言と数
期末考査が終わり短縮授業期間に入り夏休みまでの日数が指折り数えられるほどになったある日のこと。
職員室の自席で昼食にお茶を飲みつつ自家製のサンドイッチを口にしていると向かいに座る太り肉の国語教員に声を掛けられた。
向こうの机の上に炭酸飲料とジャンクフードが並んでいるのを見て野菜を摂れと忠告したら足りない栄養は毎朝サプリメントを飲んでるから大丈夫だと言われ重ねて注進する気が失せる。
二言三言世間話を交わした後話は採点を終えたばかりの期末考査の出来へと移る。
こちらは可もなく不可も無しだと伝えると向こうから大袈裟に溜め息を吐かれた。
何でも各大問の最後に設けた思考力と表現力を問う作文の解答率が悪いのだとか。
ここで情報通信機器の発達や家庭環境の変化と言った外的要因を議論しても結論が出るとは思えない。
そこで内的要因を探ろうと思い授業の進め方について質問する。
すると向こうは良い質問だと言わんばかりの勢いで熱弁を揮い始める。
自慢や愁訴を除いて話を要約すると先ず授業開始時に用語帖から五分間の小テストを行ない生徒の勉学に対する内燃機関を加熱させる。小テストは隣席と交換の上採点させた後すぐ回収する。その後に教科書の解説を行なう。この時丁寧な板書や冗談を混ぜつつ生徒が困惑したり退屈したりしないように留意しているとのこと。
生徒が躓かないよう細心の配慮をしようという気持ちは理解できる。だがこれは遣り過ぎだと伝えるとではそちらはどんな授業の進め方をしているのかと問い返される。
まず例題を解き簡潔に要点を説明した後練習問題を解かせる。早く出来た生徒に解答を前の黒板に書かせそれを採点しながら解説する。その繰り返しだと伝える。
納得出来ないという顔でそれだけかと言われる。これで充分だと答える。
何か秘伝のコツが有ると期待していたのだろうがそんな虎の巻は存在しない。
幾ら釣った魚を与え続けても魚が釣れるようになることはないし馬面を水場に引っ張ったって水を飲むかどうかは馬次第だろうというと向こうはもう話は結構だと言わんばかりに
机の上の包装紙をガサゴソと掻き集め残りの飲料を飲み干すとその缶も一緒に持ち席を立ってゴミ箱に向かっていく。
その後ろ姿にはどこか自分の新入当時の頑なさが重なって見える。
ここで目が覚めた。
あまりに美酒美食で満腹にさせ続けるとそれを与えてくれる人に依存するようになり加えて自分から何かを得ようとはしなくなる。
粗雑過ぎる指導は考え物だが懇切丁寧にやるのも自発心を削いで意欲を減退させかねない。
おもてなし精神と言えば聞こえは良いが至れり尽くせりの細やかなサービスも度が過ぎれば有り難迷惑でしかなくなる。
何事も過ぎたるは及ばざるが如し。




