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第140話 束の間の歓談

 査問会は一旦休憩に入った。

 ルートヴィヒ国王の動揺が激しく、しばらく時間を取ることにしたのだ。


 図太い神経の持ち主だと思っていたのだが、まあ無理もあるまい。

 第二王女の死を伝えられ、その死に関与したとして第一王子と第二王子が捕縛された。

 そして査問会はまだ終わりではない。

 この先も告発が続くであろうことは容易に想像出来る。


 護衛に囲まれ二人のメイドと共に皇帝用の控室へと移動する。

 部屋の豪華なソファーにどっしりと腰を降ろすと、仮面を外しながらメイドたちに声を掛ける。


「二人とも疲れただろ。座って一息入れてくれ。この部屋の中なら仮面を外しても大丈夫だ」


 金髪メイドと赤毛メイドが俺の向かい側のソファーに座り、顔から白い仮面を外す。


 金髪メイドの仮面の下から現れたのは、青い瞳の美しい顔だった。

 つい先ほどその死亡が公表されたホルス王国第二王女エルフリーデである。

 この査問会には本人の強い希望により同席させている。


 皇帝が常に連れ歩いている仮面のメイドは、その筋ではけっこう有名だ。

 顔をすっぽり覆う白い仮面は、今では皇帝付きメイドの代名詞ともなっており、この仮面さえ付けさせれば、誰であろうと正体を隠したまま怪しまれずに帯同させられる。


「エルフリーデ。これで君の死亡は公のものとなった。君はもう自由だ。王家の責務からも予知者の責務からもな」

「はい。私の我儘を聞いていただき、ありがとうございます。陛下」


 ソファーにもたれ、目を閉じる。

 まぶたの裏に「エル」と名乗っていた一人の少女の姿が浮かぶ。


 フローラ・ゼルマ・ハース。

 エルフリーデ王女の侍女であり影武者であった少女の名だ。

 彼女はエルフリーデ王女を演じ続け、その短い一生を終えた。


「エルは……フローラは君を守り、王女エルフリーデとして死んだ。エルフリーデの名は彼女が墓場まで持って行った。今の君に名前はない。だからこれからは君がフローラを名乗れ。フローラの名を胸に抱き、フローラとしてその生を全うしろ」


 エルフリーデの青い瞳から一滴の涙が零れる。


「はい、フローラの名は私が引き継ぎます。私はフローラ・ゼルマ・ハース。この名に恥じぬよう、精いっぱい生きていく事をお約束します」


 二度と会えぬ少女を想い咽び泣く彼女を、隣に座る赤毛のメイドが優しく抱きしめる。

 俺は赤毛のメイドにも声を掛けた。


「ベルタもよくやってくれた。おかげで国王の査問が楽に終わったよ」


 赤毛のメイドの正体は、秘密諜報組織シャドウの最古参メンバーの一人、ベルタである。

 彼女は『真偽判定』のスキル持ちであり、査問対象者の発言に嘘がないかを確認するため同席させている。


 ベルタはエルフリーデ改めフローラの肩を抱きながら疑問を口にした。


「陛下。ランベルト王子への追及は、王女誘拐の件だけで良かったのですか? 彼はもっと重大な事件にも関与してますし、この場で提示できる証拠も揃っていますが」

「それは別にやる。今日の査問会の目的は王族の悪事を漏れなく暴く事じゃない。貴族連中に王子たちの悪行を見せつけ、王族には国の統治を任せられないと印象付けることだ。それに今日の主役は第一王子エルヴィンだ。他の者の査問に時間を掛けるつもりはない」

「了解しました」


 ランベルトの件はこれでいい。


 査問の再開までには今しばらく時間がある。

 部屋の隅で待機している俺のメイドに声を掛ける。


「セシリア。コーヒーとケーキを三人分頼む。ケーキは一つ……、いや、二つ多く頼む」

「かしこまりました」


 メイドロイドのセシリアがワゴンに紅茶とケーキを乗せて持ってきた。

 テーブルに次々と並べられるショートケーキの皿を見て、ベルタがあきれたような声を出す。


「陛下、そんなに食べるとお腹が出ますよ」


 俺はベルタの前に追加分のショートケーキを押し出した。


「いや、これベルタの分だよ。今日はベルタのおかげでサクサク進行してるからな。その礼だ。遠慮なく食べてくれ」

「そんなに食べられませんよ。……というか、何で私だけ?」

「自分の手足を見てみろ。触っただけで折れちゃいそうな細さだろうが。お前は人一倍カロリーの摂取が必要だ」


 ベルタはかなり細身で、痩身というより病的な細さである。


「お前この半年、体重が全然増えてないだろ。もっとたくさん食べて身体に肉を付けろ」

「陛下! まさか、私の体重をご存知なんですか?!」

「数値までは知らん。けど体形は注意を払って見てるから、増えてない事だけは分かる」

「女性の体を注意して見てるって……」


 ベルタがドン引きといった冷たい視線で俺を見ている。


「シャドウのトップとしてはメンバーの健康管理も仕事のうちだからな。そんな華奢な体では、気軽に外回りに同行させられないんだよ」

「そんなプライベートな事にまで口出しするなんて、それパワハラですよ、パワハラ。……いえ、この場合はセクハラ? まあ、何にしてもシャドウ就業規則第三条の明確な違反です!」

「残念! 余はエデン帝国の皇帝である。シャドウの就業規則など余の知った事ではないわ! わっはっは!」

「そんな屁理屈が通用するとでも? だいたいその就業規則だって陛下がシャドウ司令官として作らせたものですよね。ごねるならこの件、労働組合に持ち込みますよ」

「無駄無駄無駄ーーっ! 小生意気な労働組合が余に逆らうと言うのなら、力でねじ伏せるまで! シャドウ労組など恐れるに足らず!」

「どこの魔王ですか! だから、その小生意気な労働組合も陛下の肝入りで作らせたものですよね。いい加減にしないとテレーゼ様に直訴しますよ」

「テレーゼを持ち出すとは何と卑怯な! お前こそどこの魔王だよ!!」


 歯ぎしりしながらベルタの前に並べたケーキ皿の一つを自分の前へと移す。


「仕方がない。ケーキは俺とお前で二つずつだ。これなら文句あるまい!」


 ベルタがため息を付きながら、フォークをケーキに突き立てる。


「文句はありますけど、まあいいです。でも今度の体重の話題を持ち出したら、本当にテレーゼ様に訴え出ますからね」

「ぐぬぬぬぬ。今日のところはこれで引いてやる。覚えていやがれ」

「どこの三下ですか」


 ふと目を上げると、こちらを見ていたフローラと視線が合った。


「ん? フローラも二つ食べたかった? まだ手を付けてないからこれをやろう」


 ケーキ皿を押しやる俺を見て、フローラが慌てて否定する。


「いえ、ケーキの話ではなくて。その、陛下とベルタさんの会話が……」


 俺とベルタのあまりにも距離感のない会話に驚いたようだ。

 そう言えばさっき国王に向かって『お前は誰に向かって物を言っている?』とかやらかした後だしな。


「俺だって四六時中偉そうにふんぞり返ってる訳じゃない。皇帝なんてストレスの溜まる仕事してると、時に馬鹿話に花を咲かせたくなる事もあるんだよ。ベルタはそういった時の話し相手の一人だ。当然人目のあるところではこんな会話しないぞ」


 フローラはまだ納得いかなさそうな顔をしているが、まあじきに慣れるだろう。


「フローラさんは陛下のお屋敷で、テレーゼ様付きの侍女として働くんですよね。陛下が変な事言ってきたら、すぐにテレーゼ様に相談するといいですよ。あの方なら陛下を抑えられますから」

「こら! フローラに変な知恵を付けるな!」


 コーヒーとケーキと他愛ない会話でしばしの時間を過ごす。

 このままずっと、こうしていたい所だがそうもいかない。


 コーヒーとケーキが胃に消えたところで二人に声を掛ける。


「さあ、そろそろ仕事の時間だ。仮面を付けろ。気持ちを切り替えていくぞ」

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