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哀の少女に光あれ①

いつの日だっただろうか数百年?数千年?


日や年を数えることもなく過去に俺であった私はどこまでも生きながらえていた。


 


過去に地球という惑星の日本という国で生きていた俺は、偶然にも交通事故により命を落とした。


年に3000人ほど交通事故による死者が出ていることを考えれば少なくない。


その可能性を引きに自分の肉体が吹き飛んだところで俺は新しい世界で目覚めた。


 


 


 


前世をもって。


 


TSして。


 


精神生命体になって。


 


 


 


 


 


うん。


分かるよ。過去の話過ぎて、どんな車種だったか忘れたけど俺を轢いたトラックにはきっと異世界転生機能がつけられてたんだね。


そして、もう何度も見た光景が自分の身に降りかかってくるともはや何も言えなくなるんだね。


 


うん。


分かるよ。俺が次の生で男として生まれる可能性なんてそんなに高くないからね。


異世界には無性の生物とかがかなりいることも分かって、もう女性として生まれ変わった自分は幸運なのではとすら思う。


一匹の生物が分裂するように増えたり、謎の魔力的なサムシングの力で増えたりしているのを見た時は心の底からよかったと思うことが出来た。


 


うん。


分かるよ。元の世界では事故で体がボドボドだったからね。


転移だったら仕方がない。


転生だったら肉体を付けてくれなかったことを恨みそうになるけど、この世界の人以外の種族だったとしたら……と考えると恐怖で眠れなくなる。


むしろ某ポ〇モンに出てくる自在に姿を変えて、『だーれだ?』のアイキャッチで有名な紫の奴みたいに自分の姿を好き勝手に作り替えることが出来るのはメリットといってもいい。


 


 


 


 


 


よし!最高のコンディションだな!!


 


ということで俺は私になった。


神様とかに転移をしてもらったというわけではない。


 


 


 


この世界の精神生命体は精霊とよばれ、自然界のエネルギーである魔力の沈殿や信仰などの様々な要素で生まれる面白生物だ。


物を触ることが出来ないが魔力によって発生させる魔法でこの世界に干渉することが出来る。


存在が希薄で見える人には見える。


実質幽霊みたいなもんだ。


 


私もその例にもれず、他の精霊たちと同じようにして生まれた。


 


最初は戸惑ったが数回年が流れれば自分の変わりすぎた体にも慣れ、数十回年が回れば地球で生まれた時よりもこちらの姿の方が過ごした時間が多くなり、百回以上回ればもう何も感じなくなった。


 


慣れというものはとても怖いものである。


しみこむように生物の嗜好を改変することが出来る。


私もその被害に遭ったのだ。実際に経験してよく分かった。


 


 


『あ~。なんか楽しいことないかなぁ』


 


 


そしてこの通り。


毎日が暇で暇で仕方がない精霊の誕生だ。


 


精霊という種族は空間に漂っている魔力や生物が体内に貯蓄している魔力を契約によって取得し存在を維持している。


 


だというのに精霊自身には魔力を生成できる器官が備わっていない。


空間に漂う魔力はよっぽど神聖な場所以外は低レベルの精霊を数匹生かす程度しか存在しない。


なので基本的に何かしらの生物と契約して、協力をする代わりに魔力を提供してもらうのがセオリーだ。


 


しかしながら私は数百年前にどこかの王や勇者、魔女とかと契約して、老後はバッチリだぜと言わんばかりの魔力をむしり取ってきたため、日銭を稼ぐように契約して労働をする必要はないのである。


 


最近は人間が技術を高めて、全体的にこの惑星上の魔力がなくなっているので他の精霊たちは苦労しているみたいだ。


それに比べて私には大量の貯蓄がある。


数百年単位で休みをとれるニート状態だ。


 


 


 


 


 


しかし毎日が休みと言えば聞こえはいいが中身はそうでもないのが現実。


結局何もやらないし何も進まないことが多い。


自分で何かをするような気も起きないので、なおたちが悪い。


 


人間の町をぷかぷかと浮かぶ。


 


『この国は十年ぶりくらいかな~』


 


つい最近まで隣国の芸術の都市とやらに足を運んでいたのだ。


そこで生み出されるさまざまな作品は素晴らしい。


私は精霊なので娯楽に多くの制限が付く。


物を触ることが出来ないということがどこまで私のストレスを加速させたことか。


食事はとれないし、本を読もうと思ってもページをめくるたびに魔法を使わないといけなくてとてもイライラする。


その点、演劇や絵画、彫刻、音楽なんかは変わらずに鑑賞することが出来て好きだ。


とても楽しい数十年だった。


 


だが残念なことにそれだけの歳月を重ねればほとんどの作品を見つくしてしまうのは道理であった。


国がいかにして芸術の街になったかの話をはじめ、どうすれば客が少ない時間帯に鑑賞できるかなどガイドをやらせれば右に出る者はいないくらいの知識量だと自分でも思う。


率直に言うと飽きたのだ。


名作は数年に一度生まれはするがそれもすぐに見終わってしまう。


なので百年くらい寝かしてからもう一度訪れようと考えたのだ。


そうすれば、十年くらいは楽しめる。


 


 


 


そういうわけで私は現在旅に出ているわけだ。


ふわふわと浮いていろんなところを見て回る。


 


 


そんなことをしていると、私の興味を引く屋敷があった。


 


『あのお屋敷見たことない。綺麗』


 


この間来た時には立っていなかった屋敷。


見た目や大きさからして貴族の物のようだ。


 


私は何の気なしに屋敷の方へと近づく。


 


すると屋敷の窓にだれかが映っているのが見えた。


 


キングサイズのベットに一人の少女がいる。


 


年齢が二桁に届くくらいであろうかというほどの少女。


髪は白銀で長く、それでいてつやがある。


目にはダイヤモンドのような輝きを詰め込んだように美しいが、少し影が差している。


病的なまでに白い肌は石膏彫刻の様。


生きていないのではないかと言いたいほど生気を感じない。


 


少し離れたところからそれだけの判断ができた。


 


私は窓に近づく。


覗き込むようにしてその前まで行く。


 


少女は虚空を見ているようだった。


現実ではないどこか。それを感じてしまうような気がした。


 


『これはこれは』


 


私は少女をしっかりと観察する。


上から下までゆっくりとみていくと、あることが分かる。


 


少女自身が纏っている魔力が小さすぎる。


 


この世界の生物は精霊に限らず魔力がなければ生きることが出来ない。


技術的な話ではなく生物学的な観点からだ。


人間などの生物は食事による栄養にプラスして魔力の保有で生きることが出来る。


 


そのため少女の魔力が少ないのは命にかかわるような問題なのだ。


さしづめ不治の病を患った哀れな令嬢といったところだ。


 


 


 


 


よし。次の百年まではこの子と暇をつぶそうかな!


 


私がこの子を魔力の不思議パワーで治して、その代わりに契約をしてもらって私の暇つぶしに付き合ってもらう。最高の計画だ。


 


そうと決まれば早速やってみる。


 


 


「さて、そこの幼子。顔を上げよ」


 


「……え?」


 


 


私の発した声に少女が気付き、窓の方に顔を向ける。


 


え?何だけ口調が変わってないかだって?


仕方がないんだよな―これが。


 


精霊は人間の言葉を話すことが出来ない。


これは私が覚えていないのではなくて根本的に可能ではない。


精霊は言葉を発する生き物ではないのだ。


 


 


なので思念を音の波として伝える魔法を利用して意思疎通を行わなければならない。


しかしながらその中で一つ問題が起きてしまう。


 


 


 


 


思念を伝えるだけの魔法の為、口調を変えることが出来ないのだ。


 


 


 


 


これが大問題。


どんな相手にでも高圧的な言葉でしか話すことが出来ない。


困ったもんだぜ。この魔法には。


 


 


 


「精霊様……ですか?」


 


少女はこちらの方をはっきりと見た。


 


「是である。やはり物分かりがいい童はよいな」


 


「あの!……何をしにいらしたのでしょうか?私の魂を主の元へ運ばれるのでしょうか」


 


おっと、天使か何かだと勘違いされては困るな。


 


「ふむ……私を白羽のサルどもと同列とでも?よほど貴様らはあの薄汚れた神とやらを好んでいるようだ」


 


少女の顔がさらに悪くなる。


心臓の鼓動が早くなっているのを私が分かってしまうくらい。


 


「!!……いえ」


 


「まあよい。その非礼はのちの働きによって不問にしようか、二度はない」


 


少女の顔が強張る。


慄然した表情が恐怖しているのを訴えかけてくるようだ。


 


 


私はリラックスできるようにできるだけ優しい笑顔を作る。


そして『いつでもあなたの隣にいるね』といった。


 


「私がここに来た意味……だったか。そうだな……貴様の命、それを貰いに来た」


 


「…………!!!」


 


 


 


目の色が白黒と移り変わっている。


そして、キュー――と擬音を発するようにして少女は気絶した。


 


 


 


 


 


 


 


 

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