最後のお願い
屋敷に入ってしばらく進むと、住人たちが何かを囲うようにして円状に並んでいるのが目に映った。よく見ると中央には村長の姿がある。どうやら罠を仕掛けてもいなかったようで、住人たちにあっさりみつかったようだ。
「お……落ち着くんだ! 君たち!」
「何が落ち着けだ! 自分一人だけ屋敷に引きこもった挙句助かろうとしやがって」
「そうよ! 解毒剤をこんなにため込んで! 住人の事を何だと思っているのよ!」
女性の住人が村長から奪ったバッグを掲げ叫んでいる。バッグには必要数以上の解毒剤を入れてあった。予想通りというべきか村長は必要数以上の解毒剤を持っていたにも関わらず誰にも渡そうとはしていなかったようだ。
「ち……ちがう! 後でみなに配ろうと!」
「何が後でよ! もう既に何人も亡くなってるわ!」
「俺の親父がよ……お前は生きろって言って自分の分の解毒剤を俺にくれたんだ……。それなのにあんたって人は!」
「何が村長だ! 俺たちから税金を搾り取ってその金で酒と肉を食ってるただの飯くらいじゃねぇか! ふざけるんじゃねぇぞ!」
どうやら住人たちも彼らなりに村長に対して不満を持っていたようだ。それがここにきて一気に爆発しているようだ。
「おい! 向こうに隠し通路があったぞ! 俺たちが後一歩来るのが遅かったらあそこから逃げるつもりだったんだ!」
「な……嘘でしょ!? 私たちを見捨てて自分だけ助かろうとしてたの!?」
「こいつは村長なんかじゃねぇ! ただの下種野郎だ!」
住人たちがあれやこれやと村長に対して罵声の声を浴びせ続ける。これにはさすがの村長も言い返す事ができないのか、ただたじろいでしまっている。
「まぁまぁ、皆さん落ち着いて下さいよ」
「き……貴様! 貴様さえいなければ……。皆! コイツが全ての元凶だ。さぁ今こそこの悪魔を! 呪いの子を! 私たちで始末するのだ!」
村長が俺を始末するよう声を上げるが誰も賛同する者がいない。当然だ。今ここで俺に逆らったとしても死ぬだけだ。何より今回の件で村長は完全に人望を無くしてしまった。最早彼の味方は誰もいないだろう。
「皆さん、村長確保に協力して頂きありがとうございます。最後に私から皆さんにお願いがあります。協力して頂ければ皆さんの体を治療しましょう」
住人たちは俺のお願いが何であるのかを息を呑んで静かに伺う。
「えー、ここに一本のナイフがあります。これで村長をグサッと刺しちゃってください。悲鳴を上げたら合格ですので解毒剤を差し上げます」
俺の提案に住人たちの表情が青ざめる。
「そ……それはさすがに」
「いくら村長があんなだからといって傷つけるなんて」
「あ、村長さんが死んじゃったらその時点でゲーム終了ですから優しくして上げてくださいね?」
住人たちの声を遮るように俺は村長を死なしてしまわないよう注意を促す。
「おや、誰も参加しないので? という事は村長さんと一緒に心中するという事でいいですか? それなら……」
「待て……俺がやる」
住人の中の一人の男が手を上げ、俺の願いに答えようと志願する。
「お、挑戦者はいましたか。それではどうぞお願いします」
俺は手に持っていたナイフを男の足元に向かって投げる。それを拾った男は、すかさずそのまま村長の元に駆け寄り、村長の足にナイフを突き刺した。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
ナイフを刺され村長が悲鳴を上げる。
「き……貴様! この私に……」
「あんたが……あんたが悪いんだ! あんたがスペンサー夫妻にあんな事をしなければ……」
男はナイフを引き抜き、それを手に持ったまま後すざりする。
「はは……俺は……俺はやったぞ! これで俺は自由だ! さぁ俺を解放してくれ!」
ナイフを投げ捨て男は俺の元に駆け寄ってくる。
「はい合格です。じゃあ解毒剤を差し上げましょう。あ……。あんまり俺に近づくとウイルスの症状が悪化しちゃうんでテーブルに置きますね」
俺は魔法のバッグから解毒剤を取り出し近くのテーブルの上に置き距離を取る。こんな状況になっても俺は念のために、自身の周りにウイルスを散布させている。ふとした心変わりで俺に向かって襲い掛かってきた輩を返り討ちにするためだ。とはいえ俺ではなく村長に向かって攻撃を仕掛けた時点でその可能性はなさそうだが。
「やったぞ! これで俺は自由だ!」
男はテーブルから解毒剤を回収し、そのまま外に向かって走り出した。
「さて、合格者が一人出ましたね。さぁ次はどなたですか? 早くしないと村長さんが息絶えてしまってゲームが終わってしまいますよ?」
俺の言葉を聞き、住人たちが次は我こそがとナイフに向かって群がり始める。見かねた俺はナイフを複数取り出し住人たちの足元に向かって投げ飛ばす。まさか人を傷つけるための武器をこうも取り合うとは。
「じゃあ村長さん。住人たちのために死なないよう頑張ってくださいね。良かったですね! 村長として住人たちのために役に立てるんですから!」
俺は村長に向かって満面の笑みを浮かべた。




