網棚
終点の中央停車場。
列車内には乗客の姿はない。
車掌として最後尾から先頭に向かって順に点検している。
外は雨が降ったり止んだりを繰り返している。
毎駅開扉前に傘等お忘れ物ございませんようにとアナウンスメントしていても支柱に掛けたままの状態の傘が何本かある。
座席や網棚の上にも迂闊にしてか故意にしてか判断しかねる忘れ物がある。
新聞雑誌は読み捨てられたのだろう。
スナック菓子やファストフードの包装紙に清涼飲料の紙コップや缶やペットボトルはおそらくゴミ箱まで持って降りるのを億劫がったのだろう。
始発駅や停車駅が最寄の店舗のロゴマークが描かれた紙袋もある。
本でも読む時に使ったのか眼鏡が座席の奥に挟まっている。
獲物の入ったクーラーボックスの方は持ち帰ったようだが釣竿は網棚の奥に置き去りにされたようだ。
病院への見舞いか引っ越し祝いかプロポーズとお遣いが重なったか知らないが花束と果物籠を失念している。
大きさや形はまちまちだが鞄の置き忘れも数点。
すべてこの後すぐに遺失物として駅に保管されしかる後に所定の形式に則して処分される。
大なり小なりそれぞれに持ち主の思いが詰まっていると考えると店の売り場に所狭しと並べられている商品には感じない重みが伝わってくる。
どうか一つでも多く持ち主の手元に届きますように。
ここで目が覚めた。
そう言えばこれまでの人生で何度も忘れ物をしてきたが見つかることは稀だった。
小さい頃は探したものなのに歳を重ねるに従って諦めが早くなっている気がする。
人は忘れ物をする度に物の有難味を感じなくなるのかもしれない。




