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おいしいごはんは、いかがですか?  作者: 香田紗季
王都編

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3-14

読みに来てくださってありがとうございます。

誤字報告ありがとうございます。

よろしくお願いいたします。

 今日もまた地震が起きた。ベサール魔術師長に聞けば噴火の時が近づいているのかどうか分かるはずだが、それもできないのがもどかしい。


 突然地響きと叫び声が聞こえた。


「使用人はみんな王族の元へ! 地方騎士団が攻め込んできたぞ!」


 その場にいた使用人も寮にいた者も、すべて王宮の謁見の間に集められた。


 人質にされたのだろうか?


 魔術師棟の料理長の表情も険しい。


「今日まで仕えてくれてありがとう。地震や騎士団の噂で恐ろしい思いをしながらもここに残ってくれたこと、感謝する」


 そこにいたのは王ではなく、第3王子だった。


「王は所用があり、ここに来ることができなかった。兄たちも同様だ。みなを騎士団に引き渡すために、私がここに来た。安心しろ、人質ではない。ここだけは何とかスコルの魔力から守ることができたから、ここに皆を集めただけだ」


 それでも他の人は怯えている。


「ダニアという娘がいるはずだが、来てもらえないか?」


 ピクリと体が反応した。魔術師棟の料理長が、無理する必要はないと言ってくれた。だが、ダニアは行ってくると告げた。


「行かなきゃいけないような気がするんです。だから、行ってきます」

「戻って来いよ?」

「先に救出されたらごめんなさい」

「ああ、そういう可能性もあるな。分かった。気をつけていってこい」


 ダニアは立ち上がると第3王子の前に進み出た。


「ダニアでございます」

「こちらへ」


 近衛騎士だと思ったら、ライだった。第3王子、ライに連れられて謁見の間の隅に行ったダニアは、2人が周囲には声が聞こえないのを確認するのを見ていた。


「行儀見習いに来たのに、済まなかったな」

「いえ」

「君はアルテューマ騎士団のローンヴァルド副団長とファフニールに近いと聞いたが間違いはないか?」

「……はい」


 ロンに別れを告げたことは敢えて言わないことにした。


「彼らと合流できたら、スコルの中枢を叩くんだ。玲はちゃんと救出できるから心配しなくていい。ここがどうなるか、君は知っているんだよな?」

「知っていると言うよりも、状況からこの後噴火に巻きこまれると予測しています」

「そうだ。父や兄たちはスコルの支配下にある。私は洗脳されたふりをして、君たちを逃す手段を探っていた。昨晩、スコルの連中が王都からの脱出を決めて今朝転移しようとしたのだが、阻まれたといって慌てている。スコルと一緒に行動していたテロ組織の残党も一緒だ」


 ベサール魔術師長始め、魔術師たちが何か仕掛けたのだろう。


「ライを洗脳から解いてくれてありがとう。私の腹心の護衛騎士だったんだ。ライが私の指示で動けるようになったことで、私も手を回せるようになった」

「いえ、それは偶然です」

「偶然でも、結果は重大だ。王家はクラウデンの統治を放棄した。王族はここで滅びる。私が見届けるからね」

「どうして、殿下はまともなのに?」

「いさめることができなかったからさ。責任を取るんだよ」

「どうして殿下は……」


 ダニアははっとした。


「食糧貯蔵庫を満たすよう指示したのは、殿下ですか?」

「そうだよ」

「殿下は『瞳持ち』だったのですね」

「ああ」

「『予知』ですか?」

「そんな便利なものじゃない。事前にいろいろ分かっていれば準備できるのに、私は一度見た夢を忘れてしまう。そして、どこかでスイッチが入って、夢で見たことが再生されていくんだ。ただ、何らかの災害が起きて食糧が不足する未来だけは覚えていた。だから、少しずつ保存が利くものを貯蔵するように言ったんだが……結果的には高級品と珍味を買いあさっただけのようになってしまったがな」

「殿下……」

「ライを付けるから、食料品をできるだけたくさん持って逃げるんだ。いいね」

「殿下も逃げるべきです!」

「いや、私まで逃げたら、スコルはきっと私を疑うだろう。奴らに洗脳されていいように使われるのだけは、プライドが許さないんだ。だから、残る。きっとローンヴァルドが次の指導者になるだろう。ハティもクラウデンも、ローンヴァルドにならついて行くはずだ」

「殿下……」


 その時、今までよりも強い地震が起きた。倒れそうになったダニアを、第3王子が支えてくれた。


「これをローンヴァルドに渡してほしい」


 第3王子は、ポケットから小さな袋を取り出した。


「ハティ最後の王からクラウデンの始祖が譲り受けたもので、この地の統治者に引き継がれてきたものらしい。ローンヴァルドは始祖によく似ている。始祖の生まれ変わりかもしれないと父はいつも怯えていたくらいだ。これがあれば、クラウデンの土地を継承すると行った時に他国から文句を言われることはないだろう」

「殿下、それは」


 再び地震が起きた。同時に、雄叫びが聞こえる。


「迎えが来たようだ。ダニア、あとのことは頼んだよ。ライはダニアと一緒に、入ってきた騎士団に、使用人の保護を要請してくれ。アルテューマ騎士団が来るはずなんだが」

「殿下!」


 だが、第3王子はにこりと微笑むと奥の方へと去ってしまった。追いかけようとしたダニアをライが止めた。


「殿下のお気持ちを思うなら、あの方のやり方を尊重してください。嫌な仕事を押し付けて申し訳ありませんが、殿下はあなたたちの生命を何よりも重んじてくださっているのです」

「……分かりました」


 預けられた小袋を大事に持って使用人たちの所に戻った。


「もうじきアルテューマ騎士団が来るはずだって殿下がおっしゃっていました。食糧貯蔵庫のものを持っていっていいということですので、みなさん、できるだけたくさん持って逃げましょう」


 鎧の鳴る音と同時に扉が開いた。


「アルテューマ騎士団だ。使用人の保護に来た。抵抗する者は処分する!」

「アレクサンダー団長、お久しぶりです」

「ダニアか! 無事だったんだな!」

「はい。第3王子殿下より、食料庫の食糧をできるだけたくさん持って、とにかく早く王都から逃げるように、とのことです」

「殿下は?」

「王族の最後を見届け、王都と運命を共にすると」

「そうか。あの方が旗頭になるはずだったんだがな。とにかく急ごう。皆、食糧を持って馬車に乗れ!」


 謁見の間に残されていた使用人たちが、我先にと飛びだしていく。


「で、ダニア。そこの近衛騎士は?」

「第3王子殿下の護衛だった方です。洗脳から逃れた唯一の近衛でした。地方騎士団がここに入ってきた時、アルテューマ、サルミス以外の騎士団だったらライさんが保護を願うことになっていました」

「そういうことか。わかった」


 ダニアたちは簡潔に説明するに留めてとにかく逃げることを優先した。ダニアは、そこにロンがいないことを寂しい思いと、別れを告げたのだから甘えてはいけないという思いの間で板挟みになりながら、ライたちと王都から逃げる馬車に乗り込んだ。


 ガラガラと馬車が走る。既に王都から人の姿は消え、廃墟のような雰囲気すら漂わせている。王宮を振り返ると、クラウデンの魔術師たちと地方騎士団の騎士立ちがペアになって、スコルの魔術師たちと戦っているのが見えた。最後の馬車が王宮の門を通過したところで、空が暗くなった。


「フィーニス?」


 本来の姿のフィーニスは、黒いトカゲに巨大な翼が生えたような姿をしている。フィーニスが一声咆哮すると、王宮の尖塔がガラガラと崩れた。確かそこには、王族が集まっていたはずだ。


 遠すぎて叫び声がしているのか、人が落ちているのか、そんなことも分からない。ただ、第3王子だけは助かって欲しかったという思いが、ダニアの中でしこりのように固く沈んでいった。


 また地震だ。


「急げ、時間がない!」


 誰かが叫んでいる。馬車は猛烈なスピードで王都を囲む山を越えようとするが、急峻なためにどうしても距離を必要とする道しか整備されていない。


「もういつ噴火するか分からないところまで来ている、ベサール魔術師長が言っているんだ。とにかく急げ!」


 気づけば常にガタガタと揺れているが、それは馬車のせいではなく地震が原因だと気づいたダニアは、顔を青くした。魔術師棟の料理長は、ダニアの顔を見て覚悟を決めたようだ。


「とにかく西へ向かえ!」


 馬たちも疲労困憊だが、皆が助かるためには頑張ってもらうほかない。峠を越えてそのまま山を駆け下りる。ドーンという音と大きな揺れがダニアたちを襲った。ダニアが後ろを振り返ると、火柱が見えた。


「地方騎士団の人たちが!」

「大丈夫、彼らは魔術師棟が大量に書きためた転移の魔術式で脱出することになっている」


ライの言葉に、ダニアは目が点になった。


「スコルの魔術師たちが転移できないようにしていたのは、魔術師棟の魔術師たちが書いた『反射』の魔術式だ。アルテューマ騎士団の副団長が魔術を反射したらどうなるかと言い出して、サルミスの方で研究が進められていたらしい。『反射』は自分に跳ね返る場合と、やろうとすることと反対の状態になる場合があると分かって、大騒ぎになったんだよ」

「どうして?」

「火に対する防御の魔法、水に対する防御の魔法、そうやって一つ一つ作らねばならなかった防御の魔術式を一つに集約できるんだ。大量生産もできるし、どんな攻撃にも対応できる。素晴らしいじゃないか」

「あ……」


 ダニアは自分がジェルバに、閉じ込められるならば!魔術式を書く時間にすればいいと言ったことを思い出した。サルミスで研究していたと言うことは、フィルが関わっていたに違いない。


 みんなが助けてくれている。それがうれしかった。何としてもこの危機から逃げなければ、と思った。


 だが、火山の噴石と思われる物が降り始めた。先ほどの噴火で上空に上がったマグマが冷えて固まったものだろう。大きな物が直撃すれば即死だ。


「危ない!」


 大きな噴石が飛んでくるのが見えた。このままでは逃れられない。


 ここまでか。


 目を閉じたダニアは、そのまま馬車が走り続けるのに気づいてそっと目を閉じ、外を見た。


 上空で噴石が空中にとどまっている。その下に、巨大な黒いドラゴンと、その背に乗る騎士が見える。「反射」の魔力で噴石が馬車が走って行く西の方角に飛んでいかないよう、防いでくれているのだ。


「ロン! フィーニス!」


 声が聞こえたかどうかは分からない。ただ、ドラゴンの背に乗る騎士がこちらを見、そして目が合ったように感じた。


「早く行け! 留めておけるのはあと30分ほどしかないぞ!」


 反射が消えたら、ロンたちはどうなるのだろう。


 ダニアは小さくなっていくロンとフィーニスを見つめながら、西へ、アルテューマへと走り続けたのだった。

読んでくださってありがとうございました。

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