理由
てっきり“自在術式”について聞かれるものと思っていたので、リオンは少しだけ言葉に詰まる。だが、すぐにエアリアの心遣いに気が付く。
(……気を使わせてしまったな)
そう、明らかに異質な魔術、いや、魔術と呼べるかも不明な代物に触れられたくないというリオンの気持ちを、エアリアは汲み取り敢えてもう一つの疑問の方を聞いてくれたのだ。
「どうした?」
エアリアは、複雑な表情をしているリオンに尋ねる。その理由もなんとなくだが分かってはいた。だが、人には触れられたくない秘密の一つや、二つはあるものである。だから、今回は聞かないこととした。
それでも、トムスの元を早々に立ち去ったのは聞かなければならない。自分の欲の為に、クローンを私的利用するような男だ。内通者である可能性は高いと、エアリアは睨む。
「なぜ、あの男の元を去ったのだ?」
なので、もう一度尋ねる。
「あの男へした質問の答えですよ。あの男は、魔王を恐れる必要はないと言った」
「それが何故、魔族と通じていないと言えるんだ?」
「取引や、交渉といった類のものは大体、下手に出る場合に行うものです。でも、あの男は魔王すら下に見ているような口ぶりでした。」
確かに、思い返せばトムスは、魔王や魔族に対しても自身が優位に立てるかのような話し方をしていた。魔物程度ならまだしも、マリーベートとかいう、あの魔族に対してはいくら海千山千の元老院議員だろうと、上手く立ち回ることは厳しいだろう。
「だから、魔王はおろか魔族とも会ったこともないと判断したのです」
「ブラフ……演技の可能性は?」
「声の調子が自然でしたから、その可能性はかなり低いと思います」
「そうか……」
それだけ言って、エアリアは陽が昇りかけている空を見上げる。街の喧騒が澄んだ空気の中に溶けていく。
そんな爽やかな空気とは裏腹に、エアリアの心は暗かった。内通者がいるというだけでも由々しき事態だというのに、その実態すら掴めないでいる。
そのうえ、他国で大暴れまでしてしまった。これでは王女殿下へ多大な迷惑を掛けてしまうだろう。
(これからどうすれば……)
だが、迷いを見せる訳にもいかなかった。何せ、エアリアが道を示さねばならない立場なのだ。隣の少年は、千年前からの来訪者なのだから。
「……とりあえず、彼女を送ろうか」
とはいえ、すぐに具体案が出る訳もなし、そばで二人の会話を眺めている少女を出しにしてしまう。
「ええっ!? ウチっスか?」
当然、話題を振られると思っていなかったカレンは、面食らってしまい素っ頓狂な声を出してしまう。
「それもそうですね。ずっとカレンには迷惑を掛けてしまったし」
リオンも、エアリアの胸の内を、知ってか知らずか賛成する。
「だったら、ウチの故郷へ連れて行ってもらってもいいでスか?」
カレンのこの言葉が、新たなる戦いの始まりだった。




