episode 034
「あーっ、陰気くせぇ!」
自販機コーナーのベンチに腰掛けて、冬流が溜息をついた。
隣の春都は、カップコーヒーに残った氷をかき回している。
「空気が勉強菌で一杯だ、お前よくこんなトコロに居たなぁ」
「まあ、半年だったからな」
「それでもすげえよ、俺じゃ5分も保たねぇ」
気合を入れて乗り込んで来た二人だったが、2年A組の教室に着いた時には、既に授業が再開されていた。
秋希の姿も見当たらなかったので、やむなくここで授業終了までの時間を潰しているのだ。
「ところで」
冬流は、気にかかっていた事を口にした。
「そろそろ聞かせてくれたっていいんじゃないか、何故特進クラスに来たのか?」
答えの代わりに、春都は一束の書類を投げて寄越した。
「見覚えあるだろ?」
「下着泥棒事件の被害者リスト。当たり前だ、俺が作ったのだからな」
冬流は、既に興味の対象から外れていたそのリストをぱらぱらとめくった。
女子新聞部と争って収集した情報なので、知り得た最大限の内容まで記載されている。
「……降参、これがどうしたんだ?」
冬流は、とうとう音を上げた。
春都はやれやれという表情で、書類を手に取る。
「これは、発生した日時順に並んでいるだろ。実は、同じような並びの要素が一つだけあるんだ」
それを聞いた冬流は、再び書類に目を落とした。
紙面上の項目をなぞっていた指が、一か所で止まる。
「……偏差値」
「ご名答」
春都は、満足そうに頷いた。
「件の下着泥棒は、どこで知ったのか偏差値の高い女生徒の下着から盗んでいったんだ」
「じゃあ、犯人はデータを入手できる人間、この学校関係者か?」
核心に近付いた空気を感じた冬流は、勢い込んで問い掛けた。
春都も、それを肯定する。
「消えた犯人は、学園の関係者では無かった。別の誰かが一枚噛んでいる可能性は充分有る」
ここで、授業の終業を告げるチャイムが鳴った。
「さて」
春都はベンチから立ち上がった。
ふと思い出したように、言葉を付け加える。
「もう一つ。偏差値順位一位の女生徒だが」
「北野……鍾子か」
「昨日、立川の伊勢丹から飛び下りた」
「だな。これも偶然だろうか、それとも……」
冬流は顎に手を置いて思考を開始する。
この時点で、春都は確信していた。
北野の死は、決して偶然ではなかった事。
そして、
事件はまだまだ終わっていないのだ、と。




