を決めることは、選ぶことです」


「違う」


「何が違う」


「戻るための道を、増やす」


 俺は黒いスマホを持ち上げた。


 画面はまだ暗い。


 でも、手の中には熱がある。


「AI」


『はい』


 小さな文字が出る。


 声はない。


「未選択領域の子と、話せるか」


『接続が不安定です』


「繋げ」


『処理負荷が高すぎます』


「やれ」


 画面に白い点が浮かぶ。


 霧の中の少女が、俺を見ていた。


 その向こうで、仮面の影が近づいている。


「お前は、最初に置いていかれたって言ったな」


 声が届くかは分からない。


 でも、少女の影が少し揺れた。


『うん』


「誰に置いていかれた」


 返事はすぐに来なかった。


 白い霧が揺れる。


 遠くで、鈴の音。


『白い人たち』


「何のために」


『わたし、門をつなげなかった』


「ユラみたいに?」


『ちがう』


 少女は首を横に振る。


『わたし、門を、ほどけなくした』


「ほどけなく?」


『帰る道が、消えた』


 胸の奥がざわつく。


「それで、ここに捨てた」


『うん』


「名前は」


 少女は、少しだけ目を伏せた。


『忘れた』


 言葉が出ない。


 名前を忘れた。


 ずっと一人で。

 白い霧の中にいて。


「じゃあ」


 俺は言った。


「俺が呼ぶまで、ここにいろ」


 少女が顔を上げる。


「名前は、今すぐ決めなくていい」


『……うん』


「でも、お前を置いていかない」


 白い霧の向こうで、仮面の影が止まった。


 その瞬間。


 俺の背中にあった杖の冷たさが消えた。


「甘いですね」


 仮面の男の声が、少し離れた場所から聞こえる。


「あなたは、あの領域の子に希望を与えた」


「悪いか」


「希望を持つ者は、門を拒みます」


「なら良かった」


「拒む者は、経路を不安定にする」


「お前らにとってはな」


 俺は振り返る。


 仮面の男は、石柱の前に立っていた。


 仮面の額に焼き付いた日本語が、また変わっている。


 新宿。

 池袋。

 渋谷。


 文字は、黒く滲みながら浮かんでは消える。


「お前は何なんだ」


「案内人です」


「違う」


 俺は一歩、前へ出る。


「案内人なら、子どもを道具みたいに扱わない」


「道具ではありません」


「部品って言った」


「門にとっては、という意味です」


「俺たちにとっては違う」


 男は、黙る。


「お前、昔は日本にいたのか」


「……」


「その仮面の文字。俺が読めるって分かってたのか」


「記憶は、残ります」


「誰の記憶だ」


「多くの者の」


「お前自身のじゃないのか」


 仮面の男の杖が、わずかに揺れた。


 当たった。


「お前も、門に通されたんじゃないのか」


「違います」


「じゃあ、なんで駅名が変わる」


「残留情報です」


「お前の頭の中で鳴ってるんじゃないのか」


 男の仮面に浮かんでいた文字が、一度だけ消える。


 空間が静かになる。


 ユラが、かすかに顔を上げた。


 ハルキも、目を細めて男を見る。


「鈴木」


 セナが小さく言った。


「この人……前に、泣いてた」


 仮面の男が、ゆっくりセナを見る。


「いつ」


「白いお部屋」


 セナは震えながら続ける。


「わたしたちが、石をつけられたとき」


 ゴウダが短槍を構え直す。


 俺は男から目を離さない。


「お前は、子どもを見てた」


「……」


「止められなかったのか」


「止める必要はありませんでした」


「本当に?」


 俺は聞く。


「なら、なんで泣いてた」


 仮面の男の杖が、床を叩いた。


 こつん。


 白い光が、空間を走る。


「黙りなさい」


 初めて声が荒れた。


 ユラの足元の記号が光る。


 ハルキの身体がまた引かれる。


 セナが息をのむ。


 でも。


 仮面の額の文字が、勝手に浮かんだ。


 新宿でもない。


 池袋でもない。


 俺のスマホの着信画面で、何度も見たことのある形式の文字。


 連絡先の名前。


 鈴木。


 ぴりりりり。


 空間に、スマホの着信音が鳴った。


 仮面の男が動きを止める。


 音は男の仮面の下からしていた。


「……何だ、それ」


 俺は思わず言った。


 仮面の男は、杖を落とした。


 からん、と硬い音。


 両手で、自分の仮面を押さえる。


「違う」


 声が震えていた。


「これは、違う」


 着信音は止まらない。


 ぴりりりり。

 ぴりりりり。


 俺の黒いスマホも、同時に震え始めた。


 画面が一瞬だけ明るくなる。


 表示された発信者名は。


 鈴木。


 同じ名前。


 同じ着信。


 そして。


 仮面の男が、ゆっくり俺へ顔を向けた。


 白い仮面の隙間から。


 黒い液体のようなものが、涙みたいに流れ落ちていた。

原案・構想

無職のおっさん


物語構成・本文作成

Perplexity


校正・文体調整

ChatGPT

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