表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺を異世界に飛ばした美少女巫女が、ウー○ーと○郎を貪り食ってふっくら戻ってきた ~コンビニケーキから始まる戦国異世界生活  作者: 蜜朗
第1章:38歳営業マン、異世界でプレイヤーシステムに目覚める

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/50

第1話 国を救うため、少女は己の命を対価に捧ぐ

 人里離れた山頂にある神代かみしろ神社の境内は、深い雪と静寂に包まれている。

 だが、その静寂は決して穏やかなものではなかった。


 山の麓を埋め尽く軍勢の篝火かがりびが、夜空を不気味な赤に染めている。


 明日になれば、この神域も、生き残った村人たちも、全てが欲深い権力者の火に焼かれ、蹂躙されるだろう。


「……誰でもいい。誰でもいいから……」


 雪穂は、石畳の上に座り込んでいた。


 白装束は薄汚れ、寒さと空腹で小さな身体は絶え間なく震えている。

 だが、その瞳だけは強い決意を宿して、闇を射抜いていた。


 彼女の前には、父の遺品である一振りの短刀と、石畳に描かれた歪な紋様。


 儀式を完遂すれば、雪穂の魂はこの世界から消え失せる。


 昼間、ひもじさに泣く姉の背中を見た。

 自分の食事を村の子供に分け与え、力なく笑う母の手を握った。


 彼女たちが生き残れるのなら、自分の命など、安い対価だと思った。


「……お願い。みんなを、お姉ちゃんを……助けて……」


 雪穂は震える手で短刀を握りしめた。


 刃の冷たさが指先に伝わる。


 彼女は一度だけ、遠い麓でうごめく軍勢を睨みつけると、迷わずにその刃を己の喉元へと突き立てた。


「――っ」


 声にならない叫びが、夜の闇に吸い込まれていく。


 鮮血が石畳の紋様を赤く染め上げると同時に、視界が強烈な光に焼き尽くされた。


 身体の感覚が、急速に遠のいていく。


 氷のような冷たさが消え、心地よい浮遊感と、どこか懐かしい「甘い香り」に包まれるのを感じながら、雪穂の意識は深い闇へと沈んでいった。



 金曜の夜。

 アパートの薄暗い部屋で、俺はパソコンの画面を睨みながら溜息を吐いた。


 今日も今日とて仕事をサボり、外回りと称して漫喫で時間を潰してからの直帰。

 当然、営業報告書に書くべき成果など1文字もありはしない。


 月曜日の朝、どんな顔をして出社し、上司に詰められるかを想像するだけで、胃のあたりが焼けるようにズキズキする。


 ……だが。


 そんな不透明で救いようのない未来の苦痛など、今の俺にはどうでもいいことだ。

 1ミリも関係ないと言い切ってもいい。


 なぜなら、俺には「彼女」がいるからだ。


「よしよし……今回のユキナちゃんも、最高に『紅蓮』してるな……」


 画面の中で舞うのは、スマホゲーム『戦国乙女☆プリンセス』──通称『戦プリ』の最推しキャラ、真田幸村担当のユキナ(11歳)だ。


 このゲームの特長は、フォトスナップと称し、定期的に各キャラクターの画像詰め合わせを配信してくれることだ(有料)。

 おかげで、推しキャラクターを全力で愛でることができる。


 先日リリースされた、ユキナちゃんの新作フォトスナップ『紅蓮の絆・信濃路の追憶』。


 幼い少女が真っ赤な六文銭の陣羽織を羽織り、凛とした表情で槍を構える姿は、まさに芸術だ。


 彼女の姿を五感で味わうため、俺は早速明日から、ロケ地巡りの旅へ出る計画を立てている。


 俺の聖地巡礼は、単に痕跡を辿るような生易しいものではない。

 ユキナちゃんという存在をより深く、細胞レベルで解釈するための「徹底的な理解」への旅だ。


 地域の博物館巡りは序の口。

 図書館にこもって一次資料を漁り、難解な古記録やマニアックな郷土史を読み解く。


 彼女が駆け抜けたであろう当時の地形を今の地図から逆算し、最適な布陣を空想する。

 そんな学問的かつ実践的な追求こそが、彼女への正しい「誠実さ」だと俺は信じている。


 そんな活動に没頭し、山奥の古戦場や城跡を巡り続けた結果、俺のアウトドアスキルはもはやプロの領域に達してしまった。


 宿代すらガチャとフォトスナップに突っ込んできたおかげで、キャンプや車中泊はもはや日常だ。


 ……もっとも、客観的に見れば、中年の独身男が画面の中の11歳の少女に熱狂している姿は「事案」の一歩手前。


 近所に「あの部屋の住人はロリコンだ」などとバレたら、社会的な死が待っている。

 だからこそ、俺は完璧に「普通の独身男性」を擬態しているのだ。


 その擬態があまりに完璧すぎて、このアパートの住人どころか、世界中の誰一人として俺の現状に興味を持っていない。


 そんな、誰にも興味を持たれていない俺は――今日で38歳になった。


 通知一つ来ないスマホの真っ暗な画面に、無精髭の生えた冴えない男の顔が反射している。


 このまま「完璧な擬態」を続けて、そのまま誰にも知られず消えていくのかと思うと、さすがに胃の底から冷たいものがせり上がってくる。


 ――これじゃ、ダメなことはわかっている。


 俺は財布を掴むと、擬態用の「くたびれた安物のジャケット」を羽織り、コンビニへと向かうことにした。


 せめて、自分へのご褒美にコンビニで一番高いショートケーキでも買ってやろう。


 余計、ダメなような気がしないでもないが……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ