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穏和

 東京は今日も雨だったが、石川は曇りだった。しかし、雨粒が降っていないというだけで、重たげな鈍色の空気は変わりなかった。市街地を離れた所では、平地の削り残しのような、標高300mにも満たない小さな山の頂上が隠れるほど、雲は低く垂れ込めていた。

 改札を出てから、鹿嶋に到着したことを伝える。すると、西口のロータリーにいるという返事が来た。続けて、駅の地図と車からの写真が送られて来る。それを見ておおよその位置を把握しながら、相変わらず気の利く男だと思う。

 天井を見回して、案内板を探す。西口と案内されている方を眺めると、鹿嶋が送ってきた地図にあるように、どうやらあの鼓門とは反対側らしいことが分かる。鹿嶋には少しばかり待ってもらって、折角久しぶりに金沢に来たのだから、鼓門を見に行こうと考える。

 そういうわけで、赤星は東口へと向かった。確かに今日は運良く降ってはいないが、梅雨にも関わらず人は多い。そのなかには外国人観光客の姿もある。人々は自由に、あらゆる向きに歩いていたが、赤星と同じ目的で東口へと向かう人の流れが最も強かった。

 赤星は、彼らは何故わざわざこんな時期に来たのだろうと不思議に思った。日本の気候に疎いのか、はたまた今は穴場なのだろうか。

 門を写真に収め、しばらく眺めてから満足した赤星は、ようやく鹿嶋を待たせている西口へと向かった。

 駅の外へ出ると、一般車を含め、タクシーやバスが頻りに往来している様が目に映った。その光景からは、人の移動の激しさと、金沢の需要の高さが伺われる。鹿嶋は、空色のSUVに乗っている。赤星は、その姿を認めて近づく。お互いに目が合って、軽く手を挙げる。

 鹿嶋は長身の痩せた男で、きっちりとセンターで分けた短い頭髪も相まって、いかにも教師然とした見た目をしている。白のポロシャツを着て、群青色のスキニーパンツを履いており、彼の合理的な性格がよく表れている。

「将一くん久しぶり!」

助手席にいた蝶野瑠璃(今は鹿嶋と結婚したから、鹿嶋か)が鹿嶋の後ろから顔をのぞかせる。

 彼女は、白地に水色の小さな花柄のトップスを着て、白いレースのスカートを履いて、上着にジーンズのジャケットを羽織っている。

 赤星とこの2人の再会は、彼が大学院の2年の時にあった大学の国語教育研究大会以来のことだった。

 その頃の記憶に照らし合わせてみても、2人の外見はさほど変わっていないような印象を受けた。その理由の1つは、4年間慣れ親しんだ思い出の補正があったからでもあり、もう1つは赤星が他人の外見にあまり興味を持っていないからでもあった。

 ドアを開けて車に乗り込むと、ほのかに消臭スプレーの爽やかな香りがした。

「久しぶり。それと、改めて結婚おめでとう。」

「ありがとう。ていうか将一くんもだよ。結婚おめでとう。」

「ありがと。てか、何で君らのが俺より遅いんだよ。」

 鹿嶋優人と瑠璃は、大学の2年の時から付き合って、4年の頃には同棲していたから、同じ学科のものは赤星も含めて、皆2人は卒業してすぐに結婚するものと考えていた。そうでなくとも、誰よりも早いだろうと思っていたのだが、実際には、赤星が最初という、予想外の結果となった。

「お金が貯まって、生活が安定してからしようって話し合ってたから。少なくとも最初の4年は厳しいだろ?お互いの勤務先が結構離れてたから。それで今になった感じかな。教師給料少ないしな。」

 鹿嶋は、冗談めかして笑いながら、赤星の質問に対する弁明をした。

「教師も大変だな。じゃ、店までよろしく頼むよ。」

「OK」

3人を乗せた車は、目的のディーラーに向けて、金沢城の方面へと走り出した。途中、近江町市場や東茶屋街の近くを通り過ぎた。

「将一その金のネックレス本物?」

「あ、それ私も気になる。」

「あー、これ?本物よ。成金っぽくていいやろ。」

「その感想はよく分からんけど。」

「すごー、本物の金初めて見た。」

3人で談笑していると、赤星の携帯が鳴った。

「あー。仕事の電話だ。」

「出て良いよー。」

「ありがと。」

「筑紫です。計画の最終確認のため、只今金沢に参りました。ご都合の良い時間にお迎えに参ります。」

「いや、その必要は無い。先に宿に向かっていてくれ。」

「承知いたしました。お待ちしております。」

「すまんね。」

「将一くんも忙しそうだね。」

「んにゃ、そうでもないよ。」

その後、赤星は結婚祝いと贖罪を兼ねた車の購入を無事済ませた。これで赤星は、心にあったわだかまりを1つ解消したことになる。

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