episode 072
「首尾はどうだった?」
その晩、春都の部屋に入って来た冬流は、椅子代わりにベッドに腰掛けるなり尋ねてきた。
「まあまあ、かな」
手にしたまま飲んでいなかった珈琲缶を開けて、春都が答える。
そして彼は、今日調べた事を要約して冬流に伝えた。
「ふむ……すると、今回の事件は榊原燕鼠とかいう奴の亡霊が引き起こしているのか?」
「いや、亡霊とは限らないさ」
腕組みをしながら、春都は言った。
「重要参考人の拝島が行方不明だし、誰かが燕鼠の名を借りて仕掛けているのかも知れない」
「ほうほう、それでそのマイナーな学者先生は、どんな人物なんだ?」
冬流の問い掛けに対して、春都は一枚の写真を差し出した。
彼は、研究室の天井際に置いてあった例の写真をスマートフォンで撮影していたのだ。
しばらくそれを見ていた冬流は、ポツリと言った。
「このオッサン、俺達会った事あるぜ」
「えっ?!一体どこで」
意外なひと言を聞いて、春都は戸惑った。
冬流は、記憶を手繰り寄せるように淡々と話していく。
「ホラ、この前河崎さんをみらい小橋で待ち伏せたよな。その時、彼女が来る少し前に通り過ぎたオッサンだよ、これ」
彼にそう言われて、春都の中にも次第に記憶がよみがえって来た。
暗闇の中から、月の明かりと共に現れた白いスーツの男。
多少の年月は感じるが、確かに写真の中の男と同一人物であった。
「……どうやら間違いないみたいだな」
冬流が話を纏めに掛かった。
「拝島は、既に学園に潜り込んでいる。目的は獣祠道の示す人獣交換の儀式復活だ」
「早計は命取りだぜ、左」
春都は、彼の出した推測をやんわりと押し止めた。
「この事件は複合性が在ると言っただろう?今の仮説では片方だけしか説明されていない」
「ふむ、確かに」
冬流は、春都の考えに納得して頷いた。
「では、そちらの調査結果を報告してくれ」
そう言った春都は、冬流に向き直った。




