episode 035
結局、数人に情報収集した時点で教師に見つかった二人は、即刻7番地を追い出されてしまった。
「同学年の人間と世間話をしていただけで、まるで犯罪者扱いだ」
冬流は、問答無用でつまみ出された事に憤慨を覚えていた。
一方、春都は至って冷静だった。
「まあ、正攻法だとこうなるとは思っていたけれどね」
左腕に装着した腕時計兼通信機の側面ボタンを押す。
小型スピーカーからは、先程冬流が巧みな話術を駆使して『世間話』をした生徒達の声が聞こえて来る。
―北野さん? ああ、この前亡くなった娘ね。成績は良かったわよ。何せこの春から編入してきて、いきなりトップクラスの仲間入りしてたもの。今まで常連だった人達、相当やっかんでいたわ。
―鐘子は昔からおとなしかったけれど、編入してからは更に拍車がかかっていた。何をするにも一人で、それが更に反感を買っていたみたい。
―下着泥棒? そう言えば、最近被害は無くなったなぁ。あなた達が捕まえてくれたの?
「よく分からん」
捉えどころの無い話ばかりで、冬流はうんざりしていた。
「クラスメイトなんだから、もう少し突っ込んだ話もあって良さそうなものだが」
「あの場所では、皆あんな感じだ」
通信機のスイッチを切って、春都は表情を変えずに言った。
「もっとも、全員がそういう奴ばかりではないがな」
「なるほど、ここで待っている理由はそれか」
二人は先ほどから、7番地から女子寮に続く道にある小橋のたもとに佇んでいた。
春都が意味も無くここに止まっているとは思っていないが、待ち人が誰なのか、冬流には全く分からなかった。
「一体、誰を……」
「しっ」
かすかに聞こえる靴の音に、春都は首を巡らせた。
暗闇の中から、月の明かりと共に一人の中年男性が現れた。電灯に反射した白いスーツが、夜の世界とミスマッチな感覚を覚える。
彼は、春都と冬流の方に一瞥をくれたが、何も無かった様にスッと通り抜けていった。
「何だ、あのオッサン」
暫くして、冬流が春都の背中をつついて聞いた。
「知らん」
ぶっきらぼうに答えた春都に、彼は思わずぷっと吹き出した。
「いやぁ、俺はてっきりハルが男と逢い引きしていたのかと思ったよ」
「言ったな左!」
小橋の真ん中でぎゃーぎゃー騒ぎ始めた二人の背後から、おずおずと声が掛けられた。
「あの……」
振り返った春都は、橋を渡れなくて躊躇している制服姿の少女を見て言った。
「おう、待っていたよ。河崎」
「私、を?」
柚香は、目をパチクリさせながら、彼の顔を見つめた。




