第七章 『がばんる!』←メイドちゃん“1”
遅くなりました。すみません。
働き先がなかなかに忙しく、まとまって執筆の時間がとれませんでした。
話があまり進んでおりませんが、気長に待っていただけると幸いです。
“1”ちゃんは頑張りすぎて空回りするタイプ。
“5”ちゃんは深く考えずに突っ込む脳筋タイプです。
“8”ちゃんは人見知りで甘えん坊です。
ふふ、メイドちゃんの可愛さにやられてしまうがいい……。
奇声をあげ、空気を貫き、その腕が有り得ない軌道と速度を持って迫りくる。
足裏に供えられたバーニア噴射によって後方に弾かれるように回避――しかし、その軌跡をたどるかのように、両手両足を叩きつけ、ヤツは着地の反動をそのまま横方向への推進力へと転化する。
連続してのバーニア使用は冷却の都合上使いたくはない――が、それを言っている場合ではない。悲鳴を上げるように歪な音を立てる足を叱咤し、更に方向を変えるべく起動準備をしたところで、ヤツの横手から重量級の斧が振り下ろされる。
“5”だ。相変わらず、隙を突くのが上手い。相手が方向を変えた直後、しかも空中にいる状態。攻撃速度の重さを補う為の特性、見切りの能力。先読みの能力。
発揮されれば、姉妹達の中でも破壊力は随一となり、それが必中の一撃ともなれば、相手が無事でいる道理はない。
だからこそ、その一撃を空中で身体をねじることで回避したヤツの反射神経には驚愕させられた。重量の斧が床を抉り、その破片が痛烈に撃ちすえるものの、直撃に比べれば程遠い。ヤツとしても、その一撃を回避することでこちらへの追撃までは手が回らなかったらしく、まるで獣のように四つん這いになり、その煌々とした瞳で一定の間合いを取ったままこちらを睥睨する。
近づいてきた“5”が謝罪の意を込めて頭を下げる。他の姉妹達もフォーメーションを組み直し、仕切り直しとなった。
初の実戦、というだけではない。この目の前にいる“ヤツ”は、今現在のデータベースには記載されていない。この基地が作られた時点でのデータ、ありとあらゆる魔物のデータはインプットされている。しかし、この化け物のデータは、どこを検索しても引っかからない。
今は辛うじて、その動きに近い魔物のデータを読み込むことで、追随を可能としているにすぎない。
世界は広い――いや、稼働してまだ日の浅い私達が言うのもおかしな話だが、事実、そう思わせるべきものがあった。
種族として、ヤツのことは知ってはいるが、そのデータが全て間違いではないかと思わせる程の能力を持っている。
獣の如き敏捷性、勘の鋭さ、反応の速さ。
どれをとっても桁違いだが、弱点とも言えるのは、その防具だろろうか。明らかにサイズ違いで、鎧に着られているというべきその装備は、明らかに自身の性能を一段階、いや二段階は落としている結果になっているだろう。
突くべきところは、そこだ。よくよくみれば、行動から行動へのつなぎが僅かに鈍い。
それが攻撃から回避となると更に鈍くなる。行動のベクトルが違うのだから、当然だが、恐らく“ヤツ”はこういったことに慣れていない。今は本能的に動いているが、いずれいやでも自覚しなければならない時が来る。
その為にも、動かせ続けなければ。姉妹達がいるなかで後手に回る必要などない。ここは、攻めあるのみ。
姉妹達に指示を出し、脚部に備え付けられたバーニア――ではなく、ローラーを使用して加速する。高速で“ヤツ”の脇を通り抜けると、その凶手を本能的に伸ばそうとするが、我々の方が圧倒的に小回りが利く。体格的にも――オリジナルには遠く及ばないのがこういう所で役に立つのが悔しい。
あの無駄ぼよよん、もいでやろうか。
いやいや。今はそこではない。手が届くか届かないか、そのギリギリのラインをはじきだし、そこからほんの少しだけ外を回る。“ヤツ”は本能的に動いている分、理性的に、届かないかもしれない、動いたら隙が出来る、という判断が出来ない。結果、無理にとらえようと振り回した腕に引っ張られ、大きく体勢を崩す結果になる。
なぜあのような動きにくい鎧を装備しているのか、不可解でならない。重量など邪魔だ。
必要なのは一撃で仕留める技量と切れ味、そして速さ。“5”は例外だが、他の姉妹達の武器はその理念に準じて作られている。そう、重量は邪魔なのだ。重いのは邪魔。
邪魔………邪魔………そう、アレは邪魔なのだろう。だから。
やはりあの無駄ぼよよんはもがなければ。
すれ違う瞬間、軽く向う脛を打ち付けると、かくん、と大きく前のめりになる。表情こそ変わらず愉悦に浸り、狂気じみたものを感じさせるが、額には汗が吹き出し、息も荒い。
元々『魔』に属する種族たちはその干渉力の高さを得る為にその他の機能を極端に制限している傾向が強い。制限と言うよりは犠牲と言った方が正しいだろう。文字通りその他の機能を“犠牲”にすることで干渉力を得る“契約”をしているのだ。
データ通りの種族なら“ヤツ”も同様の干渉力を備えており、その干渉力さえもってすれば、まじっくぶれいかーなどと言う玩具など問題ないはずなのだが……。
ちらりと視線をオリジナルに向けてみれば、そこでは我がご主人様呼びとめられた“8”が憎々しげに(表情変わらず)、無駄ぼよよんを睨みつけていた。
絶対☆もぐ♪
べきなのだ。あんなものは。
ごほんごほん。
ごほごほ……『魔』に対する対抗手段は整っているが、起動してからまだ間もなく、完全な慣らしが終わっているわけでもない。いざそのときになって不具合が怒らないとも限らないし、その可能性が僅かでもある以上、万全を期しておかなければならない。
我がご主人様、我が姉妹達の安全を守るのが、“1”たる私の役目なのだ。そうして全てを滞りなく行えば、きっと我がご主人様は褒めて下さるに違いない。撫でて下さるに違いない。ほおずりとかしてくれたら飛びあがってしまうだろう。
……うふぅ。
……は、いかんいかん。変な妄想に取りつかれてしまう所だった。じゅるり。
“2”“3”“4”、最初は私だぞ。なに、横暴? それは間違いだ。
む? 仕留めた者が優先権? ほう、それは私に勝つということか。よいだろう。未だお前たちは私に及ばないということを思い知らせてやろう。
あ、まて“5”!! 抜け駆けはルール違反だぞ!!
ああっ、“6”“7”、お前たちもか!?
い、いつも、私の言うことを聞けと言っているだろ!
あ、うう、うぅ。
うぅぅぅううぅぅぅぅ~~っ!!
ず、ずるいぞ! わ、私が最初だからなっ!! なんだからなっ!!
自分の武器を掲げ、姉妹に後れをとるまいと、私は突撃を開始したのだった。
遅くなって済みません。なんとか二か月経過する前に投稿できました。お待たせしました。茨陸號です。
シリアス戦闘シーンにも着手。え? シリアスと違う?
ははっ、……そんな馬鹿な。シリアス戦闘シーンとはこういうものではなかったのか……!?
と、投稿前にふと気付いたのですが。初めて彼が突っ込んでない!!
……いかん。これはいかん。このツッコミ小説の中で、彼が突っ込んでいないというのはアイデンててーに関わることになってしまう。
これは由々しき事態……
なので、ここで一つツッコんでもらいましょう!! どうぞ!!
「いや、ツッコみたいわけじゃないからね?!」
そんな、またまた。ツッコミそのもののくせして。
「なんだよツッコミそのものって!?」
では。作者の茨陸號と、主人公のツッコミが後書きをお送りいたしました。
「だから違うって言ってんだろ!? というか僕の名前は……!!」
ではでは。