episode 033
「昨日自殺したんだって、何か詳しい事聞いてないかな?」
柚香は一瞬、なにか言おうと口を開きかけたが、何かに押し潰される様にぎゅっと固く結んでしまった。
「ごめん……あんまり知らないのよ」
彼女はそう言って、くるりと背中を向けた。
「知らないって、クラスメイトじゃない」
納得出来ない秋希は、まだ食い下がる。
「……もうすぐ先生が来るわ、アキも早く出たほうがいいよ」
柚香はそのまま、逃げる様に自分の席に向かった。
彼女の姿を追っていた秋希だったが、ドアが開いて教師が入って来たので、やむなく教室から出ようと足を向けた。
その時、彼女の耳に、聞こえなくてもいい囁き声が這入ってきた。
―なにあの娘、普通クラスのくせにこんな所まで来て。勉強の邪魔だわ。
―河崎さんも、あんな人と付き合ってるから成績が落ちるんだわ。
―ウワサじゃ、男もいるらしいよ。
―あ、それじゃあ天下りも時間の問題ね。
―北野みたいに、いきなり飛び降りたりして。
―たまたま同じ所で勉強してるだけだもん、クラスメイトだからって理由で、何でも知ってるわけじゃないんだから。
―あー、ヤダヤダ。
全て聞こえないふりをして、教室を出ていく秋希。
彼女の両拳は、真っ白になるまで固く握りしめられていた。




