episode 021
「落ちたぞーっ!」
「いやぁーっ!」
「何やってんだ、警察はァ!」
「おいおい、シャレにならねーぞ!」
群衆が、少女の落下地点へと詰めかけていく。
伊勢丹の入り口から下り階段に掛けては、たちまち人だかりが出来ていた。
警察官が制止を求める怒声と、警笛の音がけたたましく響いている。
そんな中、先程の美女は全く姿勢を崩さないまま、手元のティーカップに口を付けていた。
夕刻に起こった悲劇が、この場所における主役の交代を起こした事など、微塵にも気にしていない様子だ。
その時、カランとドアが開くとともに、一人の男性が入って来た。
40代後半くらいの横顔は、歳相応の渋みを蓄えている。
彼は、アーミージャケットの袖口を気にしながら店内を真っ直ぐ進み、彼女の隣の席にどっかり腰を下ろした。
「ここはセルフサービスなのか?」
店員まで現場に飛び出して行ったらしく、無人となった店内の様子を見回した彼は言った。
「さあ」
彼女は全く興味が無いのか、返事がとても素っ気無い。
男は軽く肩を竦めて、ポケットからシガーを取り出した。
「ずいぶんと、派手にやったわね」
「ん?」
紫煙を燻らす彼に、美女は言葉を掛けた。
「生身の人間だったのでしょう? 少々目立ち過ぎではないかしら」
「今の時代、ガキ一人が飛び下りたトコロで、大した騒ぎにはならねぇよ。それに」
残忍そうな笑みを浮かべる。
「もう、充分役に立った」
「……ゴミの出し方を間違っているわよ」
こちらもかなり酷い台詞だが、大した感情も込めずにそう言った彼女は、カップを置いて立ち上がった。
男の後に続いて、店を出ていく。




