第5話 水の場所と掘る力
生活するには、まだ足りないものがある。
水を手に入れるために、そして精霊を理解するために。
シュンは一つずつ、できることを増やしていく。
できたばかりの家は、まだ空っぽだった。
壁もある。屋根もある。
だが、それだけだ。
生活するには、足りないものが多すぎる。
「……水がないな」
シュンは小さく呟いた。
外から運べば済む話だが、それを毎回やるのは現実的ではない。
「やっぱり不便だよね」
アイラが困ったように笑う。
「ああ。料理するにも、いちいち運ぶのは面倒だ」
シュンは腕を組み、しばらく考えたあと――
ふと、思い出したように口を開いた。
「……そもそも」
「うん?」
「お前ら、何人いるんだ?」
一瞬、静寂が落ちる。
そして、すぐに騒がしくなった。
〈ライオス〉「は?今さらかよ」
〈ノクス〉「理解が遅い」
〈フローラ〉「説明してなかった」
「してないだろ」
思わず返す。
「勝手に喋ってるだけじゃ分かるか」
少しの間のあと、順番に声が響く。
〈ライオス〉「ライオス。炎。燃やす」
〈フローラ〉「フローラ。植物。育てる」
〈ガイア〉「ガイア。土。形を作る」
〈ノクス〉「ノクス。影。隠す、読む」
〈シルフ〉「シルフ。風。流れを動かす」
「……なるほどな」
ようやく整理される。
それぞれ役割がある。
だが、ひとつ足りない。
「水は?」
その問いに、わずかな沈黙が流れる。
そして――
「……あるわ」
静かな声。
初めて聞く声だった。
「誰だ」
「呼べばわかる」
短い返答。
シュンは少し考えたが、水がないのは困る。
「名前は?」
「……アクア」
迷いなく呼ぶ。
「アクア」
空気がひんやりと変わる。
目の前に現れたのは、淡い光をまとった少女だった。
〈アクア〉「初めまして」
「水、出せるか?」
〈アクア〉「できる」
地面に手をかざす。
じわりと水がにじみ出る。
「……出たな」
確かに水だ。
だが――
「これじゃ足りない」
〈ライオス〉「出てるじゃねえか!」
〈ノクス〉「持続性がない」
〈フローラ〉「毎回呼ぶの?」
その通りだ。
1日1人しか呼べない。
水のために毎日使うのは非効率すぎる。
「……井戸だな」
「いど?」
「地下の水を使う」
シュンは地面を見る。
「アクア、この下に水あるか?」
〈アクア〉「……ある」
少し間を置いて答える。
「深さは?」
〈アクア〉「それなり」
「十分だ」
シュンは頷いた。
「今日はここまでだ」
「え?もう?」
「明日やる」
今日はアクアを使った。
明日は――ガイアだ。
1日1人。
この制限がある以上、分けるしかない。
「段取りが大事だ」
シュンは小さく笑う。
その時だった。
アイラが地面を見て、手を止める。
「……あれ」
「どうした」
「ここ……ちょっと冷たい気がする」
シュンは一瞬黙る。
〈アクア〉「感じてる」
〈ノクス〉「近いな」
〈フローラ〉「やっぱり変」
見えていないはずなのに。
だが、確かに何かを感じている。
「……まあいい」
今は深く考えない。
やることは決まっている。
井戸を作る。
それだけだ。
次の日。
朝の空気は昨日よりも澄んでいた。
「今日は井戸作るんだよね」
アイラが少し楽しそうに言う。
「ああ」
シュンは短く答える。
場所は決まっている。
昨日、水があると確認した地点。
「……ガイア」
名前を呼ぶ。
空気が重くなる。
地面がわずかに震える。
大きな男が現れる。
〈ガイア〉「任せろ」
その一言で、十分だった。
シュンは地面を指す。
「ここを掘る。まっすぐ、深く」
〈ガイア〉「いいだろう」
足元の土が動く。
音もなく、だが確実に削られていく。
まるで最初から空洞があったかのように、綺麗に掘り進められていく。
「……すごい」
思わず呟く。
人の力では到底できない作業だ。
「ほんとに……すごい」
アイラも見入っている。
やがて、深さが増していく。
そして――
じわりと、水がにじむ。
「……来たな」
さらに掘る。
水が溜まり始める。
「これでいい」
〈ガイア〉「まだ浅いがな」
「十分だ」
シュンは頷く。
完全な井戸ではない。
だが、使える。
「……できたな」
ぽつりと呟く。
水はある。
生活できる。
それだけで、十分だった。
「これで水困らないね」
アイラが嬉しそうに言う。
「ああ」
シュンは軽く息を吐いた。
生活が、形になり始めている。
その時――
〈ノクス〉「順調すぎるな」
〈ライオス〉「つまんねえ」
〈フローラ〉「いいこと」
いつもの声が響く。
シュンは小さく笑った。
「……これくらいでいい」
静かな生活。
それが今の目標だ。
だが――
右手を見つめる。
この力がある限り、そう簡単にはいかない気もしていた。
読んでいただきありがとうございます。
ついに井戸が完成し、生活基盤が整いつたあります。ここから本格的なスローライフが始まります。続きをお楽しみください。




