揺籃
斜めの天井にある填め殺しの窓から朝日が容赦なく降り注いでいる。
今身体の中では網膜の錐体細胞が太陽光線の刺激を脳に伝達しそこから全身に活発な生命活動を開始するよう命令しているところだろう。
睡眠欲と食欲を天秤に掛ける。
乳児の頭髪一本分程度の僅差で食欲に傾いたので腹筋と上腕三等筋に力を入れて上体を起こす。
寝巻きから普段着に着替え脱いだ寝巻きを持って階下の洗面所に行き洗濯籠にそれを投げ込んだ後に顔を洗い眼つきの悪さに嫌悪しつつ居間へ続く戸を開ける。
こうして下へ降りてくる頃にはすでにこの家の間貸し主の老夫婦は朝食にしているので二人の向かいの席に座りこちらも朝食にする。
来た当初は早起きして自分で用意しようと何度も試みたがこの二人は余程他人の世話を焼くのが好きな性分をしているらしく毎回途中で投げ出さざるを得なくなるので大人しく従うことにした。
一事が万事この調子なのですっかり好意に甘えてしまっている。
しかし。
夜は良く眠れたかとか良い絵は描けそうかとかいう質問に適当に答えつつも頭の片隅では一刻も早くこのぬくぬくとした毛布を剥いで揺り籠を出なければ肥大化しすぎて出られなくなってしまうという半ば妄想染みた考えが日に日に募り気持ちばかりが焦っている。
自分の才能が認められて独力で生活出来るようになればこんな苦悩しなくても済むのだろうと思い制作に没頭する日々を送りながらも一方で自分は本当に才能が有るのだろうかひょっとしたら向いていないのではなかろうかという疑念を拭い切れずにいる。
何にせよ置かれた環境で出来る事に最大限注力するしかない。
朝食を済ませた後二人に軽く礼を述べ屋根裏の画房へ戻る。
ここで目が覚めた。
親の庇護を抜け自立しようと奮闘するのは今も昔も戸惑いや煩悶が付き物である。
科学が進歩すれば身体的な負担は軽減されていくだろう。
だが精神的な苦労まではどうしようもないだろう。




