その男、元老院議員 part1
声と共に空間に門が出現した。
どうやらカレンが言っていた空間転移魔術のようだった。
「明らかに罠だろうが、どうします?」
リオンは振り返りながら、エアリアに尋ねる。
彼女も悩んでいるようで、その美しい顔に険しい表情が浮かんでいた。
「正直、行くのは得策ではない。だが、ここで手をこまねいていても埒が明かないのも事実だ。危険だがその価値はあるように私は思う」
リオンはそれを聞き、カレンに向き直る。
「カレンもいいかい? 何かあっても僕たちが必ず護るから来てほしい」
その言葉に力強く頷き、
「ハイ! お二人を信じているっス。 行きましょう!!」
そう言って、二人の先陣を切って歩き出そうとするカレンをエアリアが引き留める。
「護られる奴が先に行ってどうする。 私が先行する、君は真ん中だ。 リオン、殿を頼む」
言葉と共にエアリアが先頭に立ち、手にした剣を転移の門の中に突き入れ様子を簡単にだが探る。残る二人もその後ろから不安そうに眺めている。
「……うん、とりあえずは大丈夫そうだな。 ……じゃあ、行くぞ」
振り返り頷きあう三人。 エアリアが一歩を踏み出し、門をくぐっていく。
後ろの二人もそれに続き、リオンが門をくぐる前に周囲を確認するが問題は特に内容だった。
(さて、どうなるか……)
若干の不安を胸に潜り抜けた門の先は、様々な調度品が並ぶ大きな部屋だった。
その最奥に、豪奢な椅子に腰かけた初老の男がいた。
エアリアがその男に鋭い視線を向け、カレンはその後ろで小さくなっている。
「よく来たな、招かれざる者よ」
その口から聞こえてくる声は、先ほどのしわがれた声だった。三人に向けるその眼差しからは隠そうともしない敵意が刺すように感じられた。
「元老院議員のトムス殿だな。 この度はご迷惑をお掛けして申し訳ない」
エアリアも声色に鋭い敵意を隠さず、形式的な挨拶を“トムス”と呼ばれた目の前の男へ返す。
まあ敵と通じているかもしれない男に対して心からの敬意を示せと言うのも彼女の性格からして無理だろうが。
「ふん、心にも無いセリフは結構、それよりもなぜガランの騎士団長である貴様がなんの連絡もなくクウドの領内へ?」
それが分かっているのか、トムスはいきなり本題を切り出す。
「元老院の誰かが魔族と通じている疑惑がある。 その調査の為に極秘でやってきたのだ」
エアリアも隠しても無駄とばかりに、本当の目的を口にする。
その口調は形だけは丁寧だった先ほどとは違い、強い口調となっていた。
魔族と通じているかもしれない者を目の前にしているのだから無理もない話ではあるが。
「魔族と? そんなことの為に私の街にここまでの被害を出したというのか?」
トムスはエアリアの言葉に腹を立てたように、こちらを睨む視線をますます鋭いものにして語気を強める。
その彼の言葉には、他の者への思いやりの感情など一切含まれていない様子で、自身の利益のことのみを考えている口ぶりだった。
「そんなことではない!! そのせいでガランの領内の町に実際に被害も出ている。それを貴様は、自身の損得のみを考えているのか!?」
エアリアは、トムスが元老院議員だということも忘れたように激昂して、彼へ怒号を浴びせる。
自身が大切に想う、自国の民が実際に傷ついているのを目の当たりにしているのだから、目の前の男の言葉は、到底看過できるものではなかったのだ。
だが、それほど強い感情をぶつけられても、トムスはその灰色の瞳で三人を強く睨みつけながら、
「下らないな、貴様の母国がどうなろうとも、私には何の関係もない」
その言葉で、エアリアの想いを切り捨てた。




