episode 029
「どしたの、アキ?」
女子新聞部の部室に入って来るなり、書類棚をゴソゴソやりはじめた秋希を見て、夏純は不思議そうに尋ねた。
「かすみんトコって、女子生徒のパーソナルデータ持っていたよね?」
「……まあ、一通りは」
「A組の、北野さんって知ってる?」
「昨日飛び下りた娘か……」
今朝の学内新聞で一面記事にしたばかりなので、夏純の頭の中でもまだ記憶に新しい。
「学外の事件は、どうしても大衆紙の受け売りになってしまうなぁ。ええと……確か、受験のストレスによる自殺だったかな」
「自殺、ね……」
秋希は、半ば懐疑的に言葉を泳がせた。
その様子に何か引っ掛かった夏純は、彼女の背後に回り込む。
「アキ、あんた何か隠してるわね」
「え、別に」
「嘘おっしゃい!」
秋希の首を両腕で軽く締め上げながら、彼女は追求した。
「一人で抱え込もうたあふてえ野郎だ。とっとと吐いちまえ!」
「あ〜れぇ~、ご無体なぁ」
結局、秋希は香代と飛び降り現場に行った際、彼女から聞いた内容を夏純に話す事となった。
「血が出ないって……妙だな」
夏純も、首を傾げて考え込む。
「しかも、そんな事実があったのに、新聞では全く取り上げられていないのは更におかしい」
「私もそう思う……あった」
ようやくA組のファイルを捜し当てた秋希は、ひらひらと手を振って出て行こうとした。
「じゃあ、これ借りてくね」
「アキ、新聞部でも色々当たってみるから、あんま一人で無茶するなよ」
彼女の背中越しに、夏純の温かい忠告が聞こえて来た。
(無茶、か……)
秋希は、今日駅前で遭遇した中年男性の鈍い眼差しを思い出していた。
あの瞬間、身体の中を、無数の刃がざくりと貫いて行った。
続いて、全身を凍える様な不快感が襲ったのだ。
(あれは……誰?)




