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おいしいごはんは、いかがですか?  作者: 香田紗季
王都編

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3-17

読みに来てくださってありがとうございます。

明日が最終話になります。

よろしくお願いいたします。

 ハルダルに到着したアルテューマ騎士団とクラウデンの魔術師たちは、ハルダルの騎士団から現状を確認し、作戦を理解した。


 フィーニスとロンは、通信機からの情報を元にスコルの魔術師たちと対峙した。にらみ合いの時間は短く、スコルの魔術師たちからの攻撃が始まった。ロンの瞳がそれぞれの弱点を見つけ、対峙する騎士達にその弱点を伝える。攻撃を受けた時は「反射」や、その応用の「防御」で仲間を守った。


 数日戦う内に、やがてロンが厄介だと気づいたスコルの魔術師たちは、一斉にロンに攻撃を仕掛けた。だがロンはそれを全て「反射」して返り討ちにした。「反射」を使いこなしたロンの前には、前線に送られるようなスコルやハティの残党の魔術師たちなど、ただの人海戦術と代わらなかったのだ。


 とはいえ、ロンは敵を皆殺しにしたわけではない。脱走の能力のある者を見分けてそれらへの対処方を伝えると、ロンはフィーニスに飛び乗った。


「なんだ、アルテューマへ帰るのか?」

「いや、スコルに向かう。スコルの中心を叩き潰さない限り、スコルは何度でも攻めてくるはずだ。それに、できるだけ早くスコルの中枢を叩けというのは、第3王子の遺言だ」

「待て、一人で行くのか?」

「玲を助けに行かないと、ダニアに叱られるからな」

「だめだ、部隊を連れていけ!」


 エヴァンの声に、ロンは首を横に振った。


「先に行く。侵入経路を抑えておくから、お前たちは後から来い!」

「待てよ、ロン!」


 エヴァンの声は、高速で飛び去るフィーニスに追いつくことはなかった。


「ロンが1人でスコルの中心に向かった!」


 アルテューマ騎士団から派遣された部隊は、ロンを部隊長としている。部隊長がいなくなったら、次位はエヴァンになる。


「やれやれ、血の気の多い男だな」


 ハルダル騎士団の団長が、既にごま粒より小さくなったフィーニスの後ろ姿を見ながら言った。


「敗残兵の処理は、アルテューマ騎士団以外の騎士団で行う。アルテューマ騎士団はロン副団長を追え!」

「ありがとうございます」

「なんの、あの男がいなかったらハルダルは陥落していたはずだ。玲というのは、たしか連れ去られた転移者だったか」

「そう聞いています。ダニアが友だちを助けて欲しいと、ずっとロンに言っていたようなんです」

「ダニア嬢もなかなかな無茶振りをする」


 ハルダル騎士団の団長は土埃にまみれたその顔から険を取った。


「ダニア嬢も連れて行け」

「前線に、ですか?」

「今のあの男は、暴走し始めている可能性がある。引き戻せるのは彼女だけだろう」

「承知しました。ありがとうございます」

「いや、いいんだ。あの男に死なれては困るからな」


 エヴァンはアルテューマ騎士団から派遣された部隊とダニアを招集すると、直ぐに魔術師たちに転移を用意させた。


「座標はスコルの中心。玲のGPS反応から10キロ離れた地点とする。様子を見て、更に近くに移動する。座標は?」

「少しお待ちください……確認できました、行けます」

「では行くぞ」


 転移の魔術式が起動し、ヴンッという音と共に魔術師と騎士たちが1グループずつ転移していく。ダニアはエヴァンと組んでいるジェルバと一緒に3人で転移する。


「我々も行こう」


 3人で輪になるよう手を繋ぐと、ジェルバが魔術式を起動させた。ヴン、という音と共に体が浮遊するような感覚になり、そして次の瞬間、地に足が付いた。


「着いたよ」


 目を開いた先にあったのは、既視感のある光景。高層ビルが建ち並ぶ中心街、そして……


「ここにもあるのね」


 中心からある一定の距離から同心円状に広がる、小さくて低い建物。家とも言えないようなそれはまさにバラックとか掘っ立て小屋とか、そんな表現がふさわしい。


「スラムか」


 ジェルバがつぶやいた。


 ハティがまだ王国だった頃、魔力のない者は奴隷以下の存在と認識されていた。


 前世で悪事を行った者は魔力を奪われ、善行を積んだ者ほど高い魔力を持って生まれる。 そんな世界観を持つハティとスコルは、元々一つの王国だった。自由自在に誰もが魔力を使って生きていた時代が、イアールンヴィズと呼ばれる伝説の時代の国だ。古代国家だったイアールンヴィズの中で、同等の力を持った王子2人の継承権争いを治めるため、等分に国を分けた結果できたのが、王子の名前を冠した国、ハティとスコルだった。


 ハティもスコルも魔力至上主義であったが、スコルは「異世界」の存在を信じ、異世界研究を行った。そして、魔力を使って異世界から人や物を召喚することに成功したのだ。そうやって集めた人や物、そして人の知識や技術を使って、スコルの中心にはまるでダニアの前世の都会のようなビル群ができあがったのだ。眼下に見えるスラムとの対比に、ダニア、ジェルバ、エヴァンの3人はただ無言になった。


 虐げられる者が存在する。それは、ダニアの前世だって同じだった。経済的に虐げられる者。戦争などで虐げられる者。性別で、文化の規定によって……様々な理由で虐げられる者がいた。今、目にしているスコルのスラムだけがひどい訳ではない。クラウデンだって、王都にはスラム街があった。ただ、ここまでの大きさではない。一部の人間がその力……スコルの魔術師たちが魔力によって多くの持たざる者を一方的に支配するのは、専制政治と言ってもいい。人権も何もない、古代の弱肉強食の世界そのままだ。


 ヴン、という音が立て続けに響いた。クラウデンの魔術師とともにアルテューマ騎士団の騎士たちが次々と転移してきたのだ。ダニアたちより先に転移したグループは、偵察に向かったようだ。


「ロンがフィーニスと一緒に来るのは、もう少し後になるだろう。あいつが存分に活躍できるよう、舞台をよういしないとな」


 エヴァンが遠くを見ている。ダニアも高層ビルが林立する中心部の方を見た。


 玲が、あのどこかにいるはずだ。


 既に1年以上、玲はスコルに捕らわれている。国内情勢がどうにもならず、ここまで玲のことを忘れたことはないながら、実際に行動することはできなかった。


 やっとお迎えに来たよ、玲さん。


 心の中で、ダニアは玲に呼びかけた。








 数時間後、「良きハティ」と一緒にスラム街を通過しながら高層ビルの周辺を偵察した騎士たちが到着したばかりのロンと会議をしている。ロンは自分が飛び立った後に、アルテューマ騎士団の騎士たちが魔術師たちとさっさと転移して既に偵察前終えていることに少しばかりショックを受けていた。


「お前が勝手に行動するから、こっちもついて行かざるを得なくなったんだろうが」


 エヴァンに叱られたロンがこれまた少しばかり反省の色を見せた所で、偵察に行ったある騎士が報告した。


「スラム街には魔力を持つ者がほとんどいないということです。子どもの話によれば、あの中心部にはシールドが展開されており、合鍵のようなものを持っていないと入れないのだそうです。そして、それを持つ者は魔術師のみ。下位の魔術師が上位の魔術師たちの下働きのようなことをし、基本的に両者は隔絶した状態にあるようです」

「では、あのビル群に侵入するためには、シールドを破壊しなければならないのだな」


 ロンの言葉に、報告した騎士がその通りだと返事をした。


「あのビルのどこに中枢があるのかだけでも分かるといいんだが」


 侵入できないならばどうやって中のことを知ればいいのか。スラムの民は、誰一人シールドの内側に入ったことはないと聞いている。


「玲さんと、連絡が取れないかしら?」


 ダニアの言葉に、全員の顔が上がった。


「スコルの魔術師に連れて行かれる時に、GPSと通信機を持っていったわ。ここに転移するのに、GPSが役に立ったでしょう? GPSの示す位置情報だけでも玲さんがどこにいるかはわかるはず。もし通信機が生きていれば……」

「昼間はまずいな」

「ええ、夜、短時間で通信機を使ってみたらどうかしら?」


 夕方の日が沈もうとする時間帯だ。


「やってみよう。誰か玲の通信機の番号を知らないか?」

「自分のものなら、繋がるだろう」


 ジェルバが腰のポーチから通信機を出した。玲の番号が登録されているのを再度確認する。


 玲の通信機が見つかっていないと……いや、いじられていないといいのだが、とダニアは思った。


 日付も変わろうとする時間帯に、ジェルバはロン、ダニア、エヴァン、そしてあと二人サポートの魔術師と一緒に、玲の通信機に連絡を取ることにした。


「掛けるぞ」


 ジェルバは一秒だけ通信機に着信を残して切った。


「5分後にもう一度掛ける。向こうから折り返しがあればいいのだが」


 最後まで言い終わらない内に、ジェルバの通信機に着信があった。


「ジェルバ? 本物!?」


 玲のあの大きな声が響いた。全員が呆気に取られ、そして例に変わりがないことを知ってほっとした。


「気づかれてはいけないので、小声にしなさい。ええ、あなたの天敵のジェルバですよ」


 そう言えば、とダニアは思い出した。玲はジェルバにマナーやら仕事への取り組み具合やらを細かく注意され、しばしば食ってかかっていた。


 だから天敵か。


 思わずにやけるダニアに、ジェルバは通信機を渡した。


「あなたから話をしてやってくれ。その方が早く済むはずだ」


 ダニアは通信機を受け取った。


「玲さん? ダニアです」

「ダニア? 本当に?」

「ええ、玲さんの救出のために準備をしています。玲さんはどこにいますか?」

「ええとね、はっきりとは覚えていないんだけどさ」

「覚えていない?」

「うん、連れて来られてから一度もこの建物から出してもらっていないからさ。ただ、連れてこられた時に街の真ん中の球場みたいなところに入ったよ」

「球場……なら、そんなに高い建物ではなくて、ドーム状の建物の中ってことね」

「そ。で、地下が迷路みたいになっているの」

「メティの街と同じだわ」

「そうなんだ。みんなここが一番安全で大事なものを隠してある所だって言っているんだ。何だと思う?」

「さあ……あ、まさか」


 ダニアはロンを見た。ロンもはっとした顔をした。


「大きな黒水晶があるの?」

「え、なんで知っているの?」

「メティの街がそうだったから」

「そっかー、そうそう、ここのみんなねー、1日1回この水晶の所に来て魔力を貯めているよ。もうじき満杯になるらしくて、これでスコルが世界の頂点に立つんだって、お偉い衆が騒いでいた」

「世界の頂点に立つ?」

「うん。1000年前にハティの国が滅びた時から貯めてきた魔力のタンクなんだって。バージョンアップしているから、必要以上には魔力を吸い取らないって」


 間違いない。メティの地下にあったものと同じ黒水晶だ。メティの主マクシーンがその魔力を使ってフィーニスを殺そうとし、マクシーン自身が黒水晶に魔力を吸われて干からびていった。貯めた魔力をどう使うのかまでは玲には知らされていないようだ。


「玲、街を囲むシールドはその黒水晶がエネルギー源なんだろうか?」

「あ、ロン? 久しぶり! 水晶は2つあるらしいけど、白いのはとにかく貯めて、もう1つの黒いのは生活に必要なエネルギーとして使っているみたい。ダニア、電気みたいなもんだよ」

「なるほどね」

「電気?」

「向こうの世界では魔力がないから、雷のような電気のエネルギーを人工的に発生させて、そのエネルギーを使って便利な道具を動かしているの。でも今は詳しく話している場合じゃないわ」

「そうだな」


 ロンが玲に告げた。


「明日、お前を救出し、スコルの中枢を破壊する。最低限の量で必要なものを直ぐ持ち出せるようにしておけ。それから、できるだけ攻撃があるまでは黒水晶に近づくな。お前が巻き添えを食う可能性があるから」

「わかった。早くここから出して。本当にこいつら、最低なんだから」

「話は助け出してからゆっくり聞く。それから、通信機の電源を切れ。こちらから連絡することはないから」

「うん。ダニア、ここから出たらおいしいごはん、作って!」

「ええ、いいわよ」

「じゃ、明日ね!」


 元気よく玲が通信機を切った。


「1年以上連絡が取れなければさすがの玲もダメージ食らっているかと思ったが、やはり玲は玲だったな」

「そうですね。安心しました」

「一つだけ、気をつけておこう」


 エヴァンが神妙な顔をしている。


「もし玲がスコルで大切にされて、スコルの側に着いていたら、我々からの連絡を待っていた可能性もあるだろう? その場合、ミスリードしようとする可能性もある」

「可能性は0ではない。だが、あの玲の声だ。自分の心に正直すぎて、あれは女優にはなれんような女だぞ?」


 ジェルバの言葉に、全員が頷く。


「玲の情報を元にまず動こう。俺がフィーニスと上空から弱点がないか探す。そして、中央のあたりにあるドーム状の建物を探す。侵入してシールドを消すことができたら、突入だ。いつ魔力の爆発があるか分からないから、必ず魔術師と騎士はペアまたは少数グループで移動し、魔術師は転移と防御ができるよう、今晩中に魔術式をできるだけたくさん用意しておいてほしい」

「了解した。魔術師は直ぐに取りかかれ。正確に書けよ」

「はーい」


 気のない返事だが、行動は早い。魔術師たちは明かりが漏れないよう幾重にも布を重ねたテントの下で、これから魔術式を書くのだろう。


「明かりが漏れないテントが必要だな」

「その技術、カーテンや農業にも応用できますね」

「そうか。全て終わったら、ゆっくり考えよう」


 ダニアがジェルバと話している間に、騎士たちの打ち合わせも終わったようだ。


「夕食は?」

「火をおこせないから、レトルトを持ってきてあるわ」

「レトルト……」


 ロンは自分の知らないうちにまたダニアが何か作ったのだということだけは分かった。


「カレーとビーフシチューなの。お米もα化したものをもう水で戻しているから、直ぐに食べられるわ。レトルトは温度変化ができる人に加熱してもらえばいいの」

「そうか。久しぶりにダニアのビーフシチューが食べられるのか」

「作りたてには叶わないけれど、こういう時に食べられるのって便利でしょう?」


 フィルのように温度変化の魔力を持つ「善きハティ」の青年が、無言でレトルトの袋を次々に手に取って温めている。


「ありがとう。もう少しで全員分?」

「そうだね。あと5人分だ」

「あと少しね。お願いします」

「ああ、任せて」


 青年に気安く話しかけたダニアが、ビーフシチューと米を持ってきた。


「ビーフシチューだと、パンの方が良かったわね」


 手頃な岩の上にロンのために持ってきたビーフシチューと米と置くと、その横の岩に座ったロンに声を掛けた。


「温かい内にどうぞ」


 自分も近くの岩に座ろうとしたが、そのままロンに手を引かれて、気づけばロンの足の間に体がすっぽりとはまっている。


「ロン?」

「無防備すぎる」

「?」

「いい。ダニアは俺の傍にいて。明日はダニアも連れて行くから」

「え、足手まといになってしまうわよ?」

「玲のためでもある」

「わ、わかったわ」


 立ち上がろうとするが、ロンが後ろからダニアを抱き込んでいるので、ダニアは立ち上がることさえできない。


「食べないなら、他の人に持っていきますよ?」

「わかった、食べる」


 解放されたダニアの前で、ロンはビーフシチューを食べた。やはりダニアのビーフシチューが一番だ、とロンは思った。




読んでくださってありがとうございました。

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