episode 041
「何よ、話って?」
2年B組の教室に着いた秋希は、さっそく蜷川早紀を呼び出した。
長身で黒縁眼鏡を掛けた彼女は、不審そうな瞳で秋希をじろじろと見ている。
「よかった、まだ無事だったのね」
秋希は、とりあえずホッと胸をなで下ろす。
「……変な人ね。わたし、授業が始まっちゃうから行くよ」
そう言ってくるりと向きを変えた早紀の手を握り、彼女は早口で伝えた。
「今日から単独行動は避けて。決して一人にはならないで。何かあったら、相談室に連絡してね」
「急に何なの。そんなの知らないよ」
「死にたくなかったら、言う通りにしなさい!」
なおも抵抗していた早紀に、秋希はぴしゃりと言ってのけた。
彼女が一瞬ひるんだ隙に距離を詰めた秋希は、耳元に口を近付けて何事か囁く。
「!」
その途端、早紀の顔が真っ赤になった。
「ちっ、違う。ちがうわよっ!」
「ご協力、有難うございましたぁ」
まだ発言の衝撃から抜け切れていない早紀を置いて、秋希は教室を後にした。
(よし、この調子で一人一人潰していこう)
勢いづいてきた彼女は、鼻唄まじりで突き当たりの角を曲がった。
すると、丁度向こうからやって来た男性とぶつかってしまった。
「きゃっ、ごめんなさい」
飛び退いて謝る秋希。
男は、白いスーツに付いた埃を軽く払い、軽く会釈して通りすぎて行った。
暫くそこに立っていた彼女は、いつの間にか自分の身体の周りが『不思議な匂い』で包まれている事に気が付いた。




