episode 025
「例のヤツ、完成したんだろう?」
その言葉を聞いた蔵敷は、ぴんと気が付いた。
「ああ、アレね。ほれこの通り」
手にした紙袋をゴソゴソして取り出したのは、小型のモバイルフォンであった。
全長は5センチ程度。
背面にバンドが付いている。
「これを、今着けている腕時計の上にセットしてバンドを止める。次に、本体からコードを引っ張り出して……」
春都は、蔵敷の指示通りにモバイルフォンと腕時計を繋げた。
「何だか、ガジェット大好き人間になった気分だよ」
「おっし、じゃあスイッチを入れてみようか」
彼に促された春都は、左手首に巻かれた腕時計に口を寄せ囁く。
「……インベンションモード、オン」
その言葉に反応して、時計の文字盤がくるりと裏返り、小型スクリーンに変わった。
これは以前から内蔵されている機能だった。
画面の中央で、小さなナタリーの画像が走り回っている。
一方、肝心の新兵器はというと……。
「……何も変わっていないようだが」
春都の言葉を聞いた蔵敷は、手元にあったドライバーを彼目掛けてひょいっと投げつけた。
「!」
予想外の出来事に、回避が遅れた春都は、咄嗟に手をかざしてカバーする。
しかし、ドライバーは彼の手前数センチの所で何かに弾き飛ばされた。
「これは……」
「ご注文の、特殊バリヤードフェルトじゃよ」
某アニメに出てくる博士のような口調で、蔵敷が説明を始める。
「装置を身につけた者の全身を、特殊な電磁膜で覆い、外部からの衝撃を吸収する。機関銃の弾くらいなら、難なく跳ね返すだろう」
「これは素晴らしい」
「だろう?今回は結構苦労したんだぜ」
父親が経営する会社で顔馴染みの開発責任者が、アイデアを伝えた瞬間とても渋い顔をしていた事を思い出して、蔵敷は言った。
「これで終わりじゃない。特殊機能は、まだあるんだ」




