122.期待しているわよ。開会のスピーチは華やかに、ね
イシュトスとの再会から三日経ち。
彼が決戦の場と宣言したブレイダル平野という場所に進撃の魔王軍。
ガウェルやウェンリーがさらに魔物をかき集めたらしく、もはや数えるのも馬鹿らしくなるくらいの大軍勢です。あまりに壮観! 強靭! 無敵! 最強! 全速前進よ!
視界に広がる魔物たちにエルザの超広域殲滅魔法ぶちかましたらどれだけ経験値になるかしら……なんて決して考えていませんよ!
総数にしていったい何万匹になるのやら。しかもどいつもこいつもランクは低い雑魚なんかじゃない。 最低でもDは確実に超えてきてる。流石は『魔選』の最前線を戦い抜いた魔物たち、それなりの経験は積んでるって訳ね。
ううん、これはもう勝負決まったかな。いくらイシュトスが策を用意してようと、この数この戦力はひっくり返せない。戦いは数なんですぞ!
けれど、ブレイダル平野に陣取っていたイシュトス軍を見て、私のそんな考えはどこかに吹っ飛んじゃった。
平原とその上空に配下を展開するイシュトス。大地を空を埋め尽くす魔物の数、それは魔王軍すらも凌駕するほど。
しかも、イシュトス軍にはこれまでの戦闘で姿を見せていなかったヤバそうな奴らが散見されちゃってる。
クジラサイズの巨大怪鳥。グリフォンの群れ。なんかスフィンクスっぽい奴までいる。陸には全身を鎧で固めた『騎士』たちの姿もある。
いやいやいやいや、いったいどこにそんな戦力隠してたのよ。というか、そんな戦力あったらこれまでの戦いで後れを取ったりしなかったんじゃないの?
恐らく……いいえ、間違いなくイシュトスは全ての戦力をここに投入してる。
敵の数が多過ぎて、エルザの叔父さんがどこにいるかは分からないけれど、『白騎士』は騎士の先頭に立っているし。他にもいるらしい、『色持ち』とかいう『騎士』もきっと勢揃いなんでしょうね。
『魔王軍』と『空王軍』。両者の全戦力が終結しあったラストバトル。
まさに決戦、激戦、大激突。この一局で次の『魔王』が決まると言っても過言ではないでしょう。
血に飢えた怪物たちが、今にも敵を食い殺さんと睨み合う戦場。その上空で向かい合う互いの将。
『六王』が頂点、大空の覇者――『空王』イシュトス。
すべての魔物を超越する力を有する、絶対強者――『小魔王』ハーディン。
ザ・ワールド・イズ・マイン、世界は私というお姫様を軸にして回っている――『異世界転生愛され公爵令嬢』オル子ちゃん。
その三者が大空で互いに会話のできる距離まで接近しているわ。
そう、イシュトスとハーディンのボス同士の睨み合いに、なぜか私もちゃっかり参加させてもらっているのです! ハーディンについていきました!
なんか地上からウェンリーの『空気読みなさいよ!』だの『アンタは戻ってくるのよ!』とか聞こえる気がするけど、華麗にスルー。
なぜなら私はこの戦場で目立たねばならぬのです! 誰よりも目立って、オル子はここにいますよと戦場のどこかにいるであろうエルザたちに示さねばならないのだから!
そう、これは昨夜、アルエと二人の作戦会議で決めたことなのですよ!
『ハーディンとイシュトスの決戦、その戦場で必ずエルザたちは行動を起こすわ。オル子を助けるためにね。エルザたちのことだもの、既にこっちに来ているはずだもの。ハーディンの監視下にあるあなたを助けるためには、この決戦、大混戦はこれ以上ない好機だし』
『マジで!? とうとうみんなが私を助けに来てくれるの!?』
アルエの言葉に、私はぴちぴち跳ねて大歓喜。
みんなが助けに来てくれるということは、とうとう私のこのスパイ大作戦も終わりを迎えるのね!
敵陣にたった一人でオル子さん頑張りましたよ! 帰ったらいっぱい褒めてもらわなきゃいけないわ! まずは体を休めるためにも、三日はゴロゴロしないと! お菓子いっぱい食べて、お風呂に一日五回は入って! ミュラやミリィにいっぱいスリスリして!
大興奮する私だけど、そんな私に冷や水をぶっかけるようにアルエが口を開く。
『喜ぶのはまだ早いわよ。オル子を助けるといっても、それは決して簡単なことではないもの』
『ぐぬぬ、そういえば『闇王鎖縛』があるから逃げるに逃げられないんですよ』
『その解除はエルザたちが考えた作戦に頼るしかないわね。束縛スキルの件は置いておくとして、私たちが考えるべきは別のことよ。何が一番大変かって、戦場でエルザたちは、数えるのも億劫になる魔物たちを潜り抜け、あなたを探し出さないといけないの』
『確かに。何万って数の魔物が入り乱れて戦うんだもんね、そんな混戦の中で私だけを探し出すってのは難し過ぎるかも』
私のシャチボディは特徴的だけど、乱戦の中で探し出せってのも無茶な話だわ。
なにせ戦いともなると、動きが止まることなんてまずないもんね。両軍の空飛ぶ魔物もいっぱいいるだろうし。
つまり、私は戦場の中でなんとか目立ってエルザたちに『自分はここだ』ってのを伝えなきゃいけないわ。うぬう、どうするかにゃあ……
『そうだ! こういうのはどうかしら! 戦場で戦う時、ひたすら「このシャチ子を殺せるものはいるかー!」って叫びまわるの! 目立つこと間違いなしですぞ!』
『却下。あなたに魔物の攻撃が集中したらどうするのよ。エルザたちと合流する前に死んじゃったなんてシャレにならないわよ』
『ですよねー』
戦いの中で目立つのはNGってことね。
流石にイシュトス軍の魔物の集中砲火を浴びるのはちょっと。オル子さんに自己回復スキルとかあれば話は変わるけど、ダメージはどんどん蓄積されますし。
頭を悩ませる私たちだけど、ふとアルエが思いついたことを口にする。
『イシュトスとハーディンって言うなれば、どっちも王様なのよね? それもかつて仲間だった過去もあって、面識もある、と』
『みたいですぞ。それがどしたの?』
『そんな二人が、「決戦を行う」って取り決めて、全軍を率いて向かい合う……その時、何の接触も会話もなく、いきなり殺し合うなんてないと思うのよ。戦いの前に、必ず二人は会話をしようとすると思う』
アルエの言葉に、思わず納得。
する。あの二人なら、絶対するわ。常に余裕たれ、みたいなオーラ放ってる二人だもん、ボスだけに許された直前会話をするに違いないわ。戦闘前の長会話はボスの特権!
この一戦で全てが決まるんだもの。武士の名乗り、騎士の決闘って訳じゃないけれど、強者同士の会話は間違いなくあると思う。
『互いの王が言葉を交わし合う時に、先走って戦ったりはしないと思う。つまり、その会話の瞬間は魔物たちの動きが止まり、みんなの視線がイシュトスとハーディンに集まると思うわ』
『なるほどなるほど! その隙にオル子さんはエルザたちを探し回ればいいと!』
『おばか! それでエルザたちがオル子を見失ったら本末転倒でしょ! あなたはあくまで探される側なの!』
『ぬぬう、つまりオル子さんはどうすればいいの? 二人が会話しているときに、どう動けばいいのかしら?』
私の問いかけに、アルエはふふんと楽しそうに笑って一つの答えを口にした。
『簡単よ――その会話の時、あなたも二人の傍にいればいいのよ。誰もが注目するというのなら、それをまるまる利用すればいいの。あなたの居場所をエルザたちが一度でも見つけられたなら、あとはきっとみんなが何とかしてくれるはずだから』
という訳で、エルザたちが私を見つけるためにも、ハーディンとイシュトスの傍にいる私ですよ。
たとえ空気読めないと罵られても、オル子さんは二人の傍を離れんぞお! 戦いが始まったら逃げるけどね! エルザたちが私に接触してくれるまで、適当な魔物とのんびり戦ったり逃げ回ったりしてればいいって寸法です!
さてさて、互いに目を合わせたまま、沈黙を続ける二人だけど、いったいどんな会話するのかな。
流石に『久しぶりー』とか『最近どう?』みたいな会話はないわよね。なにせ謀反を起こした相手だもん、そんなフランクな会話はないでしょうね。
でも、余裕なく罵り合う姿も二人からは考えられない。きっと余裕たっぷりに、『ここがあなたの墓場です、ハーディン』『愚かな君の罪は僕が裁こう、イシュトス』とかそんなエレガントな会話をするに違いないわ!
きっと中二的異能バトル会話をこれでもかと繰り広げるのよ! くうう! 悪役と悪役の戦い、嫌いじゃなくてよ! そういうシチュエーション、悪くないわあ!
まるでアニメ鑑賞をするがごとく、二人のことをガン見! さあ、どうでる! どうくる! どんな会話を繰り広げちゃうの!
手に汗、いいえ、ヒレに汗握る中、沈黙を破る様に、イシュトスがハーディンへ言葉を紡いだ。さあ、いったいどんな宣戦布告をやっちゃうの! 悪役として華麗にビシッと決めて頂戴! かもん!
「早速ですが、ご提案を――この戦争、止めにしませんか?」
この状況でいったい何を言っちゃってるんだろう、このボスキャラ。
10月1日発売の書籍版『シャチになりました』の特設サイトがオープンされました!
詳細は活動報告に記載しておりますので、ご覧頂けると嬉しいですー! 何卒よろしくお願いいたしますっ!




