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避難勧告

誤字脱字のある話があったため、一度見直し修正を行っております。

ご確認ください。

「何じゃおまえさんか。こんな年寄りを訪ねてくるなんてお主も暇じゃのう」


家に向かうと老婆が俺を迎えてくれる。


「まぁせっかく来たんじゃ。茶くらいしか出せんが入っていくといい」


俺は再びゴミ屋敷となっている老婆の家の中に足を踏み入れお邪魔する事にした。


「ほれ、この村"名物品"の茶じゃ。味わって飲むといい」


名産品という言葉を強調し、老婆は湯飲みに入れた茶を俺に出してくれた。どうやら村の茶葉を名産品として取り扱おうとしている話をどこから聞いたのか既に知っているようだ。


「知っていたんですね……。村の人たちにはまだ話していないのに」

「年寄りを舐めるんじゃないよ。これくらいの情報。手に入れるのはワシにとっては朝飯まえじゃわい」


茶葉を名産品にするという話は村長含め、村のごく一部の住人しか知らない情報だ。無論誰かが言いふらす可能性こそあるが、今日何人か住人と話したが知っている素振りを見せなかった。


「……この名産品とやらの話。仕込んだのはお主じゃろ? という事は……」

「ええ……今夜決行です」

「本当に良いのか? まだ引き返せる。今ならまだ……」

「もう決めましたから……。どれだけ修羅の道であったとしても俺はこの道を進みます」


この老婆は本当に俺の事を心配してくれているのだろう。母の最期を看取り、俺に様々な装備品を提供してくれた。この老婆には本当に感謝してもし足りない。


「……夜には宴が始まります。あなたまでその宴に参加する必要はありません。今すぐ村から離れてください」


俺が老婆に話をしに来たのは、村から避難するよう懇願するためであった。夜には村で宴が始まり、いよいよ俺の目的の第一歩が進む事となる。おそらく事が上手く運べばとてつもない事になる。それに老婆が参加する必要はないし、何よりこの老婆にこそ残りの生活を穏やかに過ごしてほしい。これ以上俺たち家族と関わり、負担を抱える必要もないだろう。


「ふぇふぇふぇ、何を言い出すかと思えば。お主の母が逝き、お主が村に帰ってくるまで粘った年寄りじゃぞ? 今更逃げるなんてしやしないよ。例えどんな結果になったとしてもじゃ」

「ですが」

「舐めんじゃないよ。例え火の中、水の中。村がどうなろうとワシは生き残って見せるわい」


こちらの警告に恐れる様子を見せず老婆は笑って見せる。俺としてはこの老婆には何としても避難してもらいたかったがどうやら退く気は一切ないようだ


「……無理やり避難させるという手もありますよ?」

「それができるならわざわざワシの所にこんじゃろ。まだまだ詰めが甘いのう」


これは一本取られた。特に考えることなく脅しの発言をしたがむしろ揚げ足を取られてしまった。


「むしろお主が村で何をしようとするのか……。それを見んと死んでも死に切れんわい」


どうやら老婆は避難などさらさらする気はないようだ。老婆からもらった道具の中には無理やり避難させる事ができそうなものもあるが、それを使っても無理やり避難させる事ができる気がしない。何せもらった道具は全て老婆が持っていたものなのだから。


「さて夜まで時間はまだある。ワシとしては避難どうこうの話をするより会話に付き合ってくれる方がありがたいんじゃがのう」

「……分かりましたよ。俺は言いましたからね。どうなっても責任はとりませんから」

「ふぇふぇふぇ、そうじゃのう。まずはワシが倒した魔物の話でもするとしようかのう」


老婆の要望に応え、俺は宴が開催される夜まで老婆の会話に付き合う事にした



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



気づけば、外はすでに夕暮れ、もう間もなく日が沈むであろう時間になってしまっていた。長々と老婆の武勇伝を聞かされ、心に来るものがあった。しかし話の内容が本当であればこの老婆は俺が思っていた以上にすごい人物のようだ。下手をするとスレインたちはおろか、俺の両親をも上回る強さを持っていた可能性もある。それほどの強さを持っているのならば、さきほど譲ってもらった道具一式を手に入れられたという理由にも納得がいくというものだ。


「……そろそろ時間じゃな」

「ですね」


二人していよいよこの時が来てしまったのかと腹をくくる。いよいよ宴が始まる。これが始まればもう後戻りはできなくなる。おそらく今日の一日で、俺、アル・スペンサーが進む道は大きく変わる。だがそれを俺は望んでいる。


「もう……避難するよう言いませんからね」

「精々見届けさせてもらうよ。お主がどう進んでいくのかをな」


老婆も俺の決意を受け取ったのか、ただコクリと頷くだけであった。


「それじゃあ……。お世話になりました」


別れの挨拶を告げ俺は老婆の家を後にし、村の様子を見に行く事にした。



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