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121.夢を熱く語るあなたが好き。真っ直ぐな生き様に憧れるから




 気絶した別人クレアを口に咥え、パタパタと空を飛んでハーディンのもとへ。

 そして、合流したハーディンたちに伝言含めた先ほどの一件を説明。もちろん、そのままの内容は伝えないけどね! 伝えたら私が裏切り者だってばれちゃうからね!

 ある程度ぼかして、三日後にブレイダル平野とかいう場所で決着をつけようという話を伝えた瞬間、ウェンリーが声を荒げて猛反対。


「若様、どう考えてもイシュトスの罠です! 奴の誘いに乗ってはなりません! 全兵力を率いて若様がその場所に向かったところを、罠によって一網打尽にするつもりに違いありません!」

「罠、ね……ガウェル、君はどう思う?」

「その程度の策で我らを討てると考える男ならば、どれほど楽な相手でしょうな。アレがそのような『小粒』な策を取るとは思えませぬ。何事にも美学、過程、在り方を求める男でしたからな」

「ぐっ、ガウェル! あなたはイシュトスを過大評価し過ぎなのです! いつもいつも、そのように持ち上げて若様を惑わせて!」

「私は事実しか言わぬ。奴とリナ・レ・アウレーカだけは侮るわけにはいくまい、舐めてかかれば奴らはどんな状況でも盤上をひっくり返してくる。味方にいればこれほど心強い存在はないが、敵に回れば厄介極まりない怪物どもよな。策をしかけていないとは言わぬ……が、お前の言うような罠で我らを殲滅するようなことは考えまい」


 おお、揉めてる揉めてる。ウェンリーの対抗意識バリバリで分かり易いったらないわ。

 イシュトスに対する評価としては、ガウェルは流石といったところね。私もあの男だけは絶対に侮っちゃ駄目だと思う。なんていうか、纏っている空気がリナとよく似てるのよね。

 自分の価値観、自分の世界、自分の定規だけに拠って動くところとか、その基準が『面白いかどうか』なところとか。ある意味、魔物らしい魔物と言えばそうなのかもしれないね。

 さてさて、ハーディンはどう判断するのかな。オル子さんはどっちに転んでも関係ないからいいんだけどね。オル子さんは何があろうとイシュトスとは戦わないよ! ワル子パワーで見逃してくれること確定した以上、戦う理由がないでござる!

 長らく思考する姿を見せた後、ハーディンは決断を下した。


「こちらも長々と戦いに付き合うつもりはない以上、彼の申し出は好都合だ。無意味に時間を浪費して綱引きを繰り返すよりも、一度の戦闘で終わらせてしまいたいからね。イシュトスの誘いに乗ろう」

「若様っ! 危険です! もし、その戦場にイシュトスが姿を見せなかったら如何されるのですか! 自分たちに都合の良い戦場で、戦場に出てきた若様を抹殺するために全戦力で押し潰そうとするかもしれないのですよ!?」

「その程度で僕を殺せると思っている相手なら、この戦いは長くは続かないさ。僕が戦場に出ているからこそ、彼はこのような誘いをかけてきたんだろう。イシュトス軍のなかで、僕と殺し合える存在など彼自身以外に存在しない――必ず出てくるさ、イシュトス自身が、この僕をその手で殺すためにね」

「若様……」

「悪いけれど、これは決定事項だよ、ウェンリー。逆らった『六王』、先代の負の遺産を処理するのは次期『魔王』である僕の役目だからね。イシュトスが決着を望むなら、僕は『王』として粛々とその役目を果たそう」


 ……ううむ、立派に『王』としての役目を果たそうとしてるわよね。

 でも、イシュトスはそんなハーディンのことを空っぽだとか言ってた。彼のすべては他人に拠っている、とか。ええと、どこが? 微塵もそんな風に思えないんだけど。

 そもそも、このハーディンが他人に拠っているなら、何もかもみんなに丸投げしてる私は何だって話ですよ。

 難しいことはエルザ任せ! 身の回りのことはルリカ任せ! 切り込み役はクレア任せ! 内政はぜーんぶキャス任せ! 私のやることと言えばミュラやミリィと遊びまわるだけ。


 こんなふざけるにもほどがある私が王様なんだもん。イシュトスの言葉の意味はよく分かんないわ。

 やっぱり、ミュラのことも含めて、ちょっと踏み込んで話を聞いてみないと駄目かしら。私には『イシュトスが言ってました』ってカードがあるもんね。

 何もかもイシュトスのせいにしてガンガン質問するしか! イシュトスのことよ、何もかも『それも私だ』って黒幕になってくれるに違いないわ。

 

 ハーディンの考えを変えられないと理解したのか、ウェンリーはこれでもかというくらい表情を顰めてる。ぷぷぷ、残念でおじゃる!

 ウェンリーのことを陰でこそこそ笑っていると、それを察知したのか私にギンと視線を向けてくる。げげっ! 鬼怖っ!

 慌ててハーディンの背中に隠れようとした私の尻尾を踏みつけ、怒り口調で問い詰めてくる。


「ところでナマモノ、一つ訊きたいのだけれど、どうしてお前はイシュトスを前にして生きているのかしら? 他のオーガは一瞬にして殺されたというのに」

「そんなこと私に問い詰められても知らんもん! 気づけば他のみんなぶっ殺されて、クレアは気絶させられて、私にメッセンジャーになるように言ってきたんだもん!」

「怪しいものねえ? 伝言役ならば、クレアだけでもいいのではなくて? わざわざお前だけを無傷で帰した理由……ナマモノ、お前まさかイシュトスの配下なのではなくて? 若様を殺すために忍び込んだ敵なのではないの?」


 鋭い。正確にはイシュトスではなく、オルカナティアのスパイなんだけども。

 でも、こんな風に問い詰められることは想定内。オル子さんは異世界に来てからというもの、悪役ヒロインと弾劾シーンでバトりあるイメージを毎日欠かさなかったのよ!

 この程度のイベントの一つや二つ、乗り越えられずしてヒロインを名乗れるものか! 私の中で戦いのゴングが鳴り響き、ふふんと笑ってウェンリーに言い返す。


「ほほほ、何を言い出すかと思えば。その程度の邪推しかできないなんて、あなたがイシュトスやリナ・レ・アウレーカに遠く及ばない無能だと自己紹介しているようなものだわ」

「なんですって……?」

「だってそうじゃない! もしシャチ子さんがイシュトス陣営でハーディンを殺そうとしていたら、わざわざ彼に見つかるような真似をする訳ないじゃない! だってハーディンに見つかれば最後、殺されるか『闇王鎖縛ダーク・ジェイル』で一切彼へ攻撃を加えられなくなるんだもん! もし私がイシュトス軍でハーディンの力や素性を知っていたら、ノコノコと彼の傍に現れて堂々と寝転がったりしません! 違いますか!」

「ぐ……で、でもそれも演技かもしれないじゃない! イシュトスの為に捨て駒となる覚悟を持っていたら、死ぬかもしれないと分かっていても若様の傍に……」

「情報の為にわざわざ総合ランクS-の魔物を捨て駒にするの? 『闇王鎖縛ダーク・ジェイル』をくらえば、戦力としてすら使用できなくなるのに? 私がイシュトスだったら、そんな勿体ないことをせずに、ハーディンや『六王』を殺すための戦力として使用すると思うんだけどにゃあ。ウェンリーさんは情報のために『六王』ともタイマンで戦えそうな戦力を捨てる作戦を取るんですか! そんな愚策を取る人が幹部だなんて、魔王軍の恥だと思うんですが、そこんところどうですか!」


 ヒレをビシッと指して、ウェンリーへ追い打ち! 異議あり! くらえい!

 くふふ、顔を真っ赤にして怒りを堪えておるわ! オル子さんに無実の罪を着せて王子様と結ばれようなんて片腹痛いわ! 逆に私があなたを修道院に送ってくれるう!

 まあ、実際裏切り者ではあるから無実の罪って訳でもないだけども! そこはそこ、それはそれ! ヒロインに喧嘩を売ったことを後悔するがいいわ! ふしゃー!


 尻尾を立てて、シャチホコポーズで威嚇していると、ハーディンが仲裁するように言葉を紡ぐ。


「そこまでだよ。ウェンリー、シャチ子はイシュトスの配下ではないよ。もしそうだったなら、出会った時に僕がシャチ子をこの手で殺しているさ。これ以上、シャチ子を疑うのは止めよう。ウェンリーの用心深さも分かるけれど、僕の『闇王鎖縛ダーク・ジェイル』を受けている以上、シャチ子が逆らえないのは理解しているだろう?」

「……分かりました。若様がそうおっしゃるならば」


 ハーディンに窘められて、すごすごと下がるウェンリー。ふふん、他愛もない!

 ぴょこぴょこ跳ねて、ハーディンの足元へ逃げ込んであっかんべー。勝者はオル子! 勝者はオル子! 敗者はウェンリー! 敗者はウェンリー!


「戦いは三日後でしたな。我らはこの地にて軍を再編、欠損した魔物の補充を行いますので、若様は後方の砦でお休みくださいませ」

「ああ、そうさせてもらおう。おいで、シャチ子」

「わあい、やっと休めるう! シャチ子さんもう体クタクタですぞ! 砦に戻ったら、まずは水浴びだからね! シャチ子さん清潔な乙女だからね、ピッカピカに磨き上げて下さいな!」

「くっ、何一つ働いてないくせに、このクソナマモノっ……」


 何かを吐き捨てるように呟くウェンリーだけど、聞こえないったら聞こえなーい。

 三日も猶予を与えてくれて、グッジョブよイシュトス! 疲れた体をリフレッシュできるし、エルザたちがこちらに来る時間も稼げるし、私にとって良いことづくめ! 




















「……そうか。イシュトスはそんなことを君に言ったんだね」


 その日の夜、砦に用意された私とハーディンの部屋でお話する私たち。

 話の内容はもちろん、イシュトスが言っていたハーディンのこと。中身が何もない、全ての理由が他人に拠っていて、彼は王足り得ないとかいう話。

 色んな所を誤魔化して、そんな暴言をイシュトスが吐いてましたって感じで話してみたら、ハーディンは困ったように笑うばかり。ぬー? 怒ったりしないの?

 首をかしげる私に、ハーディンはそっと言葉を紡ぐ。


「彼がそう言うのも無理はないかもしれないね。当時の私は、確かにイシュトスの言う通り、空虚な人形そのものだった」

「人形?」

「父であるアディムの死によって、僕に『六王』や数多の魔物たちの上に立つことを強いた。あの時の僕は、まさしく全てを他人に拠っていたのだろうね」


 そう言いながら、ハーディンは私の頭をそっと撫でる。

 モシャモシャと晩御飯のお肉にかぶりつく私を見つめながら、ハーディンの話は続いていく。


「アディムが築きあげた一大勢力、秩序を壊さないことだけを考え、僕は『王』として在ろうとした。彼らがアディムを信奉し、心惹かれ集まった強者たちだと知っていたからこそ、僕はそれを維持するために奔走したよ。そうだね、僕はなろうとしていたんだ――『魔王』アディムという男に。それこそが僕が父アディムに与えられた使命だったから」

「ほむ……?」

「沢山の魔物を殺したよ。逆らう魔物を殺した。変化を望む魔物を殺した。アディムならばどうする、それだけを考えて僕は玉座に座り続けた。そうすることで、僕は彼らの望むものを与えられる。僕がアディムであることが、彼らの望みだと信じていた。けれど――それは間違っていたんだね」


 そう言って、ハーディンは小さく自嘲気味に笑った。

 その表情に、私はご飯を咀嚼する口を一度止めてしまう。ハーディンのこんな顔、初めてみたかも。

そのすぐ後にお腹が盛大に鳴っちゃったので、すぐにモチャモチャと食事を再開したけれども。


「――最愛の人に、全てを否定されたよ。誰よりも傍にいて欲しかった女性に、僕の生き方は受け入れられないと」

「最愛の、人」


 ……多分、これ、お母さんよね? ミュレイアだっけ、ハーディンとミュラのお母さん。

 城内の魔物の話だと、この人がハーディンに反乱を起こして、彼は直接その手で実の母親を殺すことになっちゃったとか。うぐう、話が重過ぎて何も言えませぬ。

 言葉に詰まる私に、ハーディンの独白のような言葉は続く。


「それから、僕の元を多くの者たちが次々と去っていったよ。ジーギグラエ、アヴェルトハイゼン、アスラエール、そしてイシュトス……結局、僕の傍に残ってくれたのはガウェルとウェンリーだけで、他の者たちは僕を見限ってしまった。その時にようやく気付いたんだ。僕の在り方は、『王』としての道は間違っていたとね」

「ハーディン……」

「そう、僕は完全に間違っていたんだ。僕自身が父アディムであれば……その存在を肯定し続け、彼になることが出来れば全てが上手くいくと考えていた。それ以外、僕には何もなかった。『王』としての望みも、欲も、野望も、彼らに求めることも何一つ僕の心に存在しなかった。ただただ、アディムとして皆の上に立つことを、現状維持することだけしか考えていなかった――愚かだよ、今になって彼女の言葉の意味がよく分かる。僕はハーディンであり、決してアディムにはなれないというのに」

「でも、それはむぐっ」


 やばい、ちょっと食べ物が喉に詰まった! シリアスな話をしているところ悪いんだけど、水を下さいまし!

 ペチペチとヒレでハーディンの太腿を叩くも、瞳に闇を宿した王子様、これを華麗にスルー。ぬおおお! ちょっとシャレにならないんですけども! シャチって頭の孔から呼吸するんじゃないの!? なんで喉に物詰めて呼吸困難になってるのよ!?


「全てに気づいた時、生まれて初めて僕の心に欲というものが生まれたよ。僕がアディムではなく、ハーディンとして……ただの魔物として、純粋に『魔王』へなりたいと願った。アディムとしてではなく、ハーディンとして全ての強者を捻じ伏せ、蹂躙し、この僕という存在を認めさせる。そして、その上で彼の――『魔王』アディムの全てを否定してみせる、と」

「むぎゅうう! むっきゅ! むっきゅううう!」

「僕はアディムの予備として、自我の無い人形として生み出された存在ではないと、全ての魔物を従えることで証明してみせる。ハーディン・クロイツという魔物が、己の意思でこの世界を駆け抜けた証を残す。そして、この世界に残るアディムに関わる全てを否定し、今度は僕が彼の全てを消し去り、アディムを超える『魔王』となる――それが僕の戦うきっかけであり、理由の一つだよ……シャチ子?」


 ハーディンの傍でビタンビタンと跳ねまわる私。喉に詰まったもの取れろ! 取れろ!

 何度か跳ねまわると、ようやくストンと胃まで落ちてくれた。ふう、驚かせおってからに。

 コロコロと転がってハーディンの傍に寄って、私はキリッとした表情でハーディンに声をかける。


「話は分かったわ。つまり、ハーディンは親の七光りじゃなくて、自分の力で『魔王』になったどー! って、やりたいのね! 俺の凄さを見抜けなかった奴らざまああああ! って、やりたいのね!」

「ううん、そう言われると僕の戦うと決めたきっかけはあまりに小さく感じられてしまうね。けれど、その通りだ。僕はアディムになるではなく、彼の全てを超越する欲深き『魔王』になり、全ての魔物に僕という存在を認めさせたいんだ。失望したかい?」

「なんで? 別にいいじゃないの、人に認められたいのは誰だって持つ感情だもん。精進欲求だっけ? あれ、少林欲求だっけ? まあいいや、なんかそんな欲求があるんですよ! 認められたい、褒められたい! ちなみにシャチ子さんはいつもその気持ちで溢れていますよ!」

「それは胸を張れることなのかな……」

「別に『俺を否定した世界の全てを破壊してやる』とか終末的ラスボス思想を言ってる訳でもなし。『俺の凄さを見せつけてやる! 俺スゲーしてやる!』って方がシャチ子さんは好感ですよ?」


 というかね、その理由を最初から持ってたらリナとか絶対離れなかったと思うよ?

 『異世界で俺TUEEEしたいから』なんて言った瞬間、リナ大爆笑で面白おかしく協力すると思うし。ましてハーディンはリナの愛しのアディムの子どもなんだから。ああでも、自分の子どもって訳じゃなくて、あくまで他の女性との子だから、そう簡単じゃないかも。むずかちい。


「……きっかけは本当に小さく、些細なものだったけれど、それが今の僕の確固たる強さを与えた。今の僕の在り方をガウェルが、ウェンリーが支えてくれている。たとえ相手がイシュトスだろうと、誰であろうと僕に敗北は存在しない。父を、アディムを超える存在になるまで、僕は決して止まらないと決めたからね」


 ほむ、立派な誓いですな。父を超える王になる……どこぞの聖剣振り回してた奴よりよっぽど王様してるじゃないの。

 ううん、でも、本当、これなら私とハーディン戦う理由ないんじゃないの?

 ハーディンはアディムを超える『魔王』として認められたい、在りたいんでしょう? 私、アディムのことなんか知らんから幾らでも認めてあげますぞ?

 たった一つ、ミュラの件だけを何とかすれば、私たちは戦わずに済むと思うんだけど……よし、その件も踏み込もう。もう怖いものなんてないし、毒を喰らわばフォークまで!


「ねえねえ、ハーディン。あなたがミュラという妹さんのことを否定するのは、妹さんもアディムの血をひいているから? アディムの全てを否定するために、彼女を地下牢に閉じ込めていたの?」

「そこまでイシュトスは君に話していたのかい? 随分と彼もおしゃべりになったものだね」

「な、なんかね!? 話をもちかけられたの! ハーディンは実の妹を地下に監禁して虐待するような奴だから、そいつと縁を切ってウチにこないかってヘッドハンティングされたの! も、もちろん断ったけどね!?」


 危なっ! そういえば、ハーディンからはそこまでミュラの詳細を聞いたことないんだった!

 さっきの話の流れで、イシュトスから教えられたって判断してくれたみたいだけど……なんだか私のせいでイシュトスがどんどん小物になってる。ごめんね、イシュトス! 次に会った時、たい焼きを半分こして尻尾部分をあげるから許して!


 私の問いかけに、ハーディンは少し言葉を詰まらせた。あれ、さっきまでとは違って歯切れが悪い。

 やっぱりハーディンはミュラのことが嫌いなのかしら。存在すら認められない、それこそ虐待しても足りないくらい。

 もしそうだったら、どんな事情があろうと私は最後の最後まで徹底抗戦、迷うことなくハーディンを殺すだけなんだけども。たとえどれだけよくしてもらっても、私の一番は絶対に変わらない。私は最愛の娘、大好きなミュラの味方だもん。

 沈黙が室内を支配する中で、やがてハーディンはゆっくりと口を開きかけて、軽く首を横に振った。あ、あれ?


「もう寝ようか、シャチ子。慣れない戦いは疲れただろう? ゆっくりと体を休めてほしい」

「うにゅ、そりゃシャチ子さんも寝るけども……それよりその、妹さんの話をですね……?」

「イシュトスの話を真に受けてはいけないよ。僕に実の妹なんていないのだからね」

「ぬ、ぬおおおおお!? はぐらかした! 適当にも程がある嘘ついてはぐらかしましたよ、このイケメン王子! 嫌だああああ! 気になる気になるミュラって妹の話がシャチ子さん気になるううう! 気になって眠れないよおおお! このままじゃ不眠症で明日に影響が出ちゃうううう!」


 ゴロゴロ転がったりビタンビタン跳ねまわったりして駄々こねるも、全然話してくれませぬ。ぐぬうう! 一番大事な話なのに!

 ミュラの話聞かせろお! ミュラに酷いことしてごめんなさいって言いなさい! ミュラのことを話すまで、オル子さんは絶対に眠らないからね!

 こうなればデモよ! ストライキよ! ハーディンが根を上げるまで私は絶対に眠らんぞおおおお! ミュラ、見てて頂戴! お母さん、あなたのために全力で戦うからね!

 前世では毎日の予習復習を怠り、テストで常に一夜漬け一本で勝負し続けた私を舐めるなあああ! たとえ麻酔針を首筋に撃たれても私は眠らぬううううう!
























 すぴー。すぴー。


 うにゅう……もうお腹いっぱいで食べれぬう……

 ああん、やっぱりデザートは別腹よう……えへへ……おいひい……



 

 

 雪月花様より、エルザのイラストを頂きましたっ!

 書籍表紙にもなっているエルザ(オルカ・ウィッチ)ですー! 書籍発売まで一週間を切ったなかで、嬉しい、嬉しいですー!

 一つ前の話にアップしておりますので、是非! 雪月花様、本当にありがとうございました!

 

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