第6話 婚約者交代?
教皇国の魔法学園より二日ほど早い日に、フルール王国の王立学園で入学式があったんだ。
僕はハヤト様とベルナール君、レイモン侯爵夫人とアンディ君のお母様と一緒にアンディ君の晴れ姿を家族席から見守ったんだよ。
アンディ君はガリベンメイクに黒縁のスクエア型の眼鏡をかけ、男子用の制服を着て式場に現れた。
「カッコいい・・・」
アンディ君はどんなに残念なメイクをしていても、立ち姿とか、所作が綺麗だからカッコよく見える。
本当は綺麗な女の子なのに、カッコいい男の子にしか見えない。
前世の宝〇の男役の役者さんみたいに素敵なんだ。
「ルル坊、アンディが好みなのか?」
ハヤト様がニヤニヤと笑いながら聞いてきた。
「アンディ君はカッコいいし、優しいから憧れてるの。兄上の婚約者として百点満点以上!」
「そうか。」
ガシガシとハヤト様から撫でられて、髪の毛がボサボサになっちゃった。
『あ~、いい感じになってる!』
ベルナール君の聖盾の妖精、イージスがポフンと僕の髪の毛にダイブした。
『ふわふわ! モフモフ!』
「・・・ごめんね、シャルル君。」
ベルナール君が申し訳なさそうに僕の髪の上で飛び跳ねるイージスと僕を交互に見つめた。
「大丈夫です、あはははは・・・」
入学式は滞りなく進み、新入生代表の誓いの言葉的な挨拶になった。
新入生代表はスチュアート君だったよ!
そして、在校生代表の歓迎の言葉的な挨拶はギルバート君の同母兄で第二王子のフロリアン殿下だった。
キャラの濃ゆい兄と弟に挟まれて、影が薄い第二王子だけど、フロリアン殿下は頭脳明晰、容姿端麗で、他国から王配とか、王女とか公爵家への婿入りのお話がたくさんあるんだって。
「あの第二王子の側には近寄るなよ?」
「どうしてですか?」
「真贋の特殊スキル持ちだ。」
「・・・うわぁ・・・」
お茶会で何度かご挨拶したことがあるんだけど、触られたことないから、僕の本当の姿はバレてないよね?
今日はちゃんとぷにぷに結界もしてるし、大丈夫だとは思うけれど、念には念を入れて、気を付けないとダメだね!
入学式が終わって、ベルナール君とアンディ君のお母様は二人仲良くアンディ君の教室に向かった。
僕とハヤト様とレイモン侯爵夫人ことヴィクトリア大伯母様は一緒に教皇国へ帰る前に祖父の家に寄る予定。
ヴィクトリア大伯母様は僕の祖父アウルム・オウルのお姉様なんだ。
大伯母様は黒髪で、僕と同じ東雲色の瞳をした年齢不詳の美魔女な貴婦人なんだよ。
僕の母さまに顔が似ているんだ。
でも、全体的な雰囲気はハヤト様に似てるかも?
「どうしたの?」
僕が大伯母さまとハヤト様を交互に見つめていると、大伯母様が優しく微笑みながら聞いてきた。
「おばさまとハヤト様が似てるなぁって思って。」
「あら、本当? 嬉しいわ。ねぇ、とと様。」
「そうだな。」
お二人は父娘なんだよね。
大伯母様は50代で、ハヤト様は70代なんだけど、お二人とも若々しいから、とても孫とかひ孫がいる年代に見えない。
式場から出ようと椅子から立ち上がると、在校生と父兄で入口が混み合っていた。
「少し空いてから出よう。」
「はい。」
椅子に座りなおして人の流れを見ていたら、在校生の席に座っていたギルバート君が近づいてきた。
「仔ブタ、貴様、うちの兄上に何をした?」
「ふぇ?」
兄上って、バザーの時に会った皇太子殿下のことかな?
「この、浮気者め!」
「は?」
なんか、ギルバート君がものすごく怒っているんだけど、「浮気者」とか言われても何のことだかわからないよ!
「ルル坊、こっちに。」
「うん、ぐしゅ・・・」
あまりにも理不尽な物言いのギルバート君が怖くて、涙目でハヤト様に手を伸ばしたら抱き上げてくれた。
「誰だ?」
「この国の第三王子殿下だよ。ぐすん・・・」
「ああ、そういうことか・・・」
ハヤト様はクスクスと笑いながらギルバート君を見やった。
「き、貴様! 何者だ!」
「俺はハヤト。ルル坊の護衛だ。」
「護衛風情が俺様の邪魔をするな! 仔ブタをよこせ!」
よこせって、一体僕をどうする気なの?
怖すぎだよ、ギルバート君!
「却下。」
「何だと!」
「ギル、やめないか!」
ヒートアップしつつあったギルバート君を止めてくれたのは、第二王子フロリアン殿下だった。
「シャルル殿、ハヤト殿、レイモン侯爵夫人、弟の失礼をお詫びします。」
フロリアン殿下はそう言って頭を下げた。
「ギル、お前も謝りなさい。」
「ぐっ・・・すみませんでしたぁ・・・」
フロリアン殿下に即されて、ギルバート君も僕らに頭を下げた。
ギルバート君とフロリアン殿下、実の兄弟なのに、顔そっくりなのに、性格が真逆だ。
フロリアン殿下は礼儀も教養もあって、物腰も柔らかいし、理想の王子様って感じがして、好感が持てるね。
「うちの兄上がシャルル君と婚約したいと言い出して大公家に正式に釣書を送ったんだよ。ギルバートはそれが面白くないみたいで・・・」
釣書って、お見合い写真みたいなやつだよね?
初耳なんだけど・・・
兄上ってことはクリストフ君、だよね?
なんで僕に釣書?
「釣書は送り返したから安心しろ。」
ボソリと小声でハヤト様が耳打ちしてきた。
それにホッとしてると、
「仔ブタ、お前は俺の婚約者になるんだ! 兄上の婚約者になったら許さない!!」
いや、許すも許さないも、どっちも無理だから!!
いい加減、諦めてくれないかな?
アンディ君だけじゃなくて、僕も仮初の婚約者、作った方がいいのかもしれないね・・・
*****
「じゃあ、俺、ランスと婚約白紙にして、シャルルと婚約しなおそうか?」
祖父の屋敷で合流したアンディ君たちに事の次第を話したら、何故かとんとん拍子に僕とアンディ君の仮婚約が成立しちゃった・・・
「いいの?」
「もともとランスロット君とはいつでも白紙にできるようにしていたし、仮婚約の契約書もアンドレアと大公家の子息って文言にしてあるから、兄弟間の婚約者の交代は問題ないよ。」
と、言ったのはアンディ君のお父様でもあるベルナール君。
「成人するまでの仮初の婚約になるけど、よろしくな。」
「うん、よろしくお願いします?」
首を傾げる僕の前にアンディ君は跪き、僕の手を取って指先にキスをした。
いや、これって、本当は僕がする方じゃ??
「改めて今日からよろしくね。婚約者殿?」
「ふぁい・・・」
アンディ君からにじみ出るイケメンオーラに僕はすっかりのぼせてしまった・・・
そんな僕たちの様子を、何故かアンディ君のお母様のマルグリット様が目をらんらんと輝かせて、食い入るように見つめていた。
「これはっ、精神的びーえる! 物語的には男装令嬢がヒロインの姉ショタなんだけれど、中身は、精神的には、兄ショタ!!」
その様子は、前世の僕の両親が推しCPを熱く見つめていた時の目に凄く似ていた。
余談
勇者ハヤトと大賢者ケントの絵姿は出回っていないので、ギルバート君はハヤトの正体に気づいていません。
ギルド長のバーナードは聖者の称号持ちで、聖太の弟子。
成人後に出家して神殿入りする予定のフロリアン殿下は、叔父であるバーナードの弟子なので、聖太繋がりで勇人と賢人と面識があるので正体を知っています。




