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101.私は奪う者、あなたは奪われる者。立場は明確にしておかないと

  



 これまでのお話。

 王様をぷちゅっと潰して、ヒューマンを脅迫してたら何故か超強い竜族が降臨しました。

 いやいやいや、なんでこんな隠しボス的な竜族が現れるのよ! 例えるなら、ゲームセンターで格ゲーCPU対戦に熱中してたら突然乱入してくるがごときKY行動よ!

 止めなされ、シャチをいじめるのは止めなされ! 私を虐めるとオル子愛護団体が黙っていませんからね! 海の生き物大切にしないと竜宮城連れて行かないわよ!?

 がるるると威嚇して睨みつけていると、エルザが小声で私に確認を取ってくる。


「……オル子。一応訊くけれど、あの竜族に覚えは? サンクレナを偵察していた時に奴はいたの?」

「見たことないです。あんなクール系イケメン見つけたら、いの一番にエルザに報告してるもん。敵じゃないイケメンはオル子さん大好きですよ? 敵になったイケメンは滅びればいいと思います。私を愛してくれないイケメンみんな風邪ひけ!」

「そう……つまり、奴がこの一件の首謀者という訳ね。サンクレナを裏から操り、聖剣を人間に与え、オルカナティアと人間の戦争を企てた……」

「それは違うな、魔女よ」


 エルザに対し、上空からクール竜族がはっきり否定してくる。

 嘘、聞こえてたの? あんなに小声で話していたのに? あれ、つまりあれじゃね? ワル子じゃない普通の私の声もばっちり聞かれたんじゃないの? やばい! 悪ぶらないと!

 ヒレを目尻にあて、釣り上げてワル顔を作る私をスルーして、エルザと竜族の会話が始まった。


「違うとはどういう意味かしら? 人間たちを駒として利用し、私たちに戦争をけしかけたのではないの?」

「人間を利用したことは否定しない。だが、戦争を企てたのはあくまで私ではなく人間だ。私はその動きに便乗し、力を貸し与えただけに過ぎん。もっとも、所詮ただの『代用品』では剣の真価を発揮できなかったようだが」


 そう言って、竜族は宙に右手をそっと翳した。

 すると、彼の前方に光が集まり、その中から現れたのは見覚えのある蒼く輝く剣……って、うおおおい!? 聖剣じゃん! それってオル子さんが頑張ってオル子さんが岩陰に隠した聖剣じゃないの!

 何勝手に盗んできてるの!? 王様が不慮の事故で無くなった以上、所有権は私にあるはずでしょう! 返して! 聖剣返してー!

 ヒレをバタバタさせて無言の抗議を続ける私を華麗にスルーして、竜族さんとエルザのやりとりは続く。


「この剣は魔物に食らわれた人間の魂を吸い集める。だが、対象は魔物であるがゆえに、ただの竜族が人間を殺しても命が蓄えられることはない。ゆえに、利用した。絶大な力を与える代償として、私の目的と『竜王』ドラグノス様の目的を果たすために」

「あなたと『竜王』の目的?」

「ドラグノス様の目的の一部は叶えらえた。世界に存在する『三姫』のうち、二人をここに確認した。そして、残る一人は貴様たちの支配地にて命を長らえているならば、間違いなく貴様たちが保護しているのだろう」


 ほむ? 三姫? 三姫ってなんぞ?

 エルザたちは何か街の魔物たちから『四魔姫』とか呼ばれてるらしいけど、一人多いわね。

 竜王が欲しがるお姫様……いやいや、そんなの間違いなく私に決まってるじゃない。他の二人は分からないけど、一人は間違いなく私のことに違いないわ。考えなくても分かることよ。

 きっと竜王が私の美貌に目をつけて、ヒロインとして攫おうとしているのね! 古来より、竜は姫を攫うもの。竜の王様のお嫁さんとして私を拉致するつもりなのね!

 うおおおお! そんなことはさせんぞおお! でも竜王が私好みの超絶イケメンだったら少し考えてあげなくもないわ!

 はよ! 竜王の顔情報はよ! キャリーバックに嫁入り道具全部収納して引っ越しの準備するからはよ!


 ヒレで腹太鼓して大興奮している私を美しいほど完全無視して、エルザがミュラやミリィに視線を移して言葉を返す。

 あれ、オル子さんは見なくていいの? 世界一のお姫様ここにいますよ? ヒレでツンツンとエルザの太腿突くも足蹴にされました。ひどい!


「なるほど、狙いはこの子たちということね。『魔王』や『空王』だけではなく、『竜王』からも狙われるなんて、ミュラは人気者ね。ミュラを求めるのは『魔選』のため、ミリィを求めるのは連れ戻すためかしら?」

「その理由を語る権限を俺は持っていない。だが、その娘は本来ならばドラグノス様の所有物だ。アヴェルトハイゼンがドラグノス様を裏切り、妹であるその娘を奪い逃走していなければわざわざ探す必要もなかった。実に手間をかけさせられた」


 アヴェルトハイゼン、やっぱりミリィのお兄ちゃんなんじゃないの(憤怒)

 そうとも知らず、私、目の前で思いっきりサクッと殺しちゃったあばばばばば。お、怒ってない? ミリィ怒ってない?

 ちらりと視線を向けると、きなこもちの上でミリィは上空の竜族にあっかんべーしてた。可愛い! ヒレでなでなでしたい!


 っと、ミリィに夢中になってる場合じゃないわ。敵の狙いがミュラとミリィであることは明白。だったら私のやることは唯一つじゃない。

 私の大切な娘たちを奪おうとする連中に慈悲などありませぬ。寛容など忘れました。

 軽く息を吐き出し、気持ちを入れ替えて、私は上空の竜族に問いかける。


「それで? お前はミュラとミリィを奪うつもりかしら? ああ、それは実に笑えない冗談ね――殺されたいなら、先にそう言いなさい。この私が瞬きする間にお前を惨殺してあげるから」


 牙を剥きだしにして威嚇ですよ威嚇! 怒ったシャチと令嬢の復讐は生温いものでは終わらないのです! 婚約解除のうえ、王位継承権剥奪して駄目王子としてさらし者にしてくれるわ!

 ミュラたちの前に身を出して、フシャーフシャーと猫のように威嚇を続ける私を見て、竜族は少し間をおいて言葉を紡ぐ。


「強いな、お前は。私に与えられた役目は三姫の居場所の捜索、ドラグノス様への報告だが……アヴェルトハイゼンを破った強者が相手では、本気で戦わねば勝ちを得られないだろう。だが、私はドラグノス様の許可なくして、本気で戦うことはできぬ。魔姫と竜姫を奪おうとすれば、お前は間違いなく私に牙を突き立てるであろう」


 ……お? な、なんかこれ、良い感じじゃない? もしかして撤退イベントじゃないの!?

 王様の許可がないと本気出せない、本気を出さないと私たちに勝てない――戦えない! ぴこぽーん! きましたよ! バトル回避イベントきましたよ!

 いや、もうね、強敵とか要らないのよ。だって、この前『森王』と戦って、今回はチート武器王よ? こんなの幾つ命があっても足りないって話ですよ。

 相手のランクがSを超えている以上、避けられる戦いは避けたいし、逃げられる戦いは逃げるのです! 命大事に! オル子さんは二度と死ぬような目はごめんなんですよ!


 よし、念押しとして見逃してやってもいいわよ的な発言をしておきましょう。そうしましょう。

 強大な敵を演出しつつ、敵に逃げ道をつくってあげる! ああ、私ってば頭脳派だわあ……オルカナティアの裏の頭脳とは私のことですよ!


「逃げたいなら逃げたいと言いなさい。私の目的はあくまで人間にあるの。今ならトカゲの一匹や二匹、見逃してやっても構わないわよ? ああ、もちろんその物騒な武器だけは置いていきなさい。また人間にそれを使われても面倒だからね、私が戦利品として部屋にでも飾ってあげるわ」

「そうか。では言葉に甘えさせてもらうとしよう。だが、ドラグノス様ではなく私の目的は達成させてもらう。幸いなことに、持ち主を失ったばかりの聖剣は未だカウントを続けているのでな」

「なんですって? それはどういう――」


 私が問いかけようとした刹那、奴の周囲に七色の光球が生み出された。

 バレーボール大のそれは、まるで隕石が降り注ぐように大地へと着弾していった。

 爆発と砂煙を巻き上げて、そこから現れたのは――それぞれ色の異なった、七色の巨大ドラゴンたち。な、なんじゃこれええ!?

 ドラゴンたちは阿鼻叫喚となった人間の兵士たちを次々と踏みつぶし、食い散らかし、炎を吐いて殺していく。

 え、え、何で味方殺してるの? こいつって人間の味方なんじゃないの? 意味わかんないんですけど。

 困惑する私たちだけど、それ以上に錯乱したヒゲさんが声を張り上げて竜族に問いただす。


「『聖竜』殿! これはいかなるおつもりですか!? なぜ竜が我らを襲っているのですか!? あなたは我らサンクレナを導く竜ではないのですか!?」

「異な事を。我ら竜族は人にも魔にも組することなどない。お前たちの命は『聖剣』の糧として利用できる。ならば『八竜』の餌として死んでもらおう」

「そ、そんな……こんなことが、こんなことが許されるのか……我らはいったい、なんのために……」


 ヘロヘロとその場に膝をつくお髭さん。いやいやいや! なに戦場のど真ん中で膝なんかついてるの!?

 後ろ! 後ろにレッドドラゴン迫ってますよ!? ヒゲー! 後ろー! ……あーあ、ご愁傷さま。上半身から上がパックリ消えちゃった。さよなら、ダンディ。あなたの髭は嫌いではなかったわ。

 私たちを無視して、次々と人間に襲い掛かる七竜たち。それを見届け、竜族が用は済んだとばかりに言葉を紡ぐ。


「貴様たちと『代用品』が戦っていたこと、カウントが未だ進んでいること。これらの条件を満たしたからこそ、我が使役する『八竜』が人間を殺しても、貴様たち魔物による殺戮と誤認させ、聖剣に命を積み重ねることができる。感謝しよう、我が『八竜』が一人たるウルドや『山王』アヴェルトハイゼンを倒した強者たちよ。次に会う時は、ドラグノス様の命の下で『再誕』した我が妻とともに、貴様たちと心行くまで殺し合いたいものだ。三姫を賭けて、な」

「ちょっと、待ちなさ――」


 聖剣を手にしたまま、竜族は恐ろしいほどの速度で空の向こうへ消えていった。

 何あの加速、下手すると私より速いんじゃないの……って、あああー! 聖剣泥棒おおおお!

 折角クレアにプレゼントしようとした私のチートソードを返せええええ! あんだけ苦労して手に入れたのにいいい!


 あっという間に姿を消した竜族。

 そして、私たちの下に広がる大地では七匹の進撃の巨竜が人間相手に地獄絵図。私たちを完全無視して大暴れ。

 そんな状況で、エルザが私に問いかけてくる。


「さて、どうするの? あの竜族を追いかけるか、それともこのままサンクレナ城に乗り込むか。もしくは、下で暴れている竜どもを叩いてしまうか」

「あれ、意外。竜がこっちを襲ってこないならスルーしていいって言うかと思った」

「何もなければそう言ったでしょうね。だけど、先ほどの竜族の言葉が気になるわ。奴は人間たちを利用してまで『聖剣』に命を溜め込もうとしていた。聖剣のカウントは、あの強力なスキルにのみ発揮されると思っていたけれど……もしかしたら、別の理由があるのかもしれない」

「別の理由、ですか?」

「人間の魂を吸い取ることで上昇するカウント……奴はその数値が増え続けるために動いていた。つまり、そのカウントが高まると、何かが起きることに他ならない。もし、今後も奴がミュラやミリィを奪うために行動してくるとしたら」

「なるほど。理由が読めないとはいえ、敵の一手を潰しておくに越したことはないということか。竜が人間を襲うならば、その逆をとるべきだと」


 クレアの言葉に、エルザは頷いた。なるほど、そういうことね。

 人間たちの悲鳴が戦場に響くなか、みんなの視線が私に集まる。ぬ、つまりあれですか。私の最終的な判断待ちですか。ふぬう。

 視線をちらりと下に向け、私は竜たちへ『識眼ホッピング』を発動させる。




名前:『竜化』メルドア

レベル:8

種族:グレイト・レッドドラゴン(進化条件 レベル20)

ステージ:5

体量値:A* 魔量値:E* 力:A* 速度:F*

魔力:D* 守備:A* 魔抵:D* 技量:F* 運:D*


総合ランク:B




名前:『竜化』アギラス

レベル:3

種族:グレイト・ブラックドラゴン(進化条件 レベル20)

ステージ:5

体量値:B* 魔量値:C* 力:C* 速度:D*

魔力:B* 守備:B* 魔抵:C* 技量:D* 運:F*


総合ランク:B-




名前:『竜化』メルフィナ

レベル:12

種族:グレイト・ブルードラゴン(進化条件 レベル20)

ステージ:5

体量値:C* 魔量値:A* 力:D* 速度:C*

魔力:A* 守備:A* 魔抵:A* 技量:E* 運:E*


総合ランク:B+




名前:『竜化』バレンバーダ

レベル:10

種族:グレイト・グリーンドラゴン(進化条件 レベル20)

ステージ:5

体量値:S* 魔量値:E* 力:B* 速度:F*

魔力:C* 守備:B* 魔抵:B* 技量:F* 運:C*


総合ランク:B




名前:『竜化』ブレアン

レベル:3

種族:グレイト・イエロードラゴン(進化条件 レベル20)

ステージ:5

体量値:C* 魔量値:C* 力:C* 速度:A*

魔力:C* 守備:C* 魔抵:C* 技量:B* 運:D*


総合ランク:B-




名前:『竜化』ポティマール

レベル:5

種族:グレイト・ホワイトドラゴン(進化条件 レベル20)

ステージ:5

体量値:B* 魔量値:B* 力:B* 速度:B*

魔力:D* 守備:B* 魔抵:B* 技量:D* 運:D*


総合ランク:B




名前:『竜化』オディアスフィア

レベル:11

種族:グレイト・パープルドラゴン(進化条件 レベル20)

ステージ:5

体量値:D* 魔量値:C* 力:C* 速度:E*

魔力:C* 守備:S* 魔抵:A* 技量:E* 運:F*


総合ランク:B+




 ――いける。どいつもこいつも、昔戦った糸目ドラゴンと同格かそれ以下。

 昔の私たちなら全滅必至だけど、成長して高ランクとなった今の私たちなら力負けしないはず。たとえ相手が七匹だろうと、何とでもなるわ。

 私は緩む口元をヒレで必死に押さえて隠しつつ、キリッとしてみんなに告げる。


「私たちが作り上げた折角の舞台、勝手にも程がある闖入者にシナリオを書きかえられては面白くないわね。舞台の主役はあくまでも私たちであるべき……そうは思わない?」

「オル子、竜族は消えたみたいだからいつも通りの話し方でいいわよ」

「むっしゃー! 調子に乗って大地で暴れまわる竜を一匹残らず駆逐しますよ! 何もかも上手くいったといい気になってるであろう竜族を全力で邪魔してあげるのです! 本日の学級目標は『竜族の嫌がることは進んでやりましょう』です! はい、復唱!」

「り、竜族の嫌がることは進んでやりましょう!」

「いやがるする! いやがるする!」

『相変わらず底抜けのバカだな手前は』


 私の掛け声に復唱したのは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしたクレアとミリィだけ。ポチ丸に至ってはとんでもない毒を吐く始末。あれえ?

 まあいいわ。とにかく今は大地で暴れまわるドラゴンをサクッと殺すとしましょう。

 なんかね、調子に乗ってるあいつら見てると何故かイライラしちゃうんですよ! 理由は分からないけど、なんかお腹の底からイライラと!

 ああもう……たかが弱いトカゲのくせに強者気取りか? 私の目の前であまりある増長、実に不快だわ。その罪、万死に値すると知りなさ――


「……エルザ、エルザ。とってもお腹すきました。オル子さんね、さっき胃の中の物全部吐いちゃってお腹空っぽなんです。ぐーぐーお腹がうるさいので、戦う前になんか食べるもの出して?」

「今から竜を襲うんだから、その肉を食べればいいじゃない」

「嫌ー! オル子さんはグルメだからトカゲの生肉なんて嫌ー! 出して出して出してー! ちゃんとした食べ物出してー! 食べ物くれないとやだやだやだ!」

「はあ……あなたって子は、いつもいつもいつも……」


 呆れ果てながら、アイテム・ボックスから干し肉や果物やらを与えてくれました。おいひー!

 よし、お腹もちょっとは満たされてきたし、準備オッケー。

 それじゃあさくっと――本当の蹂躙というものを教えてあげるわ。私たちが、お前たちの命を対価としてね……むしゃむしゃ、リンゴうまー!




 

 

9月1日、HJ文庫様より『ドルグオン・サーガ』という私の書いたライトノベルが発売されることになりました!

活動報告にその詳細や表紙イラストへのリンクなど記載しておりますので、もしよろしければチラリとでもご覧いただけると嬉しいですー! 

 

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