ゲーム
「ぐぅ……。何が真の宴だ! ゴンザレス! 今すぐこの男を殺せ! 殺してしまえ!」
村長が怒鳴るようにして俺を始末するよう指示を仰ぐ。
「何をしている! こっちは高い金を払っているんだ! さっさと動かんか!」」
だが当の本人も苦しみに耐えるので精一杯でとても動ける状態ではなかった。
「無駄だよ。あの大男もお前と同じ状態だからな。できる事は精々喘ぎ声を出すくらいだろうよ」
「貴様! ぐぉ」
大声を出す村長に激しい動悸が襲い掛かる。
「何故だ……。毒見もさせたし料理には何も入っていなかったはず……一体何故?」
何故自分の体調がこのような事になってしまっているのか分からない。食材の搬送こそ任せたものの、食材の調理自体は村の住人が行ったと報告を受けている。念のために毒見もさせ、料理に異常が無い事も確認した。それなのに何故といったところだろう。
「簡単な事だよ。スキルを使った。ただそれだけさ」
「スキルだと……。まさか毒物のスキルを……。だが一体どのタイミングで……」
たとえ毒物混入系のスキルを使ったとしてもいつどこで使ったのか?食材の調理は住人たちだけで行っている。味付けの確認も兼ねて、事前に味見をしておりそのタイミングでは彼らの体に異常はなかった。酒も瓶を開ける時に何か細工をした様子も見られない。そんな状態であるにも関わらず住人たちが一斉に体調の不良を訴え始めたのだ。村長は何が何だか全く分からない状態に陥っていた。
「難しい事はしてねぇよ。俺が壇上で挨拶しただろ? その時にスキルをただ発動させただけさ。食材や酒に細工をしたらバレる可能性があったしな」
「……馬鹿な……。食べ物や飲み物に細工をせずに……一体どうやってそんな事を……」
「ほら、昔いただろ? いつでもどこでもパンデミックを起こせるスキルを持った奴がさ」
俺の言葉を聞いた村長の目が大きく開かれる。どうやらここまで言ってついに俺の正体に検討がついたようだ。
「貴様! まさかスペンサー家の」
「そうさ! 俺がお前らに殺された両親の息子。アル・スペンサーだ!」
全員がまんまと俺の策にハマった以上、もはや俺の正体を隠す必要はない。声高らかに自分の名を明かす。
「アルだって! まさかあのスペンサー家の……」
「そんな……生きていたなんて」
「ぐぉぉぉ、そんな馬鹿な事が……」
俺の名を聞いた村の住人たちが苦しみながらもそれぞれ驚いた表情を浮かべている。本来俺はスキルを使えないようにされた上で厳重に監視されている存在だ。そんな俺がいきなり現れたとなれば驚くのも無理はないだろう。
「スペンサー家のガキが……。一体何のつもりで……」
俺のスキルによって体を侵されているはずだがよくしゃべる。まぁそれくらいの程度に調整をしたのは俺なのだが。
「簡単な事だ。お前ら、俺の両親に好き勝手やってくれたんだってな。よくもまぁあれだけの酷い事をできる。お前らは人の皮を被った悪魔だよ」
俺は怒気を込めて住人たちを非難する。
「悪魔……だと……」
「何が悪魔よ……。私たちをこんな風にして……」
当然、住人たちはそんな事を言われる覚えはないと俺に対して批判的な声を浴びせてくる。うーん、スキルの調整が甘かったのか思った以上に噛みついてくる。個人差があるのだろうか倒れている者もいるが、俺に対し野次を飛ばしてくる者も大勢いた。
「人の家に石を投げこんだり、魔法を打ち込んだりしたんだってな。お前らの嫌がらせのおかげで母さんは亡くなったって聞いたぜ。本当に……呆れて声もでねぇ」
「な……どうしてそれを」
「違うの! あれは村長が!」
「そ……そうだ。村長がやれって言ったんだ! 村の名誉に関わるからって」
「き……貴様ら! この私のせいにするか! 現に貴様らも……ぐぁぁぁぁ!」
今度は互いに責任の擦り付け合いを始めた。本当に救えない奴らだ。とりあえず減らず口を叩けないように魔力を込め、ウイルスの感染力を上げてやる。そうすると村長たちが胸を手で抑え苦しみ始める。先ほどまでの威勢はどこにいったのか、無駄口を叩くどころかただ悲鳴を上げるだけの存在になってしまった。
(っとマズイ。あんまり魔力を込めすぎるとやっちまう。そうなると楽しい宴が台無しじゃないか)
俺のスキル、ウイルス感染にかかればあのキマイラでさえ絶命させる事ができる。たかだか村の村長程度の相手ならば簡単に始末できるだろう。それでは面白くないし、何より俺の気が晴れない。もっと苦しめてやらなければ。
「まぁまぁ、村の住人同士仲良くしてくださいよ」
「ぐぁぁぁぁ! ゴンザ!!! 早くあのガキぁぁぁぁぁぁ」
最早苦しみで言葉さえまともに発言できないようだ。頼りにしていたゴンザレスも俺のスキルの前では無力だったらしく、うずくまって苦しんでいるだけだ。村長が雇った護衛共には住人たち以上に魔力を消費してウイルスを感染させてやった。彼らも立ち上がる事さえできないようだ。
「うえーーん。ママァァァ」
「いたいよぉ。苦しいよぉ」
「おね……がい。子どもたちは関係ありません。子どもたちだけは……」
そんな中、子どもたちを助けるよう母親らしき女性が懇願してくる。自分の身はどうなってもいいから子どもだけでもと
「うちの子も……うちの子も助けてください」
「俺の所のガキを……なぁ……頼むよ」
次々と子どもを助けてくれと村の大人たちが助けを乞う。
「はっ! 人の事は悪魔だの呪いの子だの言っておきながら、自分の子どもは助けてくれだと! ずいぶん都合のいい事を言いやがる! ふざけんじゃねぇぞ!」
俺がスキルを授かった日、周りは俺の事を好き勝手言ってくれた。彼らの子と俺、違いはいくつかあるが、人という種族で見れば同一と言ってもいい。だが彼らはそんな俺を人と見なさなかった。それどころか自分たちの保身に走り、一刻も早く処分してくれと言ったくらいの存在だ。甚だ図々しい。見捨てるのは簡単だがそれでは面白くない。だから彼らに俺はある提案をする事にした。
「まぁ俺も鬼じゃない。だからさ、ゲームをしようぜ。宴っていったらゲームはつきものだろ? 運が良かったら助かるかもしれないぜ」
元々、ただ死なせるだけなどと考えてもいなかった。もっと苦しんでもらわなければ。彼らにとってはこのゲームは助かるための一途の光になるだろうが、きっと楽しませてくれるだろう。
じゃあ始めようぜ。"辛くて苦しい死に方をしたくなかったら、解毒剤を飲まないとゲーム"をな!