宴の前の朝
村長と商談が成立した次の日の朝、村は大きく賑わっていた。村の住民があちこちで今夜開かれる宴の準備をしている。村長が住人たちに今日は村にとって非常に有益な祝い事があると大きく宣伝したからである。突然宴が開催されると聞き、住人たちは最初こそ戸惑いはしたものの、宴の開催に伴う費用は一銭も払わなくてもよいと聞き、完全に舞い上がっていた。そして主催者である俺は村長と約束した通り、夜開かれる宴の準備を朝から取り掛かっていた。具体的には料理に使うための食材の確保、酒の調達、設備にかかる費用の支払いなどだ。
村の住人たちには宴らしくするために、村のあちこちを装飾するよう依頼している。無論それによってかかる費用はこちら持ちだ。住人の中にはあまりにも好待遇である事に疑問を覚える者もいたが村長が心配ないと説明した事によって不安は払拭されたようだ。
そして俺は食材や酒を調達するために村長と一緒に別の町に向かう事となった。
「この町の酒や食材はうまいものが揃っていてですね。バートさんもぜひご覧になってください!」
「はは、メインは村の人たちですから俺の事は気にせず好きなものを購入してください」
「おお、勿体ないお言葉。それでは是非お言葉に甘えさせていただきますぞ!」
町につくやいなや村長は目を輝かせながらあちこちの店にいき、様々なものを注文する。遠慮という言葉がないのか、村長はそれなりに値段がするものを一切の躊躇もなく購入している。村長の態度に思わず苦笑いしてしまう。
(まぁ……いいか。楽しい宴になるんだからな……。これくらい安いものだ)
村長が購入した品を俺は持っていたバッグにつめる。俺が魔法のバッグを持っていた事に驚いてはいたが、これならもっと色々なものを購入できると喜びの表情を浮かべている。普通のバッグと違い、魔法のバッグはいくら素材を詰めてもパンパンにならないため、外を出歩く者にとっては非常に有用である。これがあれば食材や酒を大量に運ぶ事も苦にはならない。
「ふぅ、これであらかた食材をそろえる事ができたか」
村長は満足した表情を浮かべる。自分が食べたいものを見境なく購入する事ができたのだ。さぞご満喫だろう。
「バートさん。私は別件の用事がある。悪いが先に村に帰ってくれないか?」
「……用事ですか? もし人手がいるのであれば私もお手伝いしますが?」
「いやはや、それには及ばんよ。バートさんは先に村に戻って住人たちと夜の準備を行ってもらいたい」
手伝いを申し出るも村長に断りを入れられた。だがこれは俺にとってチャンスだった。食材を持った俺を一人で行動させるなど、仕込みを入れてくださいと言っているようなものだ。ちょうど試したい事があったため、一人きりになれる状況ができたのは非常にありがたい。俺は村長の申し出をありがたく受け取り、仕込みを入れた後に村に戻る事にした。
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「バートさんお帰りなさい」
「おお、これは見事ですね」
村に戻る頃にはすでに太陽が昇り、昼時になっていた。村も住人たちが朝から装飾活動に取り組んでいたからか雰囲気が昨日とはうって異なり、派手なものになっていた。
「もう少しで飾り付けは終了します。後はお料理を用意するだけです」
「村長さんから頼まれて食材を購入してきました。よければ使ってください」
俺は村長が購入した食材一つ一つをバッグから取り出し、住人たちに渡す。
「おっいい酒があるじゃねぇか! こりゃ楽しみだ」
「これ……すごく良いお肉じゃない! 普通じゃこんなの食べられないわ!」
村長が購入した品に住人たちも喜びの声を上げている。あの村長、こちらが費用を出すからなのか値段が高いものばかり購入してくれた。代金はダンジョンで手に入れた素材を代わりに渡す事で支払った。特に酒類はかなり費用がかかり、これまたジュエルビートルの角を渡す事となった。普段なら中々手に入らない素材だがスレインたちのおかげでまだ手元には角は何本か残っている。そのうち不名誉なあだ名がつけられそうだ。
「ではバートさん! 料理は私たちにお任せ下さい!」
「よろしいのですか? 何なら私も少しくらいならお手伝いを!」
「いいんですよ! 費用を負担してくださってるんですから」
「バートさんは夜までゆっくりして下さい!」
料理を手伝おうとしたが住人たちからはゆっくりくつろぐよう言われる。まぁさすがに見ず知らずの人間に料理させる事はさすがに抵抗はあるのだろう。ここまでくれば後は夜を待つのみである。だがそれまでに後一つやっておくべき事がある。
俺はそのやっておくべき事をするために、俺に道具を与えてくれた老婆の元に向かう事にした。




