事前準備
俺は老婆からもらった道具一式を魔法のバッグに詰めこみその場を後にした。老婆には可能であれば早くこの村を立ち去る用警告した。俺の復讐が始まればこの村では地獄の宴が始まるだろう。俺の母に最期まで献身してくれた彼女を巻き込む必要はない。ともあれ老婆の話していた内容を全て鵜呑みする訳にもいかない。俺は村の住人たちの家を回り、老婆の話していた内容が事実であったのか確認を行った。
確認したところ、老婆の話していた内容は事実であるという事が分かった。村の住人たちの間でも俺の家族についての話はタブーになっているのか、最初に話を聞こうとした時は何かを知ってそうな素振りこそ見せるものの、その内容を口に出して話そうとはしなかった。だがそんな彼らも金をちらつかせば、その口を簡単に開いた。
村の住人たちが言うには、俺の家族、厳密にはスペンサー家なのだが、俺がスキルを授かった日から両親は村の住人たちにとっても忌避される存在になったようだ。とはいえ、今まで同じ村に住んでいた者同士、スペンサー家の味方になってくれる者たちもいたのだが、村の長に脅され追い出されたものたちも何人かいたようだ。
そして村の長、この村のトップである村長がスペンサー家が村から出ていくようあの手この手を使ったようだ。スキル封じの腕輪をつけなければならないほどのとんでもないスキルを持った者がこの村から現れたとなれば村の汚点となる。そう考えた村長は何としてでもスペンサー家を村から追放したかったようだ。
だが俺の両親はどんな嫌がらせを受けても決して出ていこうとしなかったのだという。おそらく俺の帰りを待って……。二人とも出ていきたくなる状況に追い込まれてもひたすら耐えて、耐えて待っていてくれていたのだ。
だがそんな両親の思いも空しく母は亡くなり、父は行方不明、それを知った村人たちがお祓いを兼ねてスペンサー家を解体し、あのガレキの山が誕生したという訳だ。
そして今の村の住人たちには悩みが二つあるようで一つはさきほどまで俺が話していた老婆の存在だ。あの老婆は俺の両親に対して嫌がらせをしていた者たちに対してこっぴどく注意をしていたという。最終的には外から来た教会の手の者たちに取り押さえられ、スキル封じの腕輪をつけるという処置を施されたようだ。そして当然の如く村の住人たちは老婆を追い出そうとこれまたタチの悪い嫌がらせを行ったようだが、老婆もしつこく居座り続けているのが悩みの種になっているらしい。彼らは老婆を追い出す事は諦め、その存在を放置し、寿命で息絶える道を選んだようだ。
そしてもう一つの悩みは村の財政が中々厳しいという事を知る事ができた。とんでもないスキルを持った少年、呪いの子と呼ばれた存在、すなわち俺が誕生してから村の悪評が少なからず広まり行商人との交流がドッと減ったらしい。そのため金の流れが悪くなり、村の経済状況は非常に厳しく、このままでは村という形ですらなくなってしまうようだ。村長もあの手、この手を尽くそうとしているが中々好転せずにいるようだ。
とまぁ俺が住人から集めた情報を整理するとこんな感じだ。
しかしよくもまぁ好き勝手やってくれたものだと改めて思う。まるで村の経済状況が俺たち家族のせいだといわんばかりの態度をとっていた住人たちに対して本当に反吐がでる。思わず住人たちの目の前でスキルを何度も発動しそうになったが寸での所で何とか抑えた。あの時スキルを発動してしまったら後のお楽しみが無くなってしまう。さすがにそれは勿体ないだろう。
住人たちから情報を集めた俺は、村の宿屋で計画を練る事にした。人づきあいが苦手なので極力人を近づけないでくれと言い、お礼代わりに宿屋の主人にはダンジョンで取った適当な素材をくれてやったら大層喜んでいた。
「さてと、それじゃぁ計画を練りますか」
村の住人の悩みの一つ、経済状況の悪化、この部分を見逃す訳にはいかない。ここを起点ととしてまずは攻め込ませてもらおう。後は俺のスキルをどう扱うか? それと老婆から手に入れた様々な装備品、これらの中にも有用な物があるかもしれない。まず俺は老婆から得た物を品定めし、今回の計画で使える物がないか一つ一つ調べる事にした。
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「こいつは驚いたな……。あのお婆さん本当に何者だ?」
老婆から得た品はどれも優れた効果を持つものばかりであった。品の中には装備品の効果を鑑定する効果を持っているものあり、それのおかげで物の整理は簡単に済んだ。
「これとアレを使えば……。はは、何だよこりゃぁ! 最高の宴になりそうだな! おい!」
様々な道具があればそれだけ様々な案が思い浮かんでくる。これには笑わずにはいられない。
「まずは仕込みだな。村長さんには夢を見させてやるとしますか……」
俺は計画の仕込みをするために村長の家に向かう事にした。
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「おお。初めまして。私がこの村の村長を務めております」
「これは丁寧に。俺はバートって言います。しがない商人ですがよろしくお願いします」
俺は村長にバートいう偽名を名乗り挨拶を交わす。さすがにこの村の村長相手に本名を名乗る訳にはいかない。しかしこの村長、年齢こそ少し老けたが、体つきは全く変わっていない。俺の知っている村長は昔から肥満体質で、日々酒や肉を喰らう毎日を送っていた。この村長も昔は俺の両親と付き合いがあり、村長からの依頼を受ける事もあった。中にはモンスターを討伐した報酬を村のためにと両親が村長に寄付した事もあった。最も目の前の男の体型を見る限り、その金は村のためではなく、自身の身の肥やしとなっているのだろう。調子が良い時は毎日宴を催している事もあったと村の住人から聞いていた。
俺の両親の好意を無下にして私欲を肥やし、自分に不利益になると分かった途端、手の平を返して両親を村から追放しようとした。とりあえずこの男には俺の開催するパーティの主役になってもらうとしよう。
「ところでバートさん、本日はどのような御用でこの村に?」
「実はこの村の茶葉を我が商会で取り扱わせて頂ければと思いまして」
「おお、左様でございますか! 恐れながら、私共もこの村の茶葉には自信を持っておりまして。きっと他の方にも気に入って頂けると思いますよ!」
この村の茶葉は名産品とまではいかないが、正直かなり良い味が出ている。それを利用し、俺は茶葉を取り扱わせて貰えないか村長に交渉を持ちかけた。無論商人であるなどというのは嘘である。ただ村長をその気にさせるには都合がいいため職業を偽ってるだけだ。
「それで……その……費用の方はいかほどで?」
おっと、さっそく村長は費用の話を持ち掛けてきた。
「今ちょっと持ち合わせがないのですよ。代わりといっては何ですが前金としてこれでどうでしょうか?」
俺は魔法の袋からある素材を取り出す。
「おお、これはジュエルビートルの角! これほどの素材を私めに!?」
「前金代わりに受け取ってください。この後茶葉を用意して頂ければ、この素材の十倍分の金額を用意します。いかがでしょうか?
「おお! ぜひとも! ぜひとも! 何も問題ありません! 是非契約させてください!」
普通ならば生産率についての話などをするのだが、この村長はそんな事を何も考えず、目の前に置かれた素材にただ目を奪われている。どうやらそれほど頭の方は良くないようだ。とはいえこちらも細かいやり取りをいちいちやる必要がないのでありがたい。どうせ彼にはこの後というものがないのだから。
「そしてささやかながら、私から村の方々へお送りしたい品があるのですが……。もし可能であれば明日の夜にでも宴を開かせて頂けないでしょうか? もちろん準備やそれにかかる費用は私が用意しますので」
「おお、それはありがたい! 是非お願いしたい」
村長はまるで警戒する素振りも見せずこちらの提案を了承する。この男は酒と肉を喰らえればそれでいいのだろう。あまりにも事が上手く運び過ぎて気味が悪い気もするがまぁ問題ないだろう。
「それでは明日の夜を楽しみにお待ちください」
「うむ、茶葉はその時に用意しておこう。村の住人には私から声をかけておこう」
商談成立だ。本当ならすぐにでも行いたいが少し準備がいる。今から取り掛かると間に合わない可能性がある。まぁ一日延びたところで問題ないだろう。表向きは茶葉が名産品として認められ、村の財政回復の記念すべき第一歩パーティといった所だろう。だが実際は違う、これは第一歩でも俺の第一歩。すなわち復讐の第一歩なのだ。